上 下
3 / 38
第一章 諦めたくないから

その三 魔獣血石

しおりを挟む

目が覚めた時、既に太陽が沈み始めていた。
 どうやらかなりの時間気絶してたらしい・・・
 体が重い・・・


「――ッ!?・・・ハァ」

俺が身体を起こして周囲を見渡すと、俺の側に黒竜の体があった。
しかし、既にその身体には気配も無く、生気も感じなかった。
死体であってもびびってしまったのはしょうがない。迫力が凄いからな。

自分一人だけなのになんとなく言い訳しつつ、黒竜の頭に刺さっていた剣を引き抜く。
とりあえず食料が必要だから肉をとろう、そう考えて鱗の隙間に剣を差し込む。
既に死んでいたからか、鱗は思ったよりも簡単に剥がれた。

赤い肉が露わになり、俺はそこから少しずつ肉を剥いだ。


魔法で火を起こし、肉を焼く。


「旨い・・・」

ただ焼いただけだったのだが、黒竜の肉は今までに食べたことがないほど旨かった。
苦労して倒したかいはあったな。
いや肉のために倒したわけではないが。

黒竜から肉を斬り出しているうちに、黒竜の体の中からこぶし拳大の青い石が出てきた。


「魔獣血石・・・か?」

黒竜の体から出たのは、青色に淡く輝く半透明な石。
これは恐らく魔獣血石と呼ばれるものだ。
かなり上位の魔獣からしか出ない。
しかし必ず出るとは限らず、ただでさえ殺すことの難しい魔獣を何匹も狩らないと出ないと言われている。
これについて調べている学者の中には、特殊な環境下でのみ形成されると言う者や、この血石が血にその魔獣の力を籠めて石にしたものであることから、魔獣に認められた時だけその魔獣が自ら造る、と言う者もいる。

しかし、黒竜から出た魔獣血石は俺が知識として知っている者とは違った。
本来、魔獣血石はその魔獣の血の色になる。魔力を含む魔獣の力が籠められているとはいっても、元は魔獣の血だ。
にも拘わらず、黒竜からとれたこの石は

一瞬黒竜の血が青いのかと考えてしまったが・・・そんなことはなかった。

考えられる原因としては、この島の環境だろう。
この島は魔力が通常よりも豊富であり、その質も普通の魔力と比べると異質だ。


「・・・これは食べていいものか」

魔獣血石には、ある特性がある。
それは、食べたものに石の持ち主である魔獣の力を与えるというものだ。
その割合は元の魔獣の一割と言われているが・・・正確なところは定かではない。
しかし、当然リスクもある。
魔獣の力を取り込めば、自分の身体が変化する。
身体が別のものへと変わるのだ。

そうなれば、身体中を激痛が襲う。
俺自身はまだ未経験だが、実際に経験した者曰く、「身体中を切り刻まれる」様な痛みらしい。


「・・・まぁ、強くなれるならいいだろう」

この普通とは違う血石を食べても、恐らく力は手に入るだろう。
覚悟を決めて口の中へ青色に発光している魔獣血石を放り込んだ。
石を噛み砕き、喉の奥へ押し込む。


「――ッ!!がぁぁぁッ!?!?ぐぁぁ!!!!」

飲み込んだ瞬間、身体中を激痛が襲った。
強くなるよりも先に死にそうなほどの痛みが。


 痛い、痛い!!なんだこれは!痛い!!痛い!!!!ぐぅッ!!

 体が熱い!!これが身体が作り変えられる感覚か!?


身体中が切り刻まれ、皮膚のあらゆる場所に針を刺され、火に包まれたような痛み。
どんな言葉で表せば良いのか分からない。とにかく痛かった。
あまりの激痛に悶えていた俺は、そのまま意識を手放した。



◇◇◇◇◇


意識がはっきりとしてきた時、既に日が暮れてかなりの時間が経ったようで、辺りは真っ暗だった。


(いや・・・普通なら真っ暗、だよな?)

起きてすぐ、視界がおかしいことに気づいた。
テイル自身、大して夜目がくということはない。
暮らしていたのは山の中だったが、夜は家の中で寝るだけだった。
そもそも、テイルは火の属性に適正があった為、暗ければ火で辺りを照らせば良かった。

だが、今は火はつけていない。
にもかかわらず、辺りの様子が鮮明に見えるのだ。
それどころか、気絶する前よりも遠くまで見えた。


「まさか・・・これが黒竜の力か?」

その可能性が高い。
竜種は筋力だけでなく、鼻や目が利く者が多い。
それに、側にある黒竜の死体に匂いが前よりもキツくなっていた。


(間違いないな。これが魔獣から手に入る力、か・・・)

魔獣血石によって得られる力は、レベルとは関係なく自身の力を底上げする。
その量は、血石を持っていた魔獣の一割と言われている。
が・・・


「これ・・・一割、なんてもんじゃない気がするんだが」

明らかに黒竜の一割ではなかった。
テイルの魔力は跳ね上がり、前とは質が違うように感じていた。
身体も、前と比べると明らかに軽い。
試しに自分が今座っている岩を思い切り殴りつけてみると、岩が砕け散った。


「・・・は??」

自分が成したその光景に、テイルは唖然とするしかなかった。
テイルのレベルは99。常人に比べればその力は桁違いだ。
だが、岩を一撃で粉砕するような力があったわけではない。
そもそも、身体を鍛えてはいたがテイル自身、どちらかというと身軽なスピードファイターだった為、腕力はそこまで鍛え上げたわけではない。
目の前の岩を粉砕するような力は、異常と言うほかなかった。
さらに、テイルが岩を殴りつけた時、テイルの拳が痛むことはなかった。
大した抵抗もなく、まるで岩が勝手に砕け散ったかのように感じた。



「ははは・・・これなら、前よりは戦えるかもな」
 強くなったことは、素直に嬉しい。けどこれでまた黒竜が来ても勝てる、とは思えないなぁ。

事実、今の状態でも黒竜の方が上だ。
少なくとも、慢心していいほどの力があるわけではない。



「いや、どれだけ力があっても慢心は駄目だな。ルンにも教えてたことじゃないか」


しかし、強くなれたことも事実だ。
これなら、前よりは戦いやすくなる。



「さて・・・わざわざこんな所に来たんだ。これで帰る、ってわけにはいかないな」

顔に子供のような笑みを浮かべながら、テイルは島の中心へ向かうことに決めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

ギフトで復讐![完結]

れぷ
ファンタジー
皇帝陛下の末子として産まれたリリー、しかしこの世はステータス至上主義だった為、最弱ステータスのリリーは母(元メイド)と共に王都を追い出された。母の実家の男爵家でも追い返された母はリリーと共に隣国へ逃げ延び冒険者ギルドの受付嬢として就職、隣国の民は皆優しく親切で母とリリーは安心して暮らしていた。しかし前世の記憶持ちで有るリリーは母と自分捨てた皇帝と帝国を恨んでいて「いつか復讐してやるんだからね!」と心に誓うのであった。 そんなリリーの復讐は【ギフト】の力で、思いの外早く叶いそうですよ。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...