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第一章 麗光騎士団
第1話 白髪の少年
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―――ネフィリア大陸最大の国、ローレント王国
そこには国と民を守る三つの騎士団が存在する。
少数だが全ての騎士が竜に乗り、空を駆ける竜騎士である『聖竜騎士団』。
最も数が多い騎馬に乗って戦う『覇国騎士団』。
ローレント王国の歴史上でも唯一女性が団長を務める『麗光騎士団』。
国の要である騎士団は厳しい試験の末に入団することが出来る。
それぞれに特色があるものの、二十年前に出来た最も新しい『麗光騎士団』は未だ規模が小さい。
その理由には出来たばかりだということもあったが、試験が厳しいというのが一番の理由だった。
権力を気にせず実力を重視した麗光騎士団は庶民すらも受け入れる。
それこそが麗光騎士団団長フィア=ローゼンの理念である。
フィア=ローゼンは褐色の肌と黒い髪、金色の瞳を持つダークエルフである。
ダークエルフとは言うものの、あくまでエルフの中で黒い肌を持つようになった一族の呼び名にすぎない。
女の身でありながら圧倒的な実力を持って騎士団長の職につき、改革を齎した彼女は、今年の試験の報告書を見て溜息を吐いていた。
「やはり……あの程度では生温かったか……」
ポツリと漏らした言葉が彼女しかいない執務室の中で消える。
彼女が後悔しているのは試験官の人選だった。
何も人格に問題があるわけではない。
しかし、彼の試験官を務めるには全く実力が足りなかった。
(私が担当した方が良かったか……いや、重要なのはあの子が麗光騎士団に入ること……それが叶ったならいいか)
――コンコン
彼女が一人思考する中、扉をノックする音が響く。
「入れ」
「失礼いたします!!」
「イルゼか……どうした?」
フィアの執務室に入ってきたのはイルゼ=アーベント。
麗光騎士団の副団長を務める女性である。
間違いなく美人の顔とバランスの整った女性的な体つき、一見騎士には見えない彼女は間違いなく手練れの女傑であった。礼儀正しく素行も良い。部下からの人望も厚く、仕事も早い。欠点を強いてあげるならば―――
「今年の試験はフィア様が随分気にかけておられたので……」
「気になって業務を抜け出してきたのか……」
――フィアのことになると若干ポンコツになる。
「ち、違いますっ!仕事は終わらせてきました」
「……そうか、すまない。前科があったのでな。少々疑ってしまった」
「うっ……あ、あの時は……その…」
「もうそのことはいい……」
呆れたようにそう言われてイルゼは肩を落とした。
「それで……何故そんなに気になるのですか」
「うむ……今年の入団試験を受けた者に気になる者がいてな…」
「気になる者(怪しい者)ですか……」
「かなり(心配だ)な」
イルゼが意味を取り違えていることに気づかず、手元の書類を置いた。
「試験は問題なく合格したようだが……(あの程度の試験官で良かったのか)心配だ」
「(フィア様がそこまで心配するほどとは……白髪の少年、ですか……十五歳!?この年で試験に合格したんですか!?なるほど…これは怪しいですね……私の方でも調べないと…!!)」
イルゼが暴走し始めていることにも気づかない。
~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~
「はぁ……」
リーナ=エストリアは騎士団の試験会場を後にして溜息を吐いた。
入団出来るかどうか、それは彼女にとって人生を左右する事である。
彼女の父、ディラン=エストリア男爵は騎士である。
ディランは二十年以上前の大戦、そこでの活躍が認められ男爵の地位を賜った人物。
そしてリーナはディランの一人娘である。
それだけに騎士団に入団することを周囲から求められる。
加えて彼女は騎士団長のフィアに憧れていた。
同じ女性でありながら騎士団長の地位にまで上り詰めた女傑。
剣を持たせれば剣聖、魔法を使わせたなら大魔導師とまで謳われるフィアの力は人外の域にある。
一度戦場に出れば必ず戦功を挙げ、"黒麗騎士"という彼女の二つ名は周辺の国々から恐れられる。
王国最強、それがフィア=ローゼンという人物であった。
故に麗光騎士団に入団すること、それは彼女にとって成さねばならないことであった。
彼女は自分が弱いとは思っていない。
むしろ騎士学園では優秀な方であった。
彼女は魔法の基本属性の内誰でも使える無属性以外に風・水・土の合計四属性を扱う四属性持ちである。
剣の腕もかなりのものだと自負していた。
見た目も良く、緑色の髪と眼は透き通る様に美しい。
二十歳になる彼女はスタイルも良く、女性的な特徴もはっきりと表れていた。
しかし、それでも麗光騎士団の試験は「受かっている」という確信が持てないほどに厳しいものであった。
筆記試験の他に実技試験では本物の騎士が試験官を受け持つ模擬戦もあった。
彼女が如何に優秀であっても、それはあくまで学校内での話であった。
ローレント騎士学園はその名の通り騎士を目指すものが入学する学園である。
年齢は主に14~20という幅広い年齢に騎士としての教養を施す。
騎士を目指すものは多く、騎士学園は毎年数百人単位で入学する者がいる。
その中でもフィアは常に成績上位に位置していた。
その彼女を以ってしても確実とは言えない。
それが麗光騎士団の入団試験である。
(……あら?何でこんなところに子供が…?)
