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第一章 リアルチーター
一本目 いざVRの世界へ
しおりを挟む2038年、フルダイブバーチャルリアリティと呼ばれる形式のMMORPGが発売された。それまでに発売されていたVRゲームとは一線を画すAI技術と脳波の読み取り速度、動きの正確性、そして何より過去最大最高規模の世界。
『リアルなファンタジー』をモチーフとして作られたそのゲームは、多少の危険性があろうと歴史に残るほどの人気作品となった。
ゲームの名前は―――
Battle Frontier Online、
通称『BFO』。
それまでも様々なVRゲームが存在していたものの、BFOは内容的にも技術的にも革新的と言える。
故に、このゲームを遊ぶためには最新式のVRセット、このBFOのために開発された『VR-EX』、通称「Vレックス」と呼ばれるものが必要になる。
だが、そんな最新式なVR機器は、当然ながら安い代物ではない。
学生どころか大人ですら躊躇するような値段設定、加えてそもそもの販売台数が決して多くないということもあり、特にこのゲームを欲しがるであろう若者達の中で、入手出来た者はそう多くなかった。
そして、そんな『VR-EX』を間違いなく持っているであろう人物が、覇城龍成と共に、放課後の学校にいた。
「なあ龍成ッ!ゲームしようぜ!!」
「また突然だなぁ……」
やっぱり鍛錬の時間をつぶしたくないし……
そんな思考を、龍成は今までに何度も繰り返していた。
それに対する目の前の人物――赤羽彰太――は不敵な笑みを見せる。
「フッフッフッ、龍成、お前、また鍛練に使う時間が~とか考えてたろ?」
……彰太はエスパーだったのか、とそんなことを考えるのもこれで四度目である。
「正解。よくわかったね」
「何度も同じ理由で断られてっからな……って、そんなことはどうでもいいんだ!今回のゲームは今までとは違うぜ?」
「へぇ……」
やはり龍成の顔に期待の色はない。
当然であった。ただのビデオゲームには興味がなく、違和感が絶えないというVRゲームも乗り気にはならない。
龍成が求めているのは――
「ああ!今回のもVRなのは変わらないんだがな、何を隠そう、今回ご紹介するのは、あの!B・F・O!!」
「……あのって言われてもなぁ」
知らないしなぁ、と続ける龍成の態度には、生粋のゲーマーである彰太も驚愕した。
彰太は「マジかコイツ」という顔で――
「マジかコイツ」
あ、言った。
「BFOってのは最近話題の最新型VRMMORPG!!Battle! Frontier! Online!!超リアルなグラフィック!!人間と同じ知能を持つAI!!正に夢の世界!!入手困難、売り切れ続出な大人気ゲームだろうが!!」
説明ありがとうございます。
妙に鬼気迫った様子で語る彰太は、全力であった。
目の前の人物を何とか引き込もうと……
それはもう「何故そこまでして」と龍成が思うほどに。
「何より名前にもついてる通り、ファンタジー世界での違和感ゼロ!なリアルファイトが楽しめ――」
「よしやろう」
即決。
食い気味に放たれた龍成の返答。
「リアルファ」の時点で龍成の脳は決断を下していた。
「って早いなオイッ!?今まで散々誘った俺の苦労は一体ッ!?畜生!!」
「でも、君が言ってたように売り切れ続出で入手困難なんじゃないの?それに、僕はそんな高価なもの買えないよ?」
「ああ無視ですか。そうですか」
いつにも増してテンション高いなぁ……
とそんなことを考える龍成を他所に、彰太のテンションは更に加熱した。
「苦節二年と数ヵ月……何としてでもお前をゲーム界に引き込もうとお前の家にゲーム機持ってたり……無理矢理に押し付けたり」
「そんなこともあったね」
本当に何でそんなことを……と思うほどに、彰太の執念は凄まじかった。
しかし今はそんなことはどうでもいいのだ。
問題はどうやってそのゲームを手に入れるか。
彰太の苦労(自業自得)を労わることなく、龍成は問いかける。
それに対する彰太のジト目を飄々と受け流しながら、答えを待った。
「馬鹿野郎お前……BFOの発売は二か月前だぞ?」
