開湯!異世界温泉『ふじの湯』 もらったスキルは『温泉』だった??!

西八萩 鐸磨

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67.出会い

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「温め終わりましたー」

「お、ありがとさん!忙しいのに、すまないね」

「いえいえ。銭湯を始められたのも、皆さんのおかげですから」

「ははは。じゃあ、あしたも頼みますね」

「はい!では、またあした」

「ああ、おやすみ」

俺は、日課の個人宅まわりを終えて、銭湯へ戻るために暗い路地を歩き始めた。

いまや、個人で自宅の風呂を使っているのは5軒ほどとなっていた。

しかも、ドンク工房製の給水、給湯システムをすべての家が導入していた。

だから、貯水槽に水を溜める作業自体は、各家の下働きの人がすでに終えていて、俺はお湯の方を温めてまわっているのだった。

街灯のない村の路地は、家々から漏れる灯りだけが唯一の光源だった。

空には生憎と、月はなかっった。

10分ほど歩いて、路地の角を曲がった。

「キャン!」

俺は何かにつまずいて、前のめりに転んだ。

「な、なんだ?!」

薄明かりの中に、ぼんやりと茶色い塊が動いた。

「クゥ~ん」

その塊が、小さく鳴いた。

「えっ?!」

よく見ると、体長40~50cmほどの獣みたいだ。

妙にムクムクしている。

俺は、そっと近づいてしゃがみ込んだ。

「クゥ~ん、クゥ~ん。ハッハッハッ」

「なんだ犬か」

茶色というかキツネ色に近い毛色で、長くはないが短くもない艶やかな毛をしている。

耳は両方とも垂れていて、尻尾は15cmはあるだろうか?

ぱっと見は、ゴールデンレトリバーとラブラドールレトリバーの中間という感じかなあ・・。

「ああ。そういや、フラットコーデットレトリバーってのもいたな」

でも、特徴的なのはその目の色だった。

レトリバーって、だいたいは黒か茶色の目をしていると思うんだけど、この仔犬は綺麗な青みがかった銀色の目をしていた。

「クンクン。クンクン」

仔犬は、しゃがみ込んだ俺の足にまとわりついている。

「おい。お前はこんな所で何をしているんだ?」

俺はそっと手を伸ばして、頭を撫でてみる。

うん、いい感触だ。

「クンクン。フシュッ!」

伸ばした俺の手の匂いを嗅いで、可愛らしいクシャミをする。

そして、そのまま俺の指先をペロペロと舐め始めた。

「こんな夜に出歩くと危ないぞ」

どっかの家で飼われていたのが、脱走してきたのだろうか?

でもこの世界では、あんまりペットを飼う習慣はなさそうなんだよな。

前の世界と同じで、馬、牛、豚、鶏といった家畜は普通にいるんだけど、犬猫が飼われているのをほとんど見かけないんだよ。

村や町の外に出て野生化すると、何かの拍子に魔獣化してしまうみたいなので、そういったリスクを避けるためにも家畜以外は身の回りに動物・・というか獣を置かないという考え方なのだろう。

俺の予想だけど・・。

それでも、まったく獣がいないかというとそんなことはなく、もちろん犬猫を飼っている人も稀にはいるし、冒険者にはテイマーという能力スキル持ちの人もいて、その人たちは様々な獣や時には魔獣をテイムして連れまわし使役ている者もいる。

「ほら、早く家に帰んな」

俺はまとわりつく仔犬の頭をひと撫ですると、立ち上がった。

「じゃあな」

仔犬とはいえ、ひと時の自由に満足すれば自分で帰るだろうと思い、俺は再び先頭へ戻ろうと歩き出す。

飼い主の家も、そんなに遠くないだろうしな。


10分ほど歩いて、ようやく銭湯の明かりが見えてきた。

入り口までくると、ちょうどリンたち『アトラスの牙』の面々が出てきた所だった。

「「「「「あ、マモルさん。お疲れ様です!」」」」」

俺の姿に気がついたみんなが、声をかけてくる。

「よう、ご苦労様!」

俺は、笑顔で右手を上げて応えた。

「あれっ?!マモルさん、どうしたんですか?そのコ」

「え?」

リンに足元を指差されて、俺は視線を落とした。
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