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第2章  解けない謎解き

第1話 形勢一変

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 都の喧騒から少し離れた場所に、マーシャル伯爵夫人の姉は生活していた。
その修道院へ向かって、薄暗い早朝から馬車を走らせる。
辺りの風景がハッキリと見分けがつくほど、明るくなる頃に目的地へ到着した。

約束どおりに出迎えてくれた方は、初老の女性で穏やかな笑みで近寄り挨拶してくれる。

「遠いところから、よく来てくれました」

現在修道院を預かる院長は、例の王妃様の女官長されていた祖先をもつ方だったのだ。

「この場所は婚姻を望まなかったり、縁がなく出来なかった女性が暮らしております。
ここは…。
……、罪を犯した王妃のお墓がある場所でございます」

世間の建前では、亡き王妃を悪者扱いにしているのだろう。
亡くなってこの世にいないのに、何百年も言われ続けている彼女を可哀想に思えた。
マーシャル伯爵夫人も、墓を知らずにいたのか。
私たちと同じ顔をされて、院長の話をうかがっていた。

『エリザベット様の祖先である。
その王妃様のお墓を守りたいと考えてたの?』

「彼女は、立派にお勤めをたしております。
ですが、本心はここに居たいのか、それは分かりかねます」

一通り話し終えると、院長はこの時間はその墓に花と祈りをささげているとその場を案内してくれた。

我慢の限界げんかいの末、夫の寵愛ちょうあいする女性の顔を刃物で切りつけた王妃様。
そのお方が、眠るお墓かここにあるのか…。

「あそこにおりますよ。
このまま引き返しますが、近くの大きな木の下にベンチがあります。
そこで座って、お話しされたら如何でしょう」

彼女は墓と私たちに一礼すると、もと来た道を引き返していった。
メリーもわきまえて、院長の少し後に続いて去っていく。

 
 残された私たちは、院長の指し示す方向に向きを変えて立ち止まる。
両膝をつき頭を下げて、何を祈っているのだろう。
修道女の灰色の服を着て、髪を隠した姿。
伯爵夫人は、私たちに気づかない姉に剥けて声をかけた。

「レニアお姉さま!
お久し振りでございます。
妹のヘレンですわ!」

姉妹だけあり似た面差おもざしだと、一番に思い浮かんだプリムローズ。
二人のやり取りを、間を開けて後ろでうかがっていた。

「ヘレン!
こんな所に、何しに来たの??!」

『何しにって、貴女のことしかないでしょう!
長く対面していないし、最初の会話の入りはこんなものだわ』

部外者で子供の彼女は、余りにも冷静に物事が考察できていた。

「パーン!ドシン……」

乾いた音と重たい物を無造作に置いた様な鈍い音が、木々の音しない静けさの中で響き渡る。
打たれた勢いで尻餅をついたまま、叩かれた頬を押さえ見上げる。

驚き立ちが上がる姉に、妹はそのほほ挨拶あいさつ代わりの一発いっぱつをお見舞いした。

「いっ、痛い!
ヘレン、何するのよ」

「何十通、いいえ!
どのくらい、私が手紙を書いたか覚えている?!
家族にも相談なく王宮へつかえ、今度は修道院!
自分の人生だからとおっしゃるが、家族は心配していたのよ」

「あの~、ちょっと……。
ケンカはやめて下さいよ。
私の声、聞こえていますか?」

睨み合う姉妹には、プリムローズの震え気味の小声は届いていない。
エテルネルの学園時代、自分たち姉妹のケンカを思い出していた。

『手は、出してはないがー。
姉からコンソメスープを制服にかけられて、口喧嘩くちげんかしていたのを思い出されるわ』

目の前で繰り広げている姉妹の言い争いは、赤の他人を無視して激化していく。

「手紙を読んではいたわ。
心配してくれるのは、有り難いと思っている。
目標を失って、どうしたら良いか。
まだ、自分もわからないのよ」

「じゃあ、何が目標だって言うの?!
女盛りを犠牲にして、お姉様は何をしたかったのよ」

私を無視して、2人して青春しているわ。
素人が頑張って、演じている劇でも観てるみたい。
くさい台詞せりふを、恥ずかしげもなく次から次へとー。

「あの人の為に、共に共通の目的に向かい秘密を分かち合う。
素敵な日々を送っていたわ。
私はむくわれなくてもいいの!」

あの人とはお亡くなりになったベルナドッテ公爵の妻、エリザベット様よね?

