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35.再会
しおりを挟む夕闇が迫りあたりが暗闇に染まる頃、クンネとレタルの背に乗って、アテルイとモレは西側の外壁をそのまわりを囲む堀ごと飛び越えた。
二頭は、音もなく国衙の内側の地面に着地すると、身をかがめて二人を降ろした。
昼間の聞き込みでは、東側の建物の一つにノンノたちがいるということだった。
「クンネ、レタル、君たちはここで待っていてくれ、ノンノを連れてきたら、もう一度僕たちを乗せてほしい。」
闇に吸い込まれるアテルイとモレの後ろ姿を、二頭は並んでお座りをして見送った。
幸い、所々に灯火が灯っているだけの国衙内は、建物の陰に入れば身を隠すことができた。
二つの小さな陰は、建物の大きな陰と陰の間を素早く移動していった。
「モレ!待って。」
アテルイが、建物の陰から飛び出そうとする、モレの衣の裾を引っぱった。
「それにしても、なんで俘囚ごときの妻子を、国衙内に住まわせなきゃならんのだ?」
「仕方あるまい、道嶋の大領さまのご指示だ。」
「国守さまのご指示じゃないのか!?」
「ああ、あの方は国守さまのお気に入りだからな。やりたい放題だ。」
暗がりに息を殺して身をひそめている、アテルイたちの目の前を、高そうな衣を着た官人が通り過ぎていった。
「あいつらが出てきた建物が、多分、ノンノがいる建物だ。」
アテルイの言葉に、モレがうなずく。
官人たちの姿が見えなくなり、話声も聞こえてこなくなるのを待って、二人はその建物に走り寄った。
例の如く、床下に潜り込む。
顔に、まとわりつく蜘蛛の巣を払い除けながら、進んでいった。
「父さまは、今頃なにをしてらっしゃるのでしょうね?」
女の子の声が聞こえてきた。
「ねえ、母さま、お家で父さまをお待ちしていなくて良いのでしょうか?」
どうやら、この上の部屋のようだ。
「道嶋宿禰さまがおっしゃるには、蝦夷の狼藉が続いているので、ここが一番安全なのだそうですよ。」
「そうなのですね・・・でも、わたしはお家が良いです。ここは、息が詰まりそうです。」
「しばらくの辛抱です、呰麻呂さまが参られれば、家に戻れるでしょう。ねえ、おつる。」
「はい、奥方さま。ノンノさま、もう少しの辛抱でございますよ。」
部屋の中にいるのは、ノンノと母親のリン、侍女のおつるだけみたいだ。
「ノンノ、ノンノ。」
「えっ!?」
アテルイは、意を決して声をかけてみた。
「アテルイお兄さま?」
ノンノは、ハッとして、あたりを見回している。
「そう、アテルイだ。」
「え?どこ?どこにいるの?」
「どうしたの?ノンノ。」
ノンノの様子を見て、リンがたずねた。
「いま、アテルイお兄さまの声がしたの。」
「アテルイの?」
「はい。アテルイお兄さま、どこにいるのですか?」
「下だよ、床下。」
「おつる!」
今度は聞こえたのか、リンがおつるに目配せをする。
おつるはうなずいて、部屋の隅へ移動し、衝立の陰の床板に手をかけた。
すると、床板が外れて、暗い口が開いた。
「「久しぶり!」」
やや間があって、頭が二つ開いた口から、にょきりと出てきた。
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