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第一章 諦めたくないから
その三 魔獣血石
しおりを挟む目が覚めた時、既に太陽が沈み始めていた。
どうやらかなりの時間気絶してたらしい・・・
体が重い・・・
「――ッ!?・・・ハァ」
俺が身体を起こして周囲を見渡すと、俺の側に黒竜の体があった。
しかし、既にその身体には気配も無く、生気も感じなかった。
死体であってもびびってしまったのはしょうがない。迫力が凄いからな。
自分一人だけなのになんとなく言い訳しつつ、黒竜の頭に刺さっていた剣を引き抜く。
とりあえず食料が必要だから肉をとろう、そう考えて鱗の隙間に剣を差し込む。
既に死んでいたからか、鱗は思ったよりも簡単に剥がれた。
赤い肉が露わになり、俺はそこから少しずつ肉を剥いだ。
魔法で火を起こし、肉を焼く。
「旨い・・・」
ただ焼いただけだったのだが、黒竜の肉は今までに食べたことがないほど旨かった。
苦労して倒したかいはあったな。
いや肉のために倒したわけではないが。
黒竜から肉を斬り出しているうちに、黒竜の体の中から拳拳大の青い石が出てきた。
「魔獣血石・・・か?」
黒竜の体から出たのは、青色に淡く輝く半透明な石。
これは恐らく魔獣血石と呼ばれるものだ。
かなり上位の魔獣からしか出ない。
しかし必ず出るとは限らず、ただでさえ殺すことの難しい魔獣を何匹も狩らないと出ないと言われている。
これについて調べている学者の中には、特殊な環境下でのみ形成されると言う者や、この血石が血にその魔獣の力を籠めて石にしたものであることから、魔獣に認められた時だけその魔獣が自ら造る、と言う者もいる。
しかし、黒竜から出た魔獣血石は俺が知識として知っている者とは違った。
本来、魔獣血石はその魔獣の血の色になる。魔力を含む魔獣の力が籠められているとはいっても、元は魔獣の血だ。
にも拘わらず、黒竜からとれたこの石は青い。
一瞬黒竜の血が青いのかと考えてしまったが・・・そんなことはなかった。
考えられる原因としては、この島の環境だろう。
この島は魔力が通常よりも豊富であり、その質も普通の魔力と比べると異質だ。
「・・・これは食べていいものか」
魔獣血石には、ある特性がある。
それは、食べたものに石の持ち主である魔獣の力を与えるというものだ。
その割合は元の魔獣の一割と言われているが・・・正確なところは定かではない。
しかし、当然リスクもある。
魔獣の力を取り込めば、自分の身体が変化する。
身体が別のものへと変わるのだ。
そうなれば、身体中を激痛が襲う。
俺自身はまだ未経験だが、実際に経験した者曰く、「身体中を切り刻まれる」様な痛みらしい。
「・・・まぁ、強くなれるならいいだろう」
この普通とは違う血石を食べても、恐らく力は手に入るだろう。
覚悟を決めて口の中へ青色に発光している魔獣血石を放り込んだ。
石を噛み砕き、喉の奥へ押し込む。
「――ッ!!がぁぁぁッ!?!?ぐぁぁ!!!!」
飲み込んだ瞬間、身体中を激痛が襲った。
強くなるよりも先に死にそうなほどの痛みが。
痛い、痛い!!なんだこれは!痛い!!痛い!!!!ぐぅッ!!
体が熱い!!これが身体が作り変えられる感覚か!?
身体中が切り刻まれ、皮膚のあらゆる場所に針を刺され、火に包まれたような痛み。
どんな言葉で表せば良いのか分からない。とにかく痛かった。
あまりの激痛に悶えていた俺は、そのまま意識を手放した。
◇◇◇◇◇
意識がはっきりとしてきた時、既に日が暮れてかなりの時間が経ったようで、辺りは真っ暗だった。
(いや・・・普通なら真っ暗、だよな?)
起きてすぐ、視界がおかしいことに気づいた。
テイル自身、大して夜目が利くということはない。
暮らしていたのは山の中だったが、夜は家の中で寝るだけだった。
そもそも、テイルは火の属性に適正があった為、暗ければ火で辺りを照らせば良かった。
だが、今は火はつけていない。
にも拘わらず、辺りの様子が鮮明に見えるのだ。
それどころか、気絶する前よりも遠くまで見えた。
「まさか・・・これが黒竜の力か?」
その可能性が高い。
竜種は筋力だけでなく、鼻や目が利く者が多い。
それに、側にある黒竜の死体に匂いが前よりもキツくなっていた。
(間違いないな。これが魔獣から手に入る力、か・・・)
魔獣血石によって得られる力は、レベルとは関係なく自身の力を底上げする。
その量は、血石を持っていた魔獣の一割と言われている。
が・・・
「これ・・・一割、なんてもんじゃない気がするんだが」
明らかに黒竜の一割ではなかった。
テイルの魔力は跳ね上がり、前とは質が違うように感じていた。
身体も、前と比べると明らかに軽い。
試しに自分が今座っている岩を思い切り殴りつけてみると、岩が砕け散った。
「・・・は??」
自分が成したその光景に、テイルは唖然とするしかなかった。
テイルのレベルは99。常人に比べればその力は桁違いだ。
だが、岩を一撃で粉砕するような力があったわけではない。
そもそも、身体を鍛えてはいたがテイル自身、どちらかというと身軽なスピードファイターだった為、腕力はそこまで鍛え上げたわけではない。
目の前の岩を粉砕するような力は、異常と言うほかなかった。
さらに、テイルが岩を殴りつけた時、テイルの拳が痛むことはなかった。
大した抵抗もなく、まるで岩が勝手に砕け散ったかのように感じた。
「ははは・・・これなら、前よりは戦えるかもな」
強くなったことは、素直に嬉しい。けどこれでまた黒竜が来ても勝てる、とは思えないなぁ。
事実、今の状態でも黒竜の方が上だ。
少なくとも、慢心していいほどの力があるわけではない。
「いや、どれだけ力があっても慢心は駄目だな。ルンにも教えてたことじゃないか」
しかし、強くなれたことも事実だ。
これなら、前よりは戦いやすくなる。
「さて・・・わざわざこんな所に来たんだ。これで帰る、ってわけにはいかないな」
顔に子供のような笑みを浮かべながら、テイルは島の中心へ向かうことに決めた。
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