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38.ついに!
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「こんにちわー」
ザイル婆さんの雑貨屋に着いた俺は、店の扉を開きながら挨拶をした。
「いらっしゃいませ!」
すると、棚の整理をしていたスージーさんが振り向いた。
「あ、どうも」
いつも通り、ザイル婆さんが帳場に座っているだけだと思っていたので、ちょっと戸惑ってしまった。
同年代の女性だからって意識したわけじゃないぞ。
「ふん」
あ、いたんだ。
帳場の方から、鼻息が聞こえた。
「せ、先日はどうも・・」
ザイル婆さんの方へ近づいて、ぺこりと頭を下げる。
「で、今日は何用じゃ?」
細い目でじろりと睨んで言われる。
「えーとですね、先日お願いしました銭湯の番台の件だったんですが、あと2日ほどで完成するので、改めてお受けして頂けるかの確認でした」
俺は、頭の後ろに手をやりながらそう言った。
「一度やると言ったんじゃ、やるにきまっとろう」
ザイル婆さんは、当たり前のことをいまさら聞くなというように言った。
「そ、そうですよね。ありがとうございます!」
「ふん」
ザイル婆さんが下を向いて、ニヤリと笑った・・様に見えた。
「それとですね、相談というか注文したい物がありまして」
「注文?・・ふん、そこに座んな」
「は、はい」
ザイル婆さんに突然椅子を示され、思わず素直に従った。
「スージー、お茶!」
俺が座ると、スージーさんに指図する。
あれ?
この店で、お茶が出るの初めてだ。
「注文するんじゃろ?クライアントをもてなすのは当たり前じゃ」
「は、はあ・・ありがとうございます」
意外な言葉が出てきて、間抜けな返事をしてしまった。
「ふん。で、なにを注文したい?」
俺の状態には構わずに、さっそく聞いてくる。
「実はですね、お願いしたいのは2つありまして、どちらも布製なんですが・・」
俺はそう言って、またも羊皮紙にそれのイラストを描いたものを見せる。
目が細くて、見えているのか分かんないけど。
「見えておる!ワシは老眼とは無縁じゃ」
この齢で、この見た目で、老眼じゃないってバケモノ・・って、なんで思っていることがばれるの?!
「ふん、ほっとけ!で、四角いものと、よく分からんひらひらしたものの2種類か?」
「そ、そうです。こっちの四角いのは中が袋状になっていて、綿を入れます。言ってみれば布団の小さいのですかね。それを、50枚ほどお願いしたいです」
「フム。色と柄はどうする?」
「色は渋めで茶色ぽく、柄はこんな感じでどうですかね?」
「なるほど、いいじゃろ。」
「あ、あと。真ん中を縫い付けて、ヘソみたくします。で、四角に糸で、房をこんな風に・・」
「変わった装飾じゃな・・まあ、わかった」
「それから、こっちはですね・・こう、一枚の布なんですが・・・ここに切り込みを入れてでね・・」
俺はもう一つの方も説明していく。
「上端は輪っかにして、棒を横に通せるようにします。で、形はみんな一緒なんですが、同じ大きさのが2種類、大きめのが1種類必要なんです。」
「大きさを変えるのは問題ないが、種類が違うというのは?それと数は?」
「それぞれ1枚ずつでお願いします。で、同じ大きさの方は、地の色を赤色と青色にしてください。それで、それぞれに白抜きでこういう絵を入れてください」
俺は、長方形の真ん中に『男湯』と『女湯』と描いた、イラストを見せる。
「ずいぶんと変わった絵じゃな」
「それぞれ『男湯』と『女湯』という意味の文字で、俺の故郷の字です」
「故郷の?こんな奇妙な字を使う国なぞ知らんがなあ・・」
珍しく、ザイル婆さんが首を捻っている。
「まあ、ほんとに狭い範囲でしか使われていない文字なんで・・」
「・・・まあ、いいじゃろ。で、最後の大きめの方はどうするんじゃ?」
俺がおどおどしていると、ザイル婆さんが話題を変えてくれた。
「え?ああ、そっちはですね・・地の色を紺色にしてもらえますか?」
「フム」
「で、やっぱりこっちも白抜きで大きく、こういう絵を入れて欲しいんですが・・・」
