上 下
59 / 98

59.武器屋 杖と弓

しおりを挟む
「次は・・」

「私でお願いします」

ポールが進み出る。

「お前さんは、杖だったかな?」

「はい!」

「杖の在庫はなあ・・あったかな?」

「ええー!」

店の隅の方をゴソゴソしている店主の独り言に、ポールが声を上げる。

「おおー、あったあった!」

店主が、何やらやたらとクネクネしている古ぼけた杖を手に戻ってくる。

「杖の在庫はこれだけだな。いつ仕入れたのかも分からん売れ残りだし、安くしとくよ」

「売れ残りって・・・」

ポールが嫌そうに顔をしかめながら、杖を受け取る。

するとその瞬間、杖がボワッと光り、すぐに元に戻った。

「「えっ?!」」

受け取った本人のポールと、それを見ていたリンが驚きの声を上げる。

「どうした?」

リンの弓を探すために、後ろを向いていた店主が振り向いて聞いてくる。

「いま、杖がボワッと・・」

「ぼわ?なんだそれは」

ポールの言葉にうんうんと頷くリン、その二人の様子に、店主が首をかしげる。

「なんか、掴んだ瞬間に杖が光ったんです」

「光った?その杖に、そんな力があったかな?」

「リンも持って見て」

ポールが、リンに杖を手渡す。

しかし、杖はなんの変化も無かった。

「「あれ?」」

「光らんようだな・・」

「ですね」

3人で首をひねる。

「まあ、それは追々確かめて見てくれ。もしかすると、掘り出し物かもしれんぞ」

「はあ・・」

「それから最後は、嬢ちゃんの弓だな。ほれ」

杖を見つめてポーッとしているポールを放って置いて、店主はリンに奥から出してきた弓を手渡した。

「きれい・・」

弓を手にしたリンは、それを見つめて感嘆の声を漏らす。

「その弓はな、北島のエルフが使っていた物らしい。知っての通り、ノーザン王国このくににはエルフが少ない。だから、エルフの弓なんて、滅多なことでは流通していない。だが、北島はエルフ族の国があると言われている。それは、偶然巡り巡って、ウチが仕入れた物だ」

「そんな貴重な物を、ボクが貰ってもいいんですか?」

リンが目を見開いて聞き返した。

「ああ、実はそれも長いこと買い手がなくてな。どうやら、人族にはその弓は扱いが難しいらしい。だが、なんとなく嬢ちゃんなら使いこなせるような気がしてな」

そう言って、店主が柔和な顔で笑った。

「試し撃ちしてもいい?」

「ああ。店の裏に的があるからやってみるといい」

「ありがとう!」

自分の武器を振り回して満足したネイサンとキース、ようやく我に返ったポールら3人も一緒に、店の裏手にまわる。

「試し撃ち用の矢を貸してやろう」

店主が、矢を3本ほど渡してくれる。

リンは頷いて受け取ると、弓につがえる。

『ヒュッ』

いつもの様に、的を狙って矢を放った。

しかし、矢は的から1mも外れて飛んで行ってしまった。

「普通に撃っても駄目らしいぞ。確か、当たるところを頭に描いて魔力を込めるらしい」

店主が助言をしてくれる。

リンはまた頷いて、矢をつがえ的を狙う。

『ヒュン』

「「「惜しい!」」」

他の3人が声を上げる。

今度は、的には当たったが、中心からは10cmほどズレていた。

「しっかり頭に描かんと駄目だぞ!」

店主の言葉に、リンがうなずく。

最後の矢を的へ向けた。

『シュッ』

今までで、最もスピードに乗った矢が飛んで行った。

「「「当たった!」」」

3人が飛び上がって、お互いにハイタッチを交わす。

「おお!よくやった!やはり思った通り、嬢ちゃんは使いこなせたな」

「頭の中に絵を描いたら、うまくいきました!」

「ほう!絵をねえ・・・」

「はい!」

リンは嬉しそうに目を輝かせ、エルフの弓を胸に抱き寄せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...