上 下
3 / 19

第二話 聖女からの神託

しおりを挟む
「「「「「天にまします我らの女神よ。 あなたの栄光を賛美し―・―・・」」」」」

 まるで声が天井から降って来るような感覚。
 見たところ礼拝の時間のようだが、老若男女問わず子供たちも多い。

 水浴びを終えた彼女が祭壇の前に立つと、礼拝に来た人たちが列を作り、順番に何やら声をかけ始めた。
 何を話しているのか、隣のおばあさんに声をかけてみる。

「すみません、ラーナさんは何を話されているのですか?」
「あんた神託を受けた事がないのかい? 月に一度、ああやって聖女様からありがたいお言葉をいただくんだよ」

 神託って神のお告げみたいなものか。
 どうせなら俺も受けてみようと、おばあさんの後ろに並ぶ。

『神託でスキルでももらえる設定か?』
『ばあさん青のカラコンとか、何気に細かい演出』
『かなり金かけてるな』
『エキストラはアジア人』
『子供たちは欧米っぽいよ』

 しばらくして、おばあさんの番がやって来たので、カメラを近づける。

「女神様はあなたの祈りに耳を傾けています。引き続きお祈りを捧げ、お布施を捧げ、最後に【長寿の壺】を買っていただければ、より健康に若く長生きする事ができるでしょう」

『これ何の悪徳宗教?』
『ばあさん、典型的な悪徳商法に引っかかるな!』
『お布施と壺ビジネス』
『あ、おばあさん騙されたっぽい』

「ありがたや、ありがたや。聖女様、本日もありがとうございました」

 おばあさんは壺を持って出て行った。
 コメントにある通り、悪徳商法なんて言わないよな?
 この世界では魔法という非科学的な現象を起こす事ができるんだ。
 きっとあの壺は本物だろうな。

 ようやく、俺の出番がやってきた。
 何を言われるのか気になりながらも、真正面にカメラを向ける。

『銀髪に青いカラコン似合ってるな』
『肌めっちゃ綺麗』
『何を言われるか期待』
『祭壇すげえ豪華だな』
『雰囲気が変わった』
『目を虚にする芝居w』


「トオル様の過去が見えます。あなたは最近、とても悲しい出来事がありましたね。あなたはクビだ、そう言われましたね?」
「……え? な、なぜ分かるのですか?」

『カメラマンの男、クビにされたの?』
『ユーザネーム@mitsuki106は仕事クビw』
『だから配信者になったんじゃね?』
『世知辛い世の中』

 う、クビにされた事を思い出してしまった。
 コメントをオフにしようとも変更できず、勝手に流れてくるからどうしても見てしまう。

「ですが、どの様な罪を犯そうとも女神様は許していただけるのです。あなたには幸せが待っています。そのようなあなたには、あの【幸運の壺】を買えば、今後の人生がより豊かになる事でしょう」

『幸運の壺w』
『全部同じ壺』
『カメラの男が何をやらかしたのか気になる』
『さすがに買わんやろ』
『欲しそうにしてるよ』

 そんな壺があればすごいと思うが、全部同じに見えるのは気のせいか?
 でもすごく欲しい。
 ただ、この世界のお金を持っていないから、あきらめるしかないな。

『あいつ買わなかったな』
『当たり前だろ。誰が買うんだよ』
『『『ばあさんwww』』』

 続いて向かったのは、大聖堂内にある食堂だ。
 たくさんのシスターがいる中、配給制で食事を受け取る。孤児院が併設されているようなので、子供たちもたくさん並んでいた。

『聖女の子以外は全員黒い修道服なんて不気味だな』
『聖女だから白とか?』
『階級じゃないの?』


 俺はそのまま彼女について行き、向かいに座って朝食を取る。
 朝は薄い野菜スープと硬いパン。
 昨夜もここで食べてさせてもらったけど、決して美味いとは言えないものだ。
 ま、ここでわがままを言ってはいけないだろう。

「「「神よ、この日の恵みを感謝し―・―・・」」」

 ここでは食事の前に祈りを捧げてから食べるのが習慣のようだ。
 ただ昨夜も思ったが問題が一つある。
 一時間経っても食べれないという、祈りすぎ問題だ。
 これではせっかくの温かい料理も完全に冷めてしまうし、隣から「ぐぅ~」と、お腹の音まで聞こえてくる始末。
 どうにかならないものか。

「この世界に平和をもたらす女神様、感謝いたします、セージョン」
「「「「「セージョン」」」」」

『セージョンって何?』
『アーメンみたいなものじゃないのか?』
『聖女ンwww』
『そういう事w』

 ようやく食べ始めた頃には十一時を過ぎて、硬いパンがさらに硬くなって、もはや鈍器に近い。
 冷めたスープに漬けながら食べ終えた頃には、すでに昼の十二時になっていた。

「十二時になりましたので、今から昼休憩を二時間取りますね」
「休憩中はいつも何をしているのですか?」
「まずはお食事をしてからお昼寝をするか、最近はゲイムをしてますね」
「え、食事ですか? 今食べたばかりなのですが……それにゲイム? あ、ゲームの事ですね」

