上 下
23 / 59
第3章 子猫の飼い主さん

第6話  旅立ちのご挨拶

しおりを挟む
 女性たちは、明日からの休みについて話していた。

ラファエルは外の景色を見て、一軒の立派な宝石店を目した。
見習いでもいいから、本当の質のよい宝石を見たいなぁ。
しかし、家の者に相談することは無理だ。
誰も頼れる者もいない、当たって砕けろで店に直接に頼みに行ってみよう。

「ラル!着いたわよ!!」と、次女シモーヌはボーッと考えていたラファエルに声をかける。

「あ、すみません。姉上!」

返事をすると、居間に行って母に挨拶する。
ラファエルだけが、1人自室に向かった。

ノマイユ侯爵令嬢だけが、ラファエルの後ろ姿をじっと見続けていた。
 
「伯爵令嬢と、ザィールに年末に旅行に行くのですか。
素敵な方との、出会いがあると宜しいですね」

母アリシアは、わざわざ知らせに来てくれた侯爵令嬢に好意を持ち始めていた。

「はい、両親も賛成してくれました。
思いきって話し合って良かったです。
あんなにも、私の結婚について心配をかけていたなんて!」

「伯爵令嬢は、ご婚約者と、御一緒に行くのですね。
それは楽しい旅行になりますわね」

次女シモーヌは、侯爵令嬢の友人の伯爵令嬢に話をふった。

「ええ、初めての外国ですのでワクワクしますわ。
クロエ様とは領地が隣で、お互いに泊まりあっていましたの。
まさか、お相手探しを頼まれるなんて」

ロベール伯爵の姉妹は、話を聞きホッとした。
弟に言われた通りに、学園卒業後は結婚して奥様と呼ばれるのだ。
いつまでも人がいいばかりでは、確かにいけないと反省していたのだ。

「でも驚きましたわ。
噂では聞いておりましたが、弟君は優秀でとても美男子ですね。
無口なお方のようですが?」

伯爵令嬢の話を2人の姉たちは、吹き出し笑いだした。

「フフフ、弟は無口ではありませんことよ。
女性に囲まれて、慣れずに緊張したんですわ」

長女エミリーは、嘘を言って言い訳をした。

「ロベール伯爵令息に、お二人から御礼を伝えて下さい。
一歩踏み出す勇気を頂きました。
あのままでしたら、私は第2王子の妃になるところでした」

クロエは帰ってから独りでよく考えて、この答えを導き出した。

「クロエ様は王子の思い人のあの令嬢から、言われなき誹謗中傷ひぼうちゅうしょうを受けてましたのよ」

伯爵令嬢の暴露話に、ロベール伯爵家の女性達は驚きの声をあげそうになる。

「水をかけられている、あの令嬢ですよね。
私たちも、1度犯人扱いされましたのよ。
金髪の女性にされたと怒ってましたわ」

「あの時は弟のラファエルが、わざわざ許可を先生から貰って中等部から助けに来てくれましたのよ。
あの子は、私たちが小さい頃から助けてくれました。
私たちが素敵な婚約者に巡り会えたのも、弟のお陰と言ってもいいですわね」

ロベール伯爵の姉妹は、弟ラファエルに感謝しきれない様子で令嬢たちに話すのである。

「あの令嬢はなにかと言うと、金髪の人がしたと言います」

伯爵令嬢は、ノマイユ侯爵令嬢の髪を見て言う。

「侯爵令嬢はしてないんですよね?」

母アリシアは、侯爵令嬢の金髪の髪を見ていた。

「はい、ですが殿下も私を疑っておりますの。
1度殿下自ら、虐めをやめてくれと言われて驚きましたわ。
殿下は、彼女以外は信じてない様子でした」

クロエは思い出したのか、暗い表情を一瞬する。

「恋は盲目と申します。
だがそれは、いつかは人として駄目になりますわ。
まだ若いから許されますが、第2王子の立場を考えて行動して欲しいですわね。
私のような中流貴族の妻では、何を言っても無駄ですが」

ロベール伯爵夫人は、王族たちを思い苦言した。
ここにいる令嬢たちは、伯爵夫人の話に深く賛同していた。

「ザィールから戻りましたら、またお話を聞いて頂けますか?
ロベール伯爵家の方に、ご報告したいのです。
その身内には正直に話しづらい事も、何故か話せそうなのですわ。
御迷惑だと思いますが、相談にのって下さいませ!」

ノマイユ侯爵令嬢は、赤い顔をして恥ずかしげにお願いしてくる。
ロベール伯爵家の女性たちは、そんな侯爵令嬢を可愛らしく思うのであった。

「ええ、お待ちしてますよ。
旅行では、淑女らしくね。
殿方には悪い方もおりますから、お気をつけて下さい。
ごめんなさいね。口やかましくて、ホホホ」

伯爵夫人が優しく話しかけると、二人の令嬢たちはハイと返事を返した。

 メイドと一緒に末っ子セドリックが、子猫だったアジュールをつれてきた。

「こんにちは、セドリック様。
お邪魔してますわ。
アジュールも元気そうですわねぇ!」

「こんにちは、お姉様たち。
いらっしゃいませ!
お兄様が、お姉様にアジュールを見せてあげてと頼まれました。
あ、言っちゃった。
内緒だったんだ、エヘへ」

末っ子セドリックは、嘘をつけない純真な少年だったのだ。

「これがクロエ様が言われていた猫ちゃんなのね。
母は動物が苦手で、飼えなかったの。
凄く可愛らしい、猫ちゃんですわ!」

侯爵令嬢の友人が、アジュールを見て頭を撫でて言ってくる。

「ロベール伯爵令息は、お優しい方ですね。
わざわざ、アジュールを見せるようにしてくれるなんて!」

侯爵令嬢は、胸がドキドキしてきた。
もしかしたら、私はラファエル様に好意を持ってるの?!

でも、ラファエル様は私より2つ年下だわ。
彼は私を何とも思ってないみたいだし、嫌われている気がする。

あきらめて頑張って探しに行かなくては、ザィールに未来の旦那様がいるはずだわ。
クロエは自分自身に言い聞かせた。

ロベール伯爵家の訪問から、3日後に彼女は友達とザィールに向かう。
世間知らずの箱入り娘には、この時は刺激的な世界が待っていようとは想像できなかった。
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...