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第6章 薔薇とドクダミを君へ

第10話  未来の義弟よ

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 ブリエの特別室には、二人の若者が気まずい中で対面して座っていた。

「ロベール伯爵令息は、妹クロエと付き合っているのか?」

直接前置きもせず聞いてきたのには少し動揺したが、彼は平静を保ち話しを切り出した。

「私は、侯爵令嬢より年下で身分も低いです。
その前に1人の人として、ご令嬢の友人としてお付き合いさせて頂いております」

「クロエは友人としては付き合ってないと感じるが、君は違うのか?!」

彼女の兄の言い方に悩んだが、誠意を込めて相手の思いに返す。

「失礼ですが、ご令嬢は恋に恋しているように思えます。
いつかは目が覚めるかもしれない。
お互いに、相手の人柄を認めあう時間は必要です!」

侯爵令息は彼の返答に、今度は自分がなんとも言えない表情をして前にいる男を見た。

「妹は夢見る少女だ。
苦労も知らず生きてきた。
何も望まず、駄目なら直ぐに諦める。
そんな妹が初めて反抗したのが、第2王子との婚約話だ。
そして、君に恋してる。
兄としては、心配で複雑な気分だな…」

侯爵令息は、苦い顔しため息を一度つくと、同時に外から扉を軽く叩く音が聞こえた。

ピエールが宝石を用意し、外からノックすると扉が開かれた。

ペリドットの指輪やネックレス、イヤリングなどを乗せたものをテーブルに静かに置く。

「こちらが当店にある。
ペリドットの最高のお品です」

ピエールは、侯爵令息が良く見える位置に並べた。

「エメラルドより薄い緑か?
じつに綺麗だな!
妻は、この宝石は持ってない気がする」

彼は宝石に興味を示した様に、じっと見ている。

「侯爵令息、エメラルドとペリドットは似ているのです。
だから昔の方は、ペリドットをエメラルドと信じていた時代があります」

侯爵令息は、エメラルドとペリドットを見比べて見ていた。

「確かに比べると、ペリドットの方が明るいな。
これはルビーを囲んでペリドットが付いてるな?!
変わった組み合わせではないかな?
私は、見たことがないぞ」

表情を明るくして、その宝石を見ている。
どうも侯爵令息は、その宝石を気に入ったようでずっと眺めていた。

「そのルビーは、我がロベール伯爵領地で産出した物です。
新年の舞踏会にて、国王陛下自ら発表する事になっております。
もしお買い求めになりましたら、誰よりも、1番最初にお持ちの方になります」

ラファエルが説明すると、ノワイユ侯爵令息から驚きの声があがった。

「えっ、ほぉ~っ!
ロベール伯爵領にルビーが出たのか!!
それもまだ誰も知らないとは、なぜ私に教えてくれたのだ?!」

「たまたまですよ。
ピエール殿が持って来られたから説明しました。
それだけです。我が家のルビーは、ブリエにしか卸さないと決めてます」

ラファエルの話を終えてから、ピエールも続けて侯爵令息に話し出す。

「この話は、国王陛下が発表するまではご内密に願います。
そして、このデザインはラファエル君の作品です。
彼は美的感覚が素晴らしい。
凄い才能をお持ちですからな」

侯爵令息はラファエルと宝石を交互に見て、2人にこの宝石に決めたと言ってくる。

「ノマイユ侯爵令息、お買い求め有り難うございます。
どのお品に致しますか?!」

ピエールは、同じデザインのネックレスと指輪とイヤリングを見せて聞いてきた。

「全部に決まっているぞ!
こんな素晴らしい宝石を、他人には譲りたくないからな。
ましてや、義理に弟なるかもしれない貴重な作品だぞ。
ロベール伯爵令息、兄としてクロエを宜しく頼む。
我が父には、私から君のことを伝えるから安心しろ義弟よ!
アハハハー!!」

 ちょっと、待ってよ?!
なに勝手に、義弟扱いをしているのさ。
まずい、きっちり否定しなくてはー!!

ラファエルは、自然と額に冷や汗をかいていた。

「ノマイユ侯爵令息、義弟は誰ですか?
私はあくまでも、友人の1人としてクロエ嬢とお付き合いしてます。
話を聞けば王子妃候補までになったご令嬢を、たかが伯爵にとは誰もが考えません。
侯爵令息は、お人が悪いご冗談をー」

昔はさんざん、両親に姉たちに振り回されていたわ。

今度はボケボケ令嬢に、まさかこの人も足されるの。
いい加減にして、このまま振り回され流される人生は御免よ!

ラファエルは侯爵令息を睨み付けて、沈黙し返事を待っていた。

部屋には、変な緊張感が走っていた。
それを打ち切るように、あるものが告げた。
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