『また食べんの?w』
『鬼ごっこなら捕まえられない』
『人狼かな』
『トランプとか?』
『チェスじゃね』
『乙女ゲー』

「それではまず、お食事を取りましょう。せっかくですから、街の流行りのお店に行きますね」

 さっき食べ終わったところだけど、なんて改めて言い辛く、とりあえず彼女について行く。

 初めて街へ来たが、大通りには異世界お馴染みの武器屋や道具屋、冒険者ギルドに様々な屋台が所狭しと並んでいた。
 何ともいい匂いが漂っているが、お腹はいっぱいなんだよな。

『セット凝ってる』
『金かけすぎ』
『金髪美女多しw』
『串焼き美味そう』
『武器屋の親父わろた』

「ここは世界で最も大きな国の王都ジュネイルという街です。美味しいものも沢山ありますよ。さ、着きました」

 彼女が入っていったお店は、お洒落なオープンテラスのカフェだ。

「いらっしゃいませ~。あ、聖女様、こんにちは」
「ご機嫌よう。本日は二人でお願いします」
「二名様ですね。それではご案内いたします」

 店員のバニーガールはコスプレに見えるが、どうやら兎耳は本物みたいだ。

『エキストラにしてはかなり多いな』
『カフェに剣と鎧の戦士w』
『マジで金かかってるよな』
『文字が異世界風』
『昼からバニーガールは新鮮』
『兎耳が自然に見える』

 ここまで視聴者は36名、出だしは好調だ。

「トオル様、ここのお店は何といってもドラステが美味しいのです」
「ドラステとは何ですか?」
「ドラゴンステーキです。最近は皆さんそう言っているのですよ」
「ご注文はお決まりですか?」
「はい、それではドラステプレートを二つお願いします」
「かしこまりました」

 しばらくすると、特大サイズのステーキプレートが運ばれてきた。
 塊のドラゴンステーキと野菜スープにグリーンサラダ、そして硬いパンだ。

「パンとスープはおかわり自由なんですよ」
「いつもこの量を食べているのですか?」
「そうですね。毎日同じぐらい食べてますね」

『ドラゴンという名のビフテキ美味そう』
『爆盛り』
『テンプレドラゴン』
『もはや大食い選手権』

 美味い! 何なら和牛と同じぐらい美味いが、一人前五キロはあるステーキは流石に多すぎるし、すでにお腹も一杯。
 彼女はバクバクとがっついているところを見ると、すぐにでも平らげそうだ。

「すみませ~ん」
「はーい! 少々お待ち下さいませ~!」
「あ、トオル様も替えドラしますか?」
「替えドラって、まさか……」
「追加のドラゴンステーキですね。追いドラやドラ増しとも呼ばれていますよ」
「いえ、もうお腹いっぱいなんですよ……」
「あら? トオル様は少食だったのですね。気が回らず申し訳ありません」
「いえいえ、こちらこそすみません。よかったらこれも食べますか?」
「よろしいのですか! それではいただきますね」

『替え玉』
『追いドラ』
『ドラ増しwww』
『大食い聖女王』
『ジャイアント聖女w』
『ギャルソナに勝てそう』

「ありがとうございました~」
「ふぅ~。お腹いっぱいになりましたね」
「すみません、俺の分まで払ってもらって」
「いえ、聖女割りがありますので安いものですよ」

 聖女の特別割り引きなんてものもあるのか。

「まだ時間はありますので、次は私の部屋に来て下さい」

 おぉ、ラーナさんの部屋に突撃できるのか。
 聖女の部屋がどうなっているのか楽しみではある。

『事故に期待w』
『ラーナちゃんの部屋だと……』
『ここからR指定』
『やっぱり乙女ゲーかなw』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛
ファンタジー
~キャッチコピー~ クソ憎っくき糞ゴブリンのくそスキル【性欲常態化】! なんとかならん? は? スライムのコレも糞だったかよ!? ってお話……。 ~あらすじ~ 『いいかい? アンタには【スキル】が無いから、五歳で出ていってもらうよ』 生まれてすぐに捨てられた少年は、五歳で孤児院を追い出されて路上で物乞いをせざるをえなかった。 少年は、親からも孤児院からも名前を付けてもらえなかった。 その後、裏組織に引き込まれ粗末な寝床と僅かな食べ物を与えられるが、組織の奴隷のような生活を送ることになる。 そこで出会ったのは、少年よりも年下の男の子マリク。マリクは少年の世界に“色”を付けてくれた。そして、名前も『レオ』と名付けてくれた。 『銅貨やスキル、お恵みください』 レオとマリクはスキルの無いもの同士、兄弟のように助け合って、これまでと同じように道端で物乞いをさせられたり、組織の仕事の後始末もさせられたりの地獄のような生活を耐え抜く。 そんな中、とある出来事によって、マリクの過去と秘密が明らかになる。 レオはそんなマリクのことを何が何でも守ると誓うが、大きな事件が二人を襲うことに。 マリクが組織のボスの手に掛かりそうになったのだ。 なんとしてでもマリクを守りたいレオは、ボスやその手下どもにやられてしまうが、禁忌とされる行為によってその場を切り抜け、ボスを倒してマリクを救った。 魔物のスキルを取り込んだのだった! そして組織を壊滅させたレオは、マリクを連れて町に行き、冒険者になることにする。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

処理中です...