リーナの視線の先には白髪の少年がいた。
今いる場所は試験会場から出てすぐの場所。
少年が歩いている方向からしても試験会場から出てきた、ということで間違いないだろう。
だが、剣は腰に差してあるものの、鎧を着ていない少年はとても騎士には見えない。
様々な依頼を受ける冒険者の様な格好だった。
そもそも白髪の少年は15にも満たない子供に見えた。
そんな少年がこんな場所に何の用で、と気になったリーナは声をかけることにした。
「あの、そこのあなた」
「…?僕ですか?」
「はい!まだ子供に見えますけど……どうしてこんなところへ?」
「え?何でと言われましても……麗光騎士団に入りたくて」
「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまったことが気恥ずかしくなり、咳払いをしてから話し出した。
「えっと……よければ年齢をお聞きしても?」
「?15歳です」
(私より五つも下じゃないの!!)
驚愕に目を見開くリーナを少年は首を傾げて見つめていた。
つい目の前の少年をまじまじと見る。
中性的な整った顔立ちをした少年だった。
髪は雪の様に真っ白で、目はラピスラズリの様に蒼い。
そして間違いなく美少年と呼ばれる類の少年であった。
身体つきは羽織っている黒い上着のせいで分からないものの、筋肉質には見えず、むしろ華奢な様に見えた。
試験は不正防止の為に個別で受ける。
少年が戦っている様子は見ていないものの、お世辞にも強そうには見えなかった。
かといって少年が持っているのは剣であり、杖を使う魔法特化の騎士にも見えない。
「あ、あの…僕が何か?」
「あっ!す、すみません。随分と子供に見えたので……」
自分を凝視するリーナに少年が頬を引き攣らせる。
慌てて弁解しようとしたものの、焦って出た言葉は馬鹿にしていると取られてもおかしくなかった。
「やっぱり相応しくないですよね……でも僕騎士になりたくて……」
「ああっ!そんなつもりじゃ……!!」
案の定落ち込んでしまった少年を慌てて慰める。
「あっ、あのっ、名前を…聞いてもよろしいでしょうか?」
「勿論……アイクです」
「私はリーナ=エストリアです!宜しくお願いしますね!!」
焦ったように自己紹介するリーナを見て、アイクと名乗った少年は目を丸くした。
「貴族様でしたか……これはとんだご無礼を」
「あっ!気にしないでください……!!友達みたいに喋ってもらって構いませんから!!」
「……僕友達いないです」
「………」
少年の一言により気まずい空気が漂う。
しばらく間をおいて少年が笑い出した。
「あはは、そもそもリーナさんは年上の様なので友達みたいには難しいですけど……よろしくお願いします」
「よっ、よろしくお願いしましゅ!!」
手を開いて前に出した少年の手を取る。
握手をしたまま返事をするも、慌てて喋ったせいで思い切り噛んだ。
年上なのに、と嘆くリーナを見て少年はまた笑いだした。
「はぁ……リーナさんも入団試験を受けたんですよね?」
「はい……あまり自身はないですけど…」
「一緒に入団出来たら良いですね」
「は、はい……」
そう言って微笑む少年に年下だということも忘れて顔を赤く染めてしまう。
やや俯いて返事をするリーナに首を傾げながらも、また会いましょうねと言葉を告げて去っていった。
「私、年上なのに……五歳差なのに……」
呟くリーナの声は、少年には届かなかった。
そこには国と民を守る三つの騎士団が存在する。
少数だが全ての騎士が竜に乗り、空を駆ける竜騎士である『聖竜騎士団』。
最も数が多い騎馬に乗って戦う『覇国騎士団』。
ローレント王国の歴史上でも唯一女性が団長を務める『麗光騎士団』。
国の要である騎士団は厳しい試験の末に入団することが出来る。
それぞれに特色があるものの、二十年前に出来た最も新しい『麗光騎士団』は未だ規模が小さい。
その理由には出来たばかりだということもあったが、試験が厳しいというのが一番の理由だった。
権力を気にせず実力を重視した麗光騎士団は庶民すらも受け入れる。
それこそが麗光騎士団団長フィア=ローゼンの理念である。
フィア=ローゼンは褐色の肌と黒い髪、金色の瞳を持つダークエルフである。
ダークエルフとは言うものの、あくまでエルフの中で黒い肌を持つようになった一族の呼び名にすぎない。
