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30. 川遊びとバーベキュー(後編)

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昼ご飯の後は自由時間だ。
せっかくなのでプールの方にも来てみた。
ここは普通の25mプールの割にけっこう浅い。
立つと腰から胸辺りが水の外に出るぐらいだ。
そのせいか、ほとんど人はいない。
(これなら泳いでなくてもよさそうだ)
プールに仰向けになって浮かぶ。
そのまま空を眺めているといろいろ考えてしまう。
(俺は誰が好きなんだろう)
好きかどうかだけでいうなら、
山本さんも島村さんも大木さんも佐々木さんも好きだ。
斎藤さんもどちらかと言えば好きだ。
もしこの中の誰かと付き合えるなら喜んで付き合うだろう。

でも誰か一人に絞れと言われたらきっと出来ない。
優柔不断といえばそうなんだけど一応理由がある。

よく小説とか漫画とかで、
一途に相手を思い続けてアクションをひたすら取って振り向いてもらうというエピソードがある。
すごく感動的な話だと思うしあこがれる。
ただ一つ思うんだ。
この話は最終的に相手が振り向いたから成り立つのではないだろうか?

例えば誰か一人に絞れば俺も間違いなく上記のような行動に出る。
でももしそれで振り向いてもらえなかったらどうするのか?
ずっと続ける?
それはただのストーカーでは?
(この時代にはそんな言葉ないけど)
諦める?
でも

正直、犯罪者 or 犯罪者予備軍にしかならないと思う。
なによりそんな恐怖を好きな子に味合わせたくない。
山本さんに告白しようとしているのも、
山本さんが俺を好きという話を聞いたことが大きい。

でもこんな気持ちで交際を申し込んでいいのだろうか。
断られたら次って感じで告白するものじゃないよな。

「難しい顔してるね」

佐々木さんが俺の顔を覗き込んできた。
バーベキューの時と違って何も羽織っていないので、
つい胸に視線を向けてしまう。

「どこ見てるのかな?」
「え、あ、いや、いろいろ考えることがあって」
「大変だね」

視線についての追求はなく、
佐々木さんも横になって浮かび始めた。

「そんなに気をはらなくていいと思うよ」

俺の心を読んだかのような発言を聞いて、
思わず佐々木さんの方を見てしまう。

「全部自分であれもしないと、これもしないと、って思ってると失敗するよ」

今考えていたこととは別の話だったけど興味深い言葉だった。
(そんな風に見えるのかな?)
眼の前のことを必死にこなしていて、
先のことなんて考えていたつもりはなかった。

「他人にも責任を分けてね」
「ありがとう、気にしてくれて」
「真紀が探してたから行ってあげて」

佐々木さんは浮かんだままだ。
きっと真紀のために俺を探していたんだろう。
で、なにか悩んでそうだったから助言してくれたのかな。
(佐々木さんにもいつも助けてもらってるなぁ)

プールから上がって川辺に戻ると真紀が駆け寄ってきた。

「どこ行ってたの?」
「プールでちょっと」
「食べてすぐは危ないよ、せめて誰かと一緒じゃないと」
「ごめん、気をつける」
「うん、気をつけてね」

弾んだ声で返事が返ってきた。
(心配してくれてたんだ)
真紀にも佐々木さんにもお世話になってるな。

「今はみんなでボールで遊んでるよ」

そう言われて川辺の方を見てちょっと不安になった。
(遊んでる場所らへんってけっこう水流強いよな?)
下流でフォローに回ったほうが……、いやさっきも佐々木さんに言われたな。
責任は分けたほうがいいって。

「小西ー、その辺り水の流れがいきなり変化するから気をつけろよー」
「分かったー」

よし、これでいい。後は一応下流で待機しておくか。
動こうとすると真紀に手を掴まれた。
柔らかい感触にドキッとしてしまう。

「哲也くんはみんなで遊ばないの?」
「誰か一人ぐらい下流で待機してたほうがいいかと思って」
「なら私も一緒に行くよ」
「暑いからやめたほうがいいよ」
「でも哲也くんは行くんだよね?」

