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第四章 国難
その二十四 ルルティアの過去
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「まぁ、この大層な二つ名もルルティアが家を出た原因であることを思えば……大した意味はもたないのだがな」
誇るように名乗った先ほどの態度は面影もなく、アガラ―トは自嘲気味に零した。
その言葉の続きは……すぐにその口から語られた。
「貴様に話をさせるため、という名目で配下達を退かせはしたが……余は既に貴様を信用しておった」
「……!」
アガラ―トの目には、「何故だかわかるか」と問いかけるような挑戦的な――それでいて少し寂しげな光が浮かんでいた。
既に俺を信用していた、というその言葉の真意は未だ理解出来ないので素直にそう答える。
「うむ。まだルルティアがこの城にいた……幼少の頃を知らねば理解出来るはずもない」
その言葉に、俺は隣のルンへとチラリと視線を向けた。
少女を卒業した妙齢の彼女の顔には、普段の明るさはない。
代わりに師弟として生活していた頃滅多に見なかった哀愁が浮かんでいた。
彼女にとってもまた、その過去はあまり語りたくも、知られたくもないのだろう。
普段快活で明るいルンのことだ。
弱いところを見られたくないという思いも人一倍強いだろう。
アガラ―トの隣にいるレインも、そして第三王女の騎士もまた、歯噛みしていた。
「まず……これからする話はルルティアが王族であることを嫌った原因であり、また我々がルルティアを呼び戻した理由であり……外に漏れるようなことがあればダラン王国の存続が危ぶまれるものであると心得よ」
そんな風に言われた俺は、唾を飲み込み心構えを終えたうえで先を促した。
アガラ―トの言葉は言外に「他言無用である」と告げていた。
◇◇◇
事の始まりは、ルンがまだ幼い……それこそ自らが王族であるという意味を理解出来ない年だった頃。
彼女には二人の姉がおり、また兄弟はいなかったため、必然的に『王位継承権第三位』となった。
ダラン王家の歴史には女王も少なくなかったため、王と王妃の間に男が生まれなかったことは、全く問題視されなかったという。
現国王であるアガラ―トは、『騎士王』と呼ばれるほど武勇に長けていた。
また、彼は王族であっても発現することは数世代に一人と言われる『光属性』の適正も持っていた。
故に数々の戦で戦果を挙げるうちに、『光天騎士王』なる二つ名がついたのだとか。
彼は『光属性の魔法』と剣の腕をもって、『戦える国王』として名を馳せた。
過去の英雄の名前である『ジン』を名の一部として刻むほどに。
そして……ルンもまた、その属性を持っていた。
第三王女である彼女が、だ。
本来ならば祝われこそすれ、疎まれるようなことであるはずがなかった。
しかし、『光属性』というのは良くも悪くも、力を持ちすぎた。
戦力として、また歴史から生まれる権力として。
ルンはその性格から、王になる気など全くなかった。
しかし……『光属性』を『第三王女』が得たという事実には変わりない。
周囲の貴族はそれを褒め称え、崇めた。
彼女が『光属性』以外にも三つの属性を持っていたことが、更に拍車をかけた。
その結果……ルンの姉である第一王女ララティア、つまり事実上の次期国王はルンを恐れた。
貴族達がルンを持ち上げ、王位継承権の逆転の可能性を見出したためだろう。
父親が『光属性』保持者であったことも事態が悪化する一因と――直接でなくとも――なってしまった。
そしてララティアはルンを虐める様になり……ルンは元々好きではなかった王族の暮らし更にを嫌う、いや憎むようになった。
しかし、アガラ―トやその妻……王妃はこの姉妹喧嘩に気安く手を出すことはできなかった。
もし第一王女が感情に任せて妹を虐め、そして国王が虐められた妹、つまりルンの肩を持つような真似をすれば。
最悪……クーデターが起こる可能性があった。
