上 下
14 / 38
第二章 冒険者

その十四 受付嬢は驚きやすい

しおりを挟む
 冒険者ギルドへ報告に向かう途中、数十人もの衛兵が門へ走っていく様子が見えた。
 森林狼を討伐したことを伝えておこうかと思ったが、後片付けも必要になるしゴンザさん達の説明で十分だろうと思ったのでやめておいた。


 冒険者ギルドの入り口を通り、まっすぐに受付へ向かった。
 既に依頼に出ている冒険者が多いのか、それとも俺が数時間前に殺気を振りまいたからか、ギルド内にはほとんど人がいなかった。



「依頼が終わったので報告に来ました」
「へっ!?で、でも、まだ依頼を受注してから半日も経ってませんよね?」
「??そうですが……それが何か?」

 そんな驚くことでもないだろうに・・・
(『主の見た目では驚かれてもしょうがないじゃろう』)
(『そうですね・・・相手の実力を見抜けるものなら驚かないと思いますが』)

「素材はここで出していいんでしょうか?」
「あっ、えっと……奥でお願いします」
「分かりました」


半信半疑の表情でカウンターの奥に進む受付嬢についていく。
そこは包丁やのこ、ナイフといった刃物がおいてある金属製の机が中央に存在している部屋だった。


「この上に出してください」

受付嬢が金属机を指す。


 言われた通りにヒルルク草、オークの肉、森林狼の毛皮を机にのせていく。


テイルがオーク肉を出した頃には受付嬢は目を丸くしてその様子を見ていた。


「や、やっぱりアイテムポーチですか……それにしても、これだけの素材をこの短時間で……」

ブツブツと小声で喋る受付嬢にテイルは声をかけた。


「あの、他にも報告したいことがあるのですが」
「はい?」
「王都の南門を出て東に進んだ先の森でこれらの素材を取ってきたのですが……そこでハイオークに遭遇しまして。そういったことは普通にあるのですか??」
「……ふぇ?ハイオーク?え、えっと……東の森ってことは、アルバの森ですよね……そこでハイオーク……??」


 あの森はアルバの森って言うのか・・・

 ハイオークが出るのはやっぱり普通じゃないみたいだな。

「よく逃げてこれましたね……証拠などはありませんか?」
「あー……えっと、逃げてはいないです」
「へ?」
「倒してきたので証拠ならありますよ」
「ふぇえ!?!」


 まぁさっきので驚かれるなら、これも驚くよな・・・


ハイオークの死体をアイテムポーチから取り出した。

「…………」


 あれ?もっと騒ぐかと思ったけど・・・

 
「Eランクで……ハイオーク討伐…でもそうよね……ギルドマスターとあれだけ戦ってたんだもの……」

受付嬢が常人ならば聞こえないくらいの声でブツブツと呟く。


「はい……ハイオークですね……ワカリマシタ‥‥」

 あっ、これ現実逃避中だな



「あーっと……他にも報告があるんですが」
「え……まだあるんですか?」

 そんなあからさまに嫌がらないでください


「この街に戻る途中、南門に五十匹以上の森林狼の群れが攻めてきていたので討伐しておきました」
「………え?」 

受付嬢が時間が止まったかのように目を見開いたまま硬直する。


「う、嘘ですよね……?五十匹なんてそんな……」
「あ、衛兵さん達にも手伝っていただきましたが」

「そ、そうですよね‥‥‥」
「森林大狼が群れを率いていました。ソイツを倒したら残っていた、多分十匹もいないくらいの森林狼は逃げていきました」
「………」


 この受付嬢よく固まるなぁ・・・
(『耐性ないのう』)
(『私はしょうがないと思いますが。少なくとも子供が倒せる相手じゃありませんからね』)


「え、えーっと……とりあえず、報酬はこちらになります。ハイオークの素材はギルドで買い取り、ということでよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「それでは……素材の状態の確認や鑑定、それと先ほどテイルさんが仰った森林狼に関しても確認しなければなりませんので、報酬はまとめてお渡しします。明日までには終わると思うので、明日またギルドに来てもらえますか?」

 明日の予定か・・・特にないな。

「分かりました」
「こちらは先払いになります」

そう言って受付嬢は五枚の銀貨を取り出した。
それはテイルが現在お金を持っていない可能性を考えての事だった。

「ありがとうございます」
「こちらこそ」


 報酬を受け取った俺は冒険者ギルドを出て教会へと歩いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!

宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。 前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。 そんな彼女の願いは叶うのか? 毎日朝方更新予定です。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...