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37.適任者
しおりを挟む「ここが入り口じゃろ、そこからこう入ってきて・・ここに男用の風呂と女用の風呂の入り口が並んでいる・・なるほどの。で、マモル殿が言っているのがこの風呂の入り口のところのスペースじゃな」
「ええ、そうです」
「こんな狭いところに座る?どういうことじゃろ?しかも両方の風呂を隔てておる壁と一体化しとるじゃないか?」
ハサンさんが設計図を持って、その腕を目いっぱい延ばして目を細めて言った。
老眼なのね・・。
「えっとですね。このスペースはまわりより1段高くなっていまして、そこに人がひとり座れるスペースがあるんです」
「ふむ」
「で、男湯と女湯は確かに壁で隔ててあるんですが、ここだけ壁が切れているんです」
「なぜじゃ?」
「じつは、これは番台と言いまして、料金の徴収と脱衣所での盗難防止のための監視などをする役割の人を座らせるスペースなんです」
「ほ~う・・なるほどの。境界にあれば、両方を一度に見ることができるということか」
「そうなんです!」
「うまいこと、考えたものじゃの」
ハサンさんが、感心したようにうなずく。
「ただですね・・」
「なんじゃ?」
俺は一つの問題点を切り出した。
「・・問題がありまして・・両方が見えるということは、男性、女性の両方の裸が見えてしまうということなんです」
「ふむ、そうか。その番台に、男が座れば女湯が見えるのは問題がある。女が座れば場合によっては、男湯が見えるのが問題・・というわけじゃな」
「ええ。ですので、そこに座っても問題が無さそうな方の、人選をお願いできないかと思いまして」
ほんと難しいんだよなあ、番台に座るひとって・・色んなトラブルの原因になりかねないからなあ。
俺のイメージでは、例えば・・・。
「そうじゃなあ・・・あの婆さんはどうじゃろ」
・・・そう、お婆さん!
「えっ?」
「ザイルばあさんじゃ」
「ああ~あのお婆さんですか!」
確かに、俺のイメージにピッタリ。
「でも、雑貨屋はどうするんですか?」
「ちょうど、娘のスージーがつい3日前に出戻ったところじゃ」
「でもどっ・・!?」
「ああ、領都の行商人に見初められて、5年前に嫁いだのじゃが、亭主に愛想をつかして出てきたそうじゃ」
愛想をつかしてって・・つかされたんじゃなくてね・・。
「・・なるほど」
「その娘のスージーが、雑貨屋の方を見れば問題ないじゃろ」
ラッキーなんだか、どうなんだか・・。
「もし、ザイルお婆さんにお願いできるなら、願ったりかなったりなんですが・・」
とりあえず他に当てもないし、お願いしてみるか。
「よし、それじゃあこれから一緒に行って、頼んでみるかの」
そう言って、ハサンさんが椅子から立ち上がった。
「い、いいんですか?」
「ミミも行くー!」
「ほっほっほ。さあ、行くぞい」
「わ、わかりました!」
俺はさっさと出ていこうとする、ハサンさんとミミを慌てて追いかけたのだった。
「・・という訳なんじゃが、引き受けてはもらえんかの?」
雑貨屋の前に着いてみると、店の前を20代半の女の人が箒で掃いていた。
その人が、スージーさんだった。
結構若いじゃん。
出戻りっていうから、もう少しいっているのかと・・。
あ、睨まれた。
ハサンさんが、そのスージーさんに声をかけて、一緒に店の中に入った。
そして、帳場にいたザイル婆さんに、事情を一通り説明したのだった。
「・・ど、どう・・で、しょうか?」
目が開いているのかどうかもわからない、皺くちゃの顔を見つめておずおずと聞いてみる。
「・・・・・ふむ」
長い沈黙の後、ひとこと呟いた。
笑った・・のか?
口の端がわずかに上がった様に見えたけど・・。
「面白そうじゃし、いいじゃろ。ここは、娘に任せる」
「え?あたしが?!」
ギロリと細い目で、スージーさんを睨んだ。
「わ、わかったわ」
慌てて、スージーさんがうなずく。
「で、でも。まだ完成していませんので、後日改めてお伺いしますので」
俺も思わずその迫力に、どもりながらも、そう言ったのだった。
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