ただでさえルンを国王にと考える貴族は多かったのだ。
本来王位を継ぐはずの第一王女がそのようなことをしたとなれば、更にルンを国王に推す者が増えることになる。
しかし当の第三王女には王位を継ぐ気は全くなかった。
さらに言えば興味があるのは武芸や体を動かすことで、政治には何の興味も示さなかった。
武力だけで王が務まるわけではない。
そういう国も無いわけではないが、少なくともダラン王国はそれだけでは次期王位継承者足りえない。
そしてまともな解決策も見いだせないまま時は流れ、ルンは王家を出た――とそこまで語ったところで、アガラ―トは深い後悔を目に宿し苦笑した。
「しかし責任が誰にあったかと言えば……間違いなく、ララティアと同じかそれ以上に余にあった。父としての務めも……王としての務めも果たせなかったのだからな。名前負けも甚だしい……」
その表情を見て俺は慰めの言葉を飲み込み、気になったことを尋ねた。
「こう言うのはなんだが、それだけならルンを探すフリをするだけで終わりだろう?何でルンを今更連れ戻す必要があったんだ?」
俺の言葉にアガラ―トだけでなくその隣のレインもぐっと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
ややあって王は慎重に口を開いた。
「そこまで見抜いておるか……そうだ。我々はルンをとって安全であっても窮屈な王族の暮らしに戻すか、そのまま好きに生きさせるかの二択で悩み、後者を選んだ。例え危険であっても。……魔獣に襲われ行方不明になったとすれば、他国もわざわざ探すような真似はせんだろうと、そう考えた。事実その通りでもあった。我々にとっての最善は、ルンを見つけ匿い、世間に出ない暮らしをさせることだったのだが……実際は逃げた先で本当に行方不明になってしまった。魔獣の死体が見つかったことから生きているだろうという希望をもって……調査を打ち切りにしたのだ」
そこで、アガラ―トは一旦言葉を切り、僅かな逡巡を見せて再び語り始めた。
「しかし……今から一年前。ララティアが病を患った」
その言葉に、俺は予想が当たっていたことを悟った。
誇るように名乗った先ほどの態度は面影もなく、アガラ―トは自嘲気味に零した。
その言葉の続きは……すぐにその口から語られた。
「貴様に話をさせるため、という名目で配下達を退かせはしたが……余は既に貴様を信用しておった」
「……!」
アガラ―トの目には、「何故だかわかるか」と問いかけるような挑戦的な――それでいて少し寂しげな光が浮かんでいた。
既に俺を信用していた、というその言葉の真意は未だ理解出来ないので素直にそう答える。
「うむ。まだルルティアがこの城にいた……幼少の頃を知らねば理解出来るはずもない」
その言葉に、俺は隣のルンへとチラリと視線を向けた。
少女を卒業した妙齢の彼女の顔には、普段の明るさはない。
代わりに師弟として生活していた頃滅多に見なかった哀愁が浮かんでいた。
彼女にとってもまた、その過去はあまり語りたくも、知られたくもないのだろう。
普段快活で明るいルンのことだ。
弱いところを見られたくないという思いも人一倍強いだろう。
アガラ―トの隣にいるレインも、そして第三王女の騎士もまた、歯噛みしていた。
「まず……これからする話はルルティアが王族であることを嫌った原因であり、また我々がルルティアを呼び戻した理由であり……外に漏れるようなことがあればダラン王国の存続が危ぶまれるものであると心得よ」
そんな風に言われた俺は、唾を飲み込み心構えを終えたうえで先を促した。
アガラ―トの言葉は言外に「他言無用である」と告げていた。
◇◇◇
事の始まりは、ルンがまだ幼い……それこそ自らが王族であるという意味を理解出来ない年だった頃。
彼女には二人の姉がおり、また兄弟はいなかったため、必然的に『王位継承権第三位』となった。
ダラン王家の歴史には女王も少なくなかったため、王と王妃の間に男が生まれなかったことは、全く問題視されなかったという。
