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2.中編

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「聖女様、ここだけの話ですが、この大聖堂にはあるマジックアイテムが封印されております。そのアイテムをお使いすればよろしいかと」

 サリエル卿からとても良いお話をいただき、早速案内していただきました。

 そのマジックアイテムは、ジュネイル王国の秘宝と呼ばれるもので、あまりに強力な魔力が込められているため、大聖堂の地下に封印されていました。

 大聖堂はすべて知り尽くしているはずでしたが、まさか祭壇の下に隠し階段があるとは思いもしませんでした。

「聖女様、こちらが王国の秘宝でございます」

 何と美しい宝玉でしょうか。
 私はサリエル卿から使い方を教えていただき、この宝玉を持って青年のところへ向かいます。

 青年は毎晩とある宿に泊まっていると聞いていましたので、すぐに居場所は分かりました。
 王国一の高級宿として名高く、一流の冒険者でなければ泊まることができない〈星降る黄金亭〉です。

 あの青年がいかに稼いでいるかが分かりますね。
 真っ当に稼いでいるとは思えませんが。

 その後、私は一人〈星降る黄金亭〉へ向かいます。

「そちらのお客様ですと、最上階のスイートルームに滞在されております」

 聖女の私にかかれば、部屋を教えてくれることなど造作も無いことです。
 と言いたいところですが、私も今や忌み嫌われた者の一人。フードを深く被り、青年の奴隷と名乗って部屋を教えていただきました。

 「トントン」と扉を軽く叩きました。

「お前は……また何の用だ? あれでも懲りてなかったのか? それとも何か? 俺の奴隷にでもなりたいのか?」

 一年ぶりに見た青年は、何一つ変わっていませんでした。後ろにいる奴隷の女の子たちは、娼婦のような服装をさせられ、体中は痣だらけ。
 何をされていたのかは私でも容易に分かります。

「まぁ入れや」

 青年が部屋に入れてくれました。
 今から何をされるのかぐらいは分かりますが、怖気付いていられません。

「ご主人様、また新しい奴隷ですか?」
「チッ。ったく、お前は何度言えば分かるんだ! 俺のことは勇者様と言えと言っているだろうが、このクズがッ!」
「キャッ! お、お許しください……ゆ、勇者様…………」

 あの時と変わらず、女の子に何度も手を上げています。
 私はその時、聖女というお役目を被ることを辞めました。

「貴様がここまでクズだとは思わなかったね。せっかく、あたしが呼んでやったというのに愚かな男だ」
「ッ!? お、お前は本当にあの時の女か……? だがよ、そこまで俺様に言ってタダで済むと思っているのか?」

 愚か者はベッドに立てかけられた剣を握り、あたしを殺そうとしてきた。

 だが剣を向けられたぐらいで、あたしは動じない。
 父に剣を教えてもらったからね。
 とはいえ相手は勇者の端くれ。
 真っ向からでは敵わない。が、だからこそあの宝玉を持って来た。

「あたしはケジメを付けに来ただけさ」
「ケジメだと? ふっ。言わせておけば、お前も奴隷にしてやろうかと思ったが辞めだ。今ここで死ねや、クソ聖女!」

 愚か者が剣をふり被って斬りかかってくると、あたしは手に持つ宝玉をかざした。
 その瞬間、目を瞑るほどの光りを放つ。

「クッ!? な、何だその玉は……?」
「愚か者に制裁を下す時がきた」
「制裁だと? てめえ、何様のつもりだ……」
「あたしは聖女様さ。ふ、今となっては元聖女かもしれないが、あたしの言うことを聞けない愚か者はクズさ。いや、虫けら以下のゴミでしかないね」
「ふっ……ふははは、ぎゃはははははッ!! 何をしたか知らんが、聖女の皮を被ったとんだ悪徳女だな。俺と同じ匂いがするぞ。だが、お前の方がよっぽどタチが悪そうだ。だからよ……今すぐ死ねやッ!」

「貴様はあたしの奴隷になるんだ」

 そう言い放った時、青年は頭を抱えながら悶え苦しみ始めた。

「――ぐ、ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁッッ!!!」

 相当苦しんでいるようだけど、ま、それもそうだろうね。今までの事は全て忘れて、あたしの言った言葉通りになるのだから。

「もはや貴様に人の資格など無い。家畜となってせいぜい地べたを這いずり回りながら生きるといいさ」
「わ、分かりました……」

 素直に言うことを聞いてくれるようになったね。

 あっ、いけません。
 つい昔の口の悪さが出てしまいました。
 この話し方をしてはいけませんと、よく神父様にも叱られていましたのに。

 この王国の秘宝は、というマジックアイテムです。
 私の願いを叶えてくれる、とても素晴らしいアイテムです。
 
「みなさん安心して下さい。あなた方はもう奴隷ではありませんよ」
「ど、奴隷から解放されたというのですか……?」
「ねえ、わたしたちの奴隷紋が無くなっているよ?」
「あの、わたしたちが好きにご主人様を、その……」
「ええ、もちろんです。私の奴隷になったとはいえ、私には必要ありませんので、あなた方の好きにして構いません」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、それでは私は失礼させていただきますね」

 その後、青年を従えた女の子たちは、自分たちの首輪を男の手足にかけ、毎日街を散歩するようになりました。

 街を歩けば石を投げられるのは当然の事、よって集って殴られ、踏みつけられては顔がパンパンに腫れあがり、人とは思えない顔になっていました。

 奴隷だった女の子たちに拷問された後、森に連れて行かれ、オークが持つ大きな金槌で頭を割られて生き絶えたそうです。

 青年は短い間ながらも私の言い付け通り、家畜として生きてくれましたし、文字通り最後は鉄槌が下ったのです。
 
 あぁ……何という高揚感でしょうか。
 なぜかすごくドキドキしてきましたし、これはクセになってしまいそうです。

「はぁ……」

 それにしても、この言葉遣いは疲れます。
 あっ、よくよく考えれば、私はもう聖女を演じる必要は無いはずです。
 せいぜい大聖堂でお祈りを捧げる時ぐらいでしょうか。

 もういっその事、ありのままの自分をさらけ出すのも悪くないですね。
 勇者には悪徳聖女と言われようが、気にする必要はありませんし。

 それでは早速……制裁を下しに行くとするか。
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