日高見の空舞う鷹と天翔る龍 異界転生編

西八萩 鐸磨

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14.四天王

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 宝亀11年(780年)になった。

 父親の田公たぎみによると、3月22日(旧暦~以後特別に注記がなければ旧暦です)蝦夷で反乱があったらしい。

 伊治呰麻呂これはりのあざまろが、起こした乱だ。

 陸奥国むつのくにの国府、多賀城たがじょうは焼け落ちたはずだ。


 世の中が、きな臭くなってくる。


 朝廷は、地方の民の様子がとても気になっているようだ。

 各地に、問民苦使もみくしを派遣して、いろんな陳情を集めているという。

 讃岐へは、阿倍広人あべのひろひとという人が、属官ぞくかん判官ほうがん録事ろくじを連れてやってくるらしい。



***********************



 6月15日になって、俺は6歳になった。

 いつものメンバー、俺たちにとって、いつもの夏がやってきた。

 今年も屏風ヶ浦に行くことにした。


「じゃあ出発~、忘れ物はないね~?」

「うん、瓜も持ったし、もりも持ったし・・・。」

「よし、じゃあ行こう!」

「「「うん。」」」


 しばらくして、去年仏像を造ってあげた祠の前を通りかかった。


「いちおう、お参りして行こうか?」

「「「そうだね~。」」」


 みんな揃って祠の前に並び、手を合わせた。


「あ、真魚様!」


 村人が声をかけてきた。


「やあ、しっかりお供え物もあげてあるし、大事にしてくれているみたいですね。」

「当たり前じゃないですか!毎朝交代で、掃除してからお供えしていますよ。」

「そうですか、喜んでもらえて良かったです。」


 俺たちが話をしていると、村の方から一組の集団が近づいてきた。

 すごい高価そうな着物を着た人を先頭に、3人ほどが馬に乗っており、その他は歩きだ。

 すると突然、先頭の人が俺達の方を見て、慌てて馬から飛び降り、駆け寄ってきた。

 そして、俺の前まで来ると、目の前に跪きひざまずき拝礼をしだした。


「問民苦使様、突然どうされたのですか?そのような童子を拝礼なさるとは。」


 ようやく追いついてきた他の2人の内の一人が、綺麗な着物が汚れるのも気にせずに、跪くその人に言った。


「判官殿、あなたには見えないのですか?」

「「は?」」


 もう一人の人と同時に、判官と呼ばれた男の人が、間抜けな声で聞き返す。


「この方は、常人ではありません。四天王様してんのうさまが、白い天蓋てんがいを掲げて、お護りされている姿が見えますよ。」

「そ、そんなことがあるわけが・・・。」

「わたくしには、なにも見えませんが・・・。」


 勝手に盛り上がる身分の高そうな人たちを前に、俺を含めてその場にいたみんなは、ただただ、呆けていた。

 何なんだ、この人達は?


「あの、もみくし様?一体これはどういう・・・。」


 相変わらず興奮状態の男の人に、恐る恐る話しかけてみる。


「お、おう!これは失礼いたしました。わたくしは、南海道なんかいどう(紀伊半島、淡路島、四国ならびにこれらの周辺諸島)を担当しております、問民苦使の、従五位下従五位下阿倍広人と申します。」


 広人さんが、俺の声に振り返り、自己紹介をしてきた。


「あなた様が来られるというのは、父より聞きおよんでおります。多度郡司佐伯直田公たどぐんじさえきのあたいたぎみの子、真魚と申します。」

「多度郡司殿の、お子でしたか。」

「それで、先ほどのことは?」

「じつは我々は、あちらの村で陳情を受け終えたところで、これから郡司殿の館へ向かうところでした。すると馬上から遠くに白く耀く光のかたまりが見えてきて、だんだん近づいてくると、光の中にあなた様のお姿が現れ、思わず馬を飛び降りて、走り寄ってしまったのです。」

「そうなんですか・・。でもさきほど、四天王様がどうとか・・・。」

「はい、あなた様の背後に、四天王様~持国天、増長天、広目天、多聞天じこくてん、ぞうちょうてん、こうもくてん、たもんてん様のお姿がお見えになるのです。」

「い、今もですか?」

「はい。」

「「「「「え!!!」」」」


 聞いていた俺ばかりでなく、周りのみんなが一斉に声を上げた。


「ところで、その祠の中の仏様は?」


  そんな俺たちの様子をスルーして、広人さんが話を変えてきた。


「え?仏様ですか。」

「その仏様は、真魚様が昨年こさえてくださったものでございます。」

「ほう、真魚様が・・・なんと見事な!」

「その歳で、このような見事な出来栄えの像を・・・。」

「ありえん・・。」


 広人さんをはじめ、たぶん属官の判官さんと録事さんが絶句している。


「ま、まあ、けっこう大変でしたけどね。」

「嘘だあ!あっという間に造ったじゃんか!!」


 俺が適当に誤魔化そうとしていたら、メンバーの一人がバラしてしまった。



***********************


 その後、貴人だ聖人だと崇めようとする広人さんたちや、村人たちをなんとかなだめ、予定通り海水浴をたっぷりと楽しんだあと、館へ戻った。

 すると、問民苦使様一行が館に一晩泊まることになっていて、その晩また昼間の話を蒸し返されてしまった。

 父親の田公は、鼻の穴をふくらませて自慢げに喜んでいるし、玉ちゃんは「まあ!」と言ったあと、やはり嬉しそうに頬を赤らめていた。

 乳母のおせんは、豊満な胸を更に強調するかのように、反らせていた・・・。

 俺はというと、どう対応して良いのかわからず、ただ顔をひきつらせているだけだった。


 ようやく開放されて、自分の部屋に戻り、寝床に仰向けになった。


「そういえば、最近ステータス確認してなかったなあ・・・。」


 昼間の四天王の事が気になって、つぶやいた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


今回もお読みくださいまして、ありがとうございました。

さてさて、ステータスはどうなったのでしょう?

では、今後ともよろしくお願いします。


ご感想、どしどしお待ちしております!!!!




 

 
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