女の身でありながら圧倒的な実力を持って騎士団長の職につき、改革を齎した彼女は、今年の試験の報告書を見て溜息を吐いていた。
「やはり……あの程度では生温かったか……」
ポツリと漏らした言葉が彼女しかいない執務室の中で消える。
彼女が後悔しているのは試験官の人選だった。
何も人格に問題があるわけではない。
しかし、彼の試験官を務めるには全く実力が足りなかった。
(私が担当した方が良かったか……いや、重要なのはあの子が麗光騎士団に入ること……それが叶ったならいいか)
――コンコン
彼女が一人思考する中、扉をノックする音が響く。
「入れ」
「失礼いたします!!」
「イルゼか……どうした?」
フィアの執務室に入ってきたのはイルゼ=アーベント。
麗光騎士団の副団長を務める女性である。
間違いなく美人の顔とバランスの整った女性的な体つき、一見騎士には見えない彼女は間違いなく手練れの女傑であった。礼儀正しく素行も良い。部下からの人望も厚く、仕事も早い。欠点を強いてあげるならば―――
「今年の試験はフィア様が随分気にかけておられたので……」
「気になって業務を抜け出してきたのか……」
――フィアのことになると若干ポンコツになる。
「ち、違いますっ!仕事は終わらせてきました」
「……そうか、すまない。前科があったのでな。少々疑ってしまった」
「うっ……あ、あの時は……その…」
「もうそのことはいい……」
呆れたようにそう言われてイルゼは肩を落とした。
「それで……何故そんなに気になるのですか」
「うむ……今年の入団試験を受けた者に気になる者がいてな…」
「気になる者(怪しい者)ですか……」
「かなり(心配だ)な」
イルゼが意味を取り違えていることに気づかず、手元の書類を置いた。
「試験は問題なく合格したようだが……(あの程度の試験官で良かったのか)心配だ」
「(フィア様がそこまで心配するほどとは……白髪の少年、ですか……十五歳!?この年で試験に合格したんですか!?なるほど…これは怪しいですね……私の方でも調べないと…!!)」
イルゼが暴走し始めていることにも気づかない。
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「はぁ……」
リーナ=エストリアは騎士団の試験会場を後にして溜息を吐いた。
入団出来るかどうか、それは彼女にとって人生を左右する事である。
彼女の父、ディラン=エストリア男爵は騎士である。
ディランは二十年以上前の大戦、そこでの活躍が認められ男爵の地位を賜った人物。
そしてリーナはディランの一人娘である。
それだけに騎士団に入団することを周囲から求められる。
加えて彼女は騎士団長のフィアに憧れていた。
同じ女性でありながら騎士団長の地位にまで上り詰めた女傑。
剣を持たせれば剣聖、魔法を使わせたなら大魔導師とまで謳われるフィアの力は人外の域にある。
一度戦場に出れば必ず戦功を挙げ、"黒麗騎士"という彼女の二つ名は周辺の国々から恐れられる。
王国最強、それがフィア=ローゼンという人物であった。
故に麗光騎士団に入団すること、それは彼女にとって成さねばならないことであった。
彼女は自分が弱いとは思っていない。
むしろ騎士学園では優秀な方であった。
彼女は魔法の基本属性の内誰でも使える無属性以外に風・水・土の合計四属性を扱う四属性持ちである。
剣の腕もかなりのものだと自負していた。
見た目も良く、緑色の髪と眼は透き通る様に美しい。
二十歳になる彼女はスタイルも良く、女性的な特徴もはっきりと表れていた。
しかし、それでも麗光騎士団の試験は「受かっている」という確信が持てないほどに厳しいものであった。
筆記試験の他に実技試験では本物の騎士が試験官を受け持つ模擬戦もあった。
彼女が如何に優秀であっても、それはあくまで学校内での話であった。
ローレント騎士学園はその名の通り騎士を目指すものが入学する学園である。
年齢は主に14~20という幅広い年齢に騎士としての教養を施す。
騎士を目指すものは多く、騎士学園は毎年数百人単位で入学する者がいる。
その中でもフィアは常に成績上位に位置していた。
その彼女を以ってしても確実とは言えない。
それが麗光騎士団の入団試験である。
(……あら?何でこんなところに子供が…?)