ズイッと顔を近づけて問いかけてきた。
このパターンは間違いなく引き下がらない。

「真紀は日傘を持っていくこと」
「哲也くんも同じだよ」
「でもそれだといざって時に動けないし」
「なら私の日傘に入ればいいよね」
「え?」

・・・

どうしてこうなった。
真紀と同じ日傘に入って下流の川辺に座っている。
(本当に恋人同士みたいだ)
楽しそうに話しかけてくるので嫌がられていないと信じたい。

「でね、恵子が」
「あっ!?」
「きゃっ!?」

上流で大きな声が聞こえたので、
とっさに川に入ってフォローの準備をする。

「手伝え!!」

小西の声で周りも動き始めた。
どういう状況かは分からないけどかなりヤバそうだ。
とりあえず帽子が流れてきたので回収しておいた。

小西と丸井が女子をそれぞれ抱きかかえて川辺に下ろした。
先生が慌てた様子で駆け寄るのを見て、
俺たちもにそちらに向かった。
二人とも特に怪我はなかったけど、
よほど怖かったようで震えていて声も出ていない。

どうも都築さんが足を取られてこけそうになり、
近くにいた真鍋さんを掴んで真鍋さんも体勢を崩し、
二人が流されそうになったらしい。
なんとかとっさに小西と丸井が抑えたけど、
二人分を支えるにはきつかったらしく、
「手伝え!!」となったとか。

「みんな呆然として動けていなかったな」
「そりゃいきなり人が流されたらね」
「俺一人だと一緒に流されてたな」
「そうだ、よく丸井は動けたよな」
「真鍋さんを助けるのは当然だろ?」

キリっとした表情で親指を立てている。
(殴りたいその笑顔)
いやいや、つい暗黒面に落ちそうになった。
イラっとするけどやってることは立派だ。
身を挺して恋人を守ったんだから。

……もし俺一人でカバーしようとしていたらどうなっていただろうか?
小西と丸井二人がかりでもきついのに、
さらに水の流れで勢いがついた状態で受け止めようとするんだ。
間違いなく俺も流されていただろう。
(佐々木さんの忠告がなければ死んでいたかもしれない……)
しかも下手すれば真紀も巻き込むことになった。
そうなったら後悔してもしきれなかった。

守られた真鍋さんはようやく少し落ち着いたようで、
魂を奪われたようにポーッと丸井を見てる。
恋人が危険から颯爽と救い出してくれたんだから、
惚れ直しても無理はない。
(って、ならもう一人は?)
都築さんの方を見ると、小西をひたすら見つめている。
目の中にハートマークが見えそうな勢いだ。
(これはワンチャンあるのでは?)
佐々木さんと都築さんどちらも良い雰囲気なんて、
これは査問委員会を開かないといけないな。

結局あの後は泳ぐこともなく帰ることになった。
行きと同じように真紀と隣の席だったけど、
疲れと車酔い防止のために寝てしまった。

・・・

ふう、いつの間にか寝入ってしまった。
おかげで酔ってはいないかな。
って何か肩に重みが?

隣を見ると真紀が俺の方にもたれかかって寝ていた。
(疲れてたのかな?)
泳ぐだけでも大変なのに川だと水の流れがあるからなおさらだ。
(それにしても……)
無防備に俺の肩にぽてっと頭を乗せているのはとてもかわいい。
横からしか見れないのが残念だ。

「そう言うと思って写真撮っておいたぞ」
「何も言ってないんだが?」
「目は口程に物を言う」

丸井がデジカメを構えている。
この時期はまだデジカメが出たてでクソ高い。
親の仕事を手伝ってようやく買ってもらったとか言ってた。

「ほら、これ見てみろよ」

デジカメの利点はやはり即座に画像を確認できる点だろう。
さっそく画像を見せてもらう。
そこには俺と真紀が頭を寄せ合って寝ている画像があった。

「熱愛シーンばっちり撮っておいたぞ」
「寝てる間にそれは反則だろ!?」
「島村さんの寝顔を欲しがったお前がいうことか?」
「うっ」

返す言葉もない。

「う、うーん」
「ほ、ほら、真紀が起きちゃっただろ」
「明らかにお前が叫んでるからだな」
「小西も覚えとけよ、査問委員会の要請しておくからな」
「俺が何をしたって言うんだ?」
「心当たりないってさ、どう思う丸井?」
「無知は罪である」
「都築さんの目、完全にハートマークだったぞ」
「ああいうのは一時的なものさ」
「俺も一時的なもので処刑されかかったけど?」
「俺は知らん」
「高木はフラグ立てすぎなんだよ」
「俺がそんなにモテる訳ないだろ」
「自己侮蔑という男子の病気には、賢い女に愛されるのがもっとも確実な療法である」
「まさに高木のための言葉だな」
「島村さんに治療してもらっとけよ」
「当人のいる前で言うことじゃないだろ!?」
「相変わらず楽しそうだね」

こんな感じで最後はあまり締まらない感じで終わった。
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