俺は少しもったいぶりながら、長方形の真ん中に大きく『ふじの湯』と描いた、イラストを見せた。
ザイル婆さんの雑貨屋に着いた俺は、店の扉を開きながら挨拶をした。
「いらっしゃいませ!」
すると、棚の整理をしていたスージーさんが振り向いた。
「あ、どうも」
いつも通り、ザイル婆さんが帳場に座っているだけだと思っていたので、ちょっと戸惑ってしまった。
同年代の女性だからって意識したわけじゃないぞ。
「ふん」
あ、いたんだ。
帳場の方から、鼻息が聞こえた。
「せ、先日はどうも・・」
ザイル婆さんの方へ近づいて、ぺこりと頭を下げる。
「で、今日は何用じゃ?」
細い目でじろりと睨んで言われる。
「えーとですね、先日お願いしました銭湯の番台の件だったんですが、あと2日ほどで完成するので、改めてお受けして頂けるかの確認でした」
俺は、頭の後ろに手をやりながらそう言った。
「一度やると言ったんじゃ、やるにきまっとろう」
ザイル婆さんは、当たり前のことをいまさら聞くなというように言った。
「そ、そうですよね。ありがとうございます!」
「ふん」
ザイル婆さんが下を向いて、ニヤリと笑った・・様に見えた。
「それとですね、相談というか注文したい物がありまして」
「注文?・・ふん、そこに座んな」
「は、はい」
ザイル婆さんに突然椅子を示され、思わず素直に従った。
「スージー、お茶!」
俺が座ると、スージーさんに指図する。
あれ?
この店で、お茶が出るの初めてだ。
「注文するんじゃろ?クライアントをもてなすのは当たり前じゃ」
「は、はあ・・ありがとうございます」
意外な言葉が出てきて、間抜けな返事をしてしまった。
「ふん。で、なにを注文したい?」
俺の状態には構わずに、さっそく聞いてくる。
「実はですね、お願いしたいのは2つありまして、どちらも布製なんですが・・」
俺はそう言って、またも羊皮紙にそれのイラストを描いたものを見せる。
目が細くて、見えているのか分かんないけど。
「見えておる!ワシは老眼とは無縁じゃ」
この齢で、この見た目で、老眼じゃないってバケモノ・・って、なんで思っていることがばれるの?!
「ふん、ほっとけ!で、四角いものと、よく分からんひらひらしたものの2種類か?」
「そ、そうです。こっちの四角いのは中が袋状になっていて、綿を入れます。言ってみれば布団の小さいのですかね。それを、50枚ほどお願いしたいです」
「フム。色と柄はどうする?」
「色は渋めで茶色ぽく、柄はこんな感じでどうですかね?」
「なるほど、いいじゃろ。」
「あ、あと。真ん中を縫い付けて、ヘソみたくします。で、四角に糸で、房をこんな風に・・」
「変わった装飾じゃな・・まあ、わかった」
「それから、こっちはですね・・こう、一枚の布なんですが・・・ここに切り込みを入れてでね・・」
俺はもう一つの方も説明していく。
「上端は輪っかにして、棒を横に通せるようにします。で、形はみんな一緒なんですが、同じ大きさのが2種類、大きめのが1種類必要なんです。」
「大きさを変えるのは問題ないが、種類が違うというのは?それと数は?」
「それぞれ1枚ずつでお願いします。で、同じ大きさの方は、地の色を赤色と青色にしてください。それで、それぞれに白抜きでこういう絵を入れてください」
俺は、長方形の真ん中に『男湯』と『女湯』と描いた、イラストを見せる。
「ずいぶんと変わった絵じゃな」
「それぞれ『男湯』と『女湯』という意味の文字で、俺の故郷の字です」
「故郷の?こんな奇妙な字を使う国なぞ知らんがなあ・・」
珍しく、ザイル婆さんが首を捻っている。
「まあ、ほんとに狭い範囲でしか使われていない文字なんで・・」
「・・・まあ、いいじゃろ。で、最後の大きめの方はどうするんじゃ?」
俺がおどおどしていると、ザイル婆さんが話題を変えてくれた。
「え?ああ、そっちはですね・・地の色を紺色にしてもらえますか?」
「フム」
「で、やっぱりこっちも白抜きで大きく、こういう絵を入れて欲しいんですが・・・」
俺は少しもったいぶりながら、長方形の真ん中に大きく『ふじの湯』と描いた、イラストを見せた。
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