現国王であるアガラ―トは、『騎士王』と呼ばれるほど武勇に長けていた。
また、彼は王族であっても発現することは数世代に一人と言われる『光属性』の適正も持っていた。
故に数々の戦で戦果を挙げるうちに、『光天騎士王』なる二つ名がついたのだとか。
彼は『光属性の魔法』と剣の腕をもって、『戦える国王』として名を馳せた。
過去の英雄の名前である『ジン』を名の一部として刻むほどに。
そして……ルンもまた、その属性を持っていた。
第三王女である彼女が、だ。
本来ならば祝われこそすれ、疎まれるようなことであるはずがなかった。
しかし、『光属性』というのは良くも悪くも、力を持ちすぎた。
戦力として、また歴史から生まれる権力として。
ルンはその性格から、王になる気など全くなかった。
しかし……『光属性』を『第三王女』が得たという事実には変わりない。
周囲の貴族はそれを褒め称え、崇めた。
彼女が『光属性』以外にも三つの属性を持っていたことが、更に拍車をかけた。
その結果……ルンの姉である第一王女ララティア、つまり事実上の次期国王はルンを恐れた。
貴族達がルンを持ち上げ、王位継承権の逆転の可能性を見出したためだろう。
父親が『光属性』保持者であったことも事態が悪化する一因と――直接でなくとも――なってしまった。
そしてララティアはルンを虐める様になり……ルンは元々好きではなかった王族の暮らし更にを嫌う、いや憎むようになった。
しかし、アガラ―トやその妻……王妃はこの姉妹喧嘩に気安く手を出すことはできなかった。
もし第一王女が感情に任せて妹を虐め、そして国王が虐められた妹、つまりルンの肩を持つような真似をすれば。
最悪……クーデターが起こる可能性があった。
ただでさえルンを国王にと考える貴族は多かったのだ。
本来王位を継ぐはずの第一王女がそのようなことをしたとなれば、更にルンを国王に推す者が増えることになる。
しかし当の第三王女には王位を継ぐ気は全くなかった。
さらに言えば興味があるのは武芸や体を動かすことで、政治には何の興味も示さなかった。
武力だけで王が務まるわけではない。
そういう国も無いわけではないが、少なくともダラン王国はそれだけでは次期王位継承者足りえない。
そしてまともな解決策も見いだせないまま時は流れ、ルンは王家を出た――とそこまで語ったところで、アガラ―トは深い後悔を目に宿し苦笑した。
「しかし責任が誰にあったかと言えば……間違いなく、ララティアと同じかそれ以上に余にあった。父としての務めも……王としての務めも果たせなかったのだからな。名前負けも甚だしい……」
その表情を見て俺は慰めの言葉を飲み込み、気になったことを尋ねた。
「こう言うのはなんだが、それだけならルンを探すフリをするだけで終わりだろう?何でルンを今更連れ戻す必要があったんだ?」
俺の言葉にアガラ―トだけでなくその隣のレインもぐっと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
ややあって王は慎重に口を開いた。
「そこまで見抜いておるか……そうだ。我々はルンをとって安全であっても窮屈な王族の暮らしに戻すか、そのまま好きに生きさせるかの二択で悩み、後者を選んだ。例え危険であっても。……魔獣に襲われ行方不明になったとすれば、他国もわざわざ探すような真似はせんだろうと、そう考えた。事実その通りでもあった。我々にとっての最善は、ルンを見つけ匿い、世間に出ない暮らしをさせることだったのだが……実際は逃げた先で本当に行方不明になってしまった。魔獣の死体が見つかったことから生きているだろうという希望をもって……調査を打ち切りにしたのだ」
そこで、アガラ―トは一旦言葉を切り、僅かな逡巡を見せて再び語り始めた。
「しかし……今から一年前。ララティアが病を患った」
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