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12.海水浴
しおりを挟む宝亀10年。
五歳になった。
最近思い出したんだけど、伊治呰麻呂がおこす、宝亀の乱て、確か宝亀11年、西暦で言うと、780年だったはず。
だとすると、今年は西暦779年か。
ま、俺には関係ないと思うけど・・・。
「よし、今日は海水浴に行こうぜ!」
夏まっ盛りの旧暦の6月、風光明媚なこの瀬戸内海で、泳がない手はないよな。
「わ~い!行こう、いこう・・・で、海水浴って何?」
いつものメンバーの一人が、首をかしげる。
あー、海水浴って概念がこの時代はまだ無いのか。
確か17世紀のヨーロッパが起源だっけか。
それに・・・。
「海水浴ってのは、海の水に浸かって、泳ぐことだ。」
「えー、そんなの普通じゃないですか。しかも、なんの目的もなく泳ぐなんて、それのどこが面白いの?」
「ん~、まず海水に浸かるというのは、温泉に入るのと同じで、健康の維持と回復に効果があるんだ。海の水にもいろんな成分が含まれているからな。」
「せいぶん?」
「薬みたいなもん。で、浸かるだけじゃなく、泳ぐ距離や速さを競ったり、潜って魚を獲ったり、あとは浜辺で瓜割り(スイカは無いからな)をしたり、それから蹴まり(ビーチバレーも無いし)をしたりすると、楽しいと思わないか?」
「おお!真魚さまの話を聞いているうちに楽しそうに思えてきた!!」
「うん、おもしろそう!」
「よし、じゃあ決まりだ。目的地は、屏風ヶ浦にしよう。しゅっぱつ~!」
「おー!」
広田川に沿って、河口へ向かって進んでいると、おとなたちが集まって何やらもめている。
「どうしたんですか?」
漁師らしき男の人に、声をかけてみた。
「ん?子どもには関わりないことだ。あっちて遊んでろ。」
「いや、でもなんか困ってるみたいじゃないですか。」
声をかけても、振り返りもせず邪険にしてくる男の人に、気にせず言ってみる。
「しつこいなあ、あっちへ・・・・って、ま、真魚様!」
振り向いた男の人が、俺の顔を見て目を見開いた。
さすがに、この土地の郡司(おえらいさん)の息子が目の前に立っていたら、驚くわな。
「も、申し訳ございません。大変失礼いたしました。まさか、真魚様とは知らず・・・。」
「全然かまわないですよ。突然声をかけた、わたしの方も悪かったんですから。・・で、何かあったんですか?」
「そうですか、有難うございます。じつは、ここにあった祠が、この間の嵐のせいで安置していた菩薩さまと一緒に流されてしまったのです。」
「それで、村の衆が集まって、どうしたものかと話しておったところでしたのじゃ。」
男の人の隣にいたお婆さんが、しわくちゃの顔で、とても困ったとでもいうように、更にしわくちゃにさせた。
すると、周りのおとなたちも、困った、こまった、と言いながら頷いた。
「そうなんですか。それは困りましたねえ。」
祠は立派さを考えなければ、材料を持ち寄ったりしてなんとかなるものだけど、仏像は材質が石にしろ、木製にしろ、専門技術や知識が無いと、そう簡単には作れない。
「う~ん・・・。」
「べつに、郡司様にお願いしようとか、そういうことではありませんので、これは村の問題ですから。」
俺が本気で考えだしたのを見て、慌ててさっきの男の人が言ってきた。
「いや、ちょっと待って下さいね。」
もしかして、加護による付加能力ってやつで、なんとかなるんじゃないか?
確か、土木操作って土関係全般に有効なんじゃないかな。
でも、ここでそんな力を使って大丈夫なのか?
う~~~ん・・・。
でも『あめみな』も言ってたよな、空海が現れないとまずいことになるって。
ていうことは、ある程度小さいうちから伝説を創っていかないと、だめなんじゃないか?
「あの、真魚さま?」
「あ、ごめん、ごめん。考え事してた。」
固まったまま動かない俺を心配して、顔をのぞき込みながら声をかけてきた。
「仏様は、わたしがなんとかしますから、祠を建ててもらえますか?」
「え?真魚様が?」
「はい、土で作ることになりますが、それなりの物になると思います。」
「そ、そうですか。わかりました、お願いします。」
「どれくらいで建ちますか?」
「いまから総出でやれば、簡単なものなら夕方までには・・・。」
「すごいですね、早いじゃないですか。」
「元の祠も、雨風がしのげる程度のものだったので・・・。」
「じゃあ、それに間に合うようにしますね。」
「!!、真魚様こそ、そんなに早くできるんですか?」
「まあ、任せてください。」
「は、はあ・・。」
そこまで話をつけると、俺はすこし離れて待っていた、いつものメンバーのところに戻り声をかけた。
「お待たせ。じゃあ、海水浴に行こうぜ!」
「も、もういいのかい?」
「うん、あとは夕方に、ここに寄ればいいんだ。」
「ふ~ん。」
「おし、行こう、いこう!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あー、会話ばかりで長くなってしまった。(汗)
一回、話を切りますね。
今回もお読みくださいましてありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。
ご感想お待ちしております。
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