リーナの視線の先には白髪の少年がいた。
今いる場所は試験会場から出てすぐの場所。
少年が歩いている方向からしても試験会場から出てきた、ということで間違いないだろう。
だが、剣は腰に差してあるものの、鎧を着ていない少年はとても騎士には見えない。
様々な依頼を受ける冒険者の様な格好だった。
そもそも白髪の少年は15にも満たない子供に見えた。
そんな少年がこんな場所に何の用で、と気になったリーナは声をかけることにした。
「あの、そこのあなた」
「…?僕ですか?」
「はい!まだ子供に見えますけど……どうしてこんなところへ?」
「え?何でと言われましても……麗光騎士団に入りたくて」
「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまったことが気恥ずかしくなり、咳払いをしてから話し出した。
「えっと……よければ年齢をお聞きしても?」
「?15歳です」
(私より五つも下じゃないの!!)
驚愕に目を見開くリーナを少年は首を傾げて見つめていた。
つい目の前の少年をまじまじと見る。
中性的な整った顔立ちをした少年だった。
髪は雪の様に真っ白で、目はラピスラズリの様に蒼い。
そして間違いなく美少年と呼ばれる類の少年であった。
身体つきは羽織っている黒い上着のせいで分からないものの、筋肉質には見えず、むしろ華奢な様に見えた。
試験は不正防止の為に個別で受ける。
少年が戦っている様子は見ていないものの、お世辞にも強そうには見えなかった。
かといって少年が持っているのは剣であり、杖を使う魔法特化の騎士にも見えない。
「あ、あの…僕が何か?」
「あっ!す、すみません。随分と子供に見えたので……」
自分を凝視するリーナに少年が頬を引き攣らせる。
慌てて弁解しようとしたものの、焦って出た言葉は馬鹿にしていると取られてもおかしくなかった。
「やっぱり相応しくないですよね……でも僕騎士になりたくて……」
「ああっ!そんなつもりじゃ……!!」
案の定落ち込んでしまった少年を慌てて慰める。
「あっ、あのっ、名前を…聞いてもよろしいでしょうか?」
「勿論……アイクです」
「私はリーナ=エストリアです!宜しくお願いしますね!!」
焦ったように自己紹介するリーナを見て、アイクと名乗った少年は目を丸くした。
「貴族様でしたか……これはとんだご無礼を」
「あっ!気にしないでください……!!友達みたいに喋ってもらって構いませんから!!」
「……僕友達いないです」
「………」
少年の一言により気まずい空気が漂う。
しばらく間をおいて少年が笑い出した。
「あはは、そもそもリーナさんは年上の様なので友達みたいには難しいですけど……よろしくお願いします」
「よっ、よろしくお願いしましゅ!!」
手を開いて前に出した少年の手を取る。
握手をしたまま返事をするも、慌てて喋ったせいで思い切り噛んだ。
年上なのに、と嘆くリーナを見て少年はまた笑いだした。
「はぁ……リーナさんも入団試験を受けたんですよね?」
「はい……あまり自身はないですけど…」
「一緒に入団出来たら良いですね」
「は、はい……」
そう言って微笑む少年に年下だということも忘れて顔を赤く染めてしまう。
やや俯いて返事をするリーナに首を傾げながらも、また会いましょうねと言葉を告げて去っていった。
「私、年上なのに……五歳差なのに……」
呟くリーナの声は、少年には届かなかった。
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