「亡くなって、この世にはいないのよ。
亡霊ぼうれいと遊んでないで、私とここを出て一緒に来てちょうだい!」

領地でお子様を亡くして気落ちし、引きこもっていたお方には見えない。
長寿ちょうじゅの水は、健康と同じくらい気分を変えてしまうのか?!
人格が変わるくらいに…。

「もう、あの方はいらっしゃらない。
エリザベット様は、べつに王妃様になりたくなかったのです。
御自分の家族と、のろいから開放されるのを期待した方々の犠牲になったの」

伯爵夫人の姉レニアは、呪いの原因を作った方の墓標ぼひょうを見つめた。

「お姉様は、何をしてたのですか。
学生時代、私はエリザベット様やお姉様の側にいました。
そして、第一王子に近寄る令嬢たちをいじめていましたわ」

「エリベッド様は、ワザと私たちを使っていじめをされていたのです。
その方が、目立っていたでしょう?
そうすることで、王子から印象を悪くしていたのですよ」

独り聞いていたプリムローズは、レニアの話にハッとして思い返す。

『夫ベルナドッテ公爵も同じ事を仰っていた。
妻は、エリザベットは王妃になりたくなかったと…』

「ワザとですって!
てっきり邪魔者を、排除はいじょする為にと思っていたわ」

姉妹の思いは一致してなかった。ただ身分が上のエリザベットに、最初は逆らえなかったのであろう。
それは、妹のヘレンだけだが。

「ヘレン、貴女は命令に逆らえなかっただけでしょう?
私は違う!
自分から望んで、お役に立ちたかったのよ」

修道女になった彼女の恋愛話が始まりそうなので、二人は驚き妹は恋愛に興味なさそうな姉の告白に棒立ぼうだちとなる。

「ねぇ~、お二人さん!
これは長くなりそうですわ。
形成一変けいせいいっぺん】にもなりそうですからー。
あちらで、ベンチに座って話しませんか?」

特に、妹のマーシャル伯爵夫人の顔色が変わってきている。
倒れても困ると心配し、プリムローズからお願いして言ってみた。

やっと初めてまともに見て、何で子供が居るのって顔をレニアはした。
いつもの事で見慣れ、その態度を気にしないで自己紹介した。

「初めまして、エテルネル国から留学に参りました。
プリムローズ・ド・クラレンスでございます。
え~っと、身分はー」

「そうしましょう!
私の考えとは、想像とは違う結末になりそうですし…。
これ以上、立ち話してたら目眩めまいがして倒れそう」

挨拶の途中を遮り、伯爵夫人は姉をグイって腕を引っ張る。
そのせいであろうか、丈の長いドレス姿でも大股とわかる歩きをしていた。
貴族の伯爵夫人とは、到底思えない姿であった。

『どこが、目眩して倒れるんだ?!
力強くドカドカ歩いていて、どの口が言っているの』

呆れながら足取り重くついて行くと、なぜか真ん中に座らされたプリムローズ。

王妃が眠る墓を前にして、3人は無言でベンチに座る。
何もしないで墓標を眺めると、不思議に心が落ち着いてきた。
普段なら鳥のさえずりが心地よく感じるのだが、それすら耳に入ってこない。
昼までに話し終えてと願ってプリムローズは、空で私たちを照らし続けるお日様を見上げてるのだ。


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