日高見の空舞う鷹と天翔る龍 異界転生編

西八萩 鐸磨

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 ここは、近江国。

 瀬田川が琵琶湖にそそぐ、河口付近。


 かつて聖武天皇は、たびかさなる災厄から逃れるため、平城京から恭仁京くにきょうと都を移し、ついには、ここからほど近い紫香楽しがらきの地に、紫香楽宮しがらきのみやを造営しようとしました。

 そして、この地に 盧遮那仏るしゃなぶつ、いわゆる大仏を建立しようとしましたが、またしても火災と地震に遭遇し、結局、都も大仏も平城京へと戻っていきました。


 近江国の国分寺も、はじめ紫香楽宮に造られましたが、同じく火災により消失、今はこの地、瀬田川河口の東岸に大伽藍だいがらんが創建されて、その偉容を誇っているのでした。


****************


 薄暗い金堂こんどうの中、蜜蝋みつろうで作られた蝋燭ろうそくの灯りだけがゆれている。

 微かに蜜蝋の溶ける甘い匂いがただよっている。


 大国師だいこくし行表ぎょうひょうの前には、数人の子どもたちが、正座をして向き合っていた。

 その中でひときわ大柄で色白、利発さが抜きん出ている様子の、10歳くらいの男の子の前に行表が立ち、おごそかに言った。


 「広野ひろのよ、なんじかいを授ける。この十戒を護り、よく修行に励むように。」


 広野は、合掌がっしょうし、一礼した。

 その瞬間、堂内の蝋燭の炎が風も無いのに一斉に揺れた。




 ここに、空海より七歳年長の、のちの伝教大師でんぎょうたいし--最澄が出家し、仏の道を歩きはじめたのだった。



****************




 その頃、讃岐国の空海--真魚は・・・・。


「やー絶景、絶景!おお!瀬戸内海が見えるぞ!!」


 近所の子供達を連れて、館の裏の山--香色山こうしきやまに登って、はしゃいでいた。
 

「よ~し、明日は筆ノ山ふでのやままで遠征するぞ!」

「え~~、真魚さまあ。筆ノ山は、ここより更に高いんですよ!ぜったい無理ですって!!」

「なにを言う、これくらいでへこたれるんじゃない!そんなことより、持ってきた弁当を食うぞ。」

「真魚さま、べんとうって何ですか?」

「ん?これのことだよ。『おにぎり』」

「え?それは頓食とんじきでしょう?そんな、下仕えしもつかえが食べるような物を、持ってくるなんて、真魚さまも物好きですねえ。」

「まあ食べてみなよ。いつもの頓食とは違うから。」

「・・・・・。」

「あれ?やわらかい!うまい!!」

「ほんとだ!おいしいです、真魚さま!!」

「だろ?姫飯ひめいいは、頓食に普通使われる強飯こわめしと違って、炊いてあるから、やわらかくて、ふっくらしているんだよ。これが、噛んだ時にホロリと崩れて、なんとも言えないんだ!」

「あ!真ん中になんか入ってる!!」

「ん~~酸っぺー!!梅干しだあ!」

「そう、これが飯とよく合うんだよ!それに、殺菌効果があるから、こうして持ち歩くのに最適さ。」

「さっきんこうかって何ですか?」

「ようするに、腹を壊しにくいってことさ。」

「あ~、梅干しの黒焼きは、腹痛の薬だもんなあ。」

「ちょっと違うけど、まあ、そういうこと。それにしても、山の頂上で食べるにぎり飯は最高だ~~~!!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


とつぜんシリアスモードで始まって、面食らってしまった方、ごめんなさい。


後半は、いつもの調子で、


アウトドアを満喫する真魚くんと、一方、きびしい修行の日々に突入した広野くんでした。


今回もお読みくださいまして、ありがとうございます。


ご感想お待ちしております!!

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