「いや知らないけど……それがどうしたの?」
「つまりだ……俺がいつまでも何も考えずお前をゲームに誘うわけねぇだろ?」
(何も考えてなかったのか……)
「俺はな龍成……何としてでもお前をゲームに引き込もうと、宝くじを買ったりもしたわけだ」
「しちゃったの?」
「しちゃったんだよ」
「なんで?」
「金でこっち側に引き込もうと思ってな」
言葉だけ聞けば、完全な悪人。
龍成を引き込むためにありとあらゆる手段を取った彼は、手を使い尽くして最終的にはそんな域にまで至ってしまったらしい。
馬鹿である。
「やめろよ……そんな馬鹿を見る目は……まぁとにかくだな。実際は何とか、実行する前に思い止まったぞ?」
「良かったね」
「宝くじは買ったけどな」
「良くなかった!?」
「いやまぁ……大丈夫だ。実際に交渉に使ったりはしてないだろ……?」
「そうだけど……」
彰太の目は、完全に死んでいた。
「とにかくだな……その宝くじがだな……当たったんだよ」
「うわぁ……」
逆に救いようがない……と嘆息する龍成も、妙なところで運がある友人には内心で驚いていた。
「まぁ当たったっつっても……一等とかじゃねぇけどな。流石に。けどまぁ……おかげでBFOの専用機器、『VR-EX』を二台は買えるくらいの金になったわけよ」
いやそれは普通に凄いんじゃないだろうか、と。
龍成の思いとは裏腹に、彰太の顔は沈んでいる。
「後で親バレしてこっぴどく怒られたけどな……」
「なるほど」
「兎にも!!角煮も!!俺の分は発売初日に買えたが……流石に二台同時は無理だったんだ。それで発売第二弾が出るこの時期まで伸びたけどな……だからお前には絶対BFOやってもらうからな!?」
鬼気迫ること本日二回目。
懇願にも見えるその様子に、龍成は首肯した。
「それで、だ。とりまお前ん家いくから……観念しやがれ!!」
「何で悪役に言うようなこと言われなきゃいけないのかな?」
「知らん!!」
「……とりあえず、お礼言っとくよ。ありがとう」
「そこはかとなく言わされてる感が……いやまぁゲームん中で俺を手伝ってくれ。代わりにな」
「……怪しさはあるけど、了解」
渋々頷きながらも、龍成はやや高揚していた。
違和感なしの実戦。
ゲームの中とはいえ、だ。
ゲームか現実か……そんなものは関係ない。
(わくわくするなぁ)
龍成が笑みを――やや不気味な笑みを――見せる中、頬を引き攣らせた彰太は「じゃっ、後で行くからな!!」と言って教室を去った。
夕日差し込む教室の中……帰りの支度を終えた龍成も、その場を去った。
◇◇◇
「さーて、セッティング開始だ!!」
場所は、覇城家宅。
龍成の自室である。
「おー、頑張って」
「終わりッ!」
「速いね!?」
この間、三秒。
「まぁ、本体の設定はもう終わってたからな。ぶっちゃけコンセントをさすだけだったりするわけだよ」
「なるほどね」
「じゃ、ここを押して、これ被ってみろ。そしたら視界が明るくなるから、そうなったら『バトルフロンティアオンライン起動』って言ってみ?あ、別に『BFO起動』でもいいから」
手渡されたのはヘッドギア型の電子機器。
妙にゴツイヘルメットのようなその見た目。
T-Rexのマークが描かれたそれは、金属とプラスチックで覆われている。
その電子機器――『VR-EX』を、龍成は躊躇なく被った。
現在、龍成はベッドに横たわっている。
既にその他準備――水分補給など――彰太に言われた事は終え、後はログインするだけ。
「BFO起動」
シンプルな言葉。
しかし、自動的に明るい光が差し込んでいた視界は、更に色とりどりの光が現れる。
描かれていたのは――いくつかの言葉。
「何これ……」
「あ、それ注意事項な。すっ飛ばしていいから。読んでたら数時間はかかるから」
その発言はどうなのかとは思わないでもない。
しかし確かに、書かれていることは多かった。
右下に『1/57P』の文字を見つけ、諦念を滲ませる。
全て読み飛ばし、視界が変化する。
「今度こそ――BFO、起動」
後から俺も行くぞー、という彰太の言を最後に、龍成の意識は現実世界から遠のいた。
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