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第2章 不思議な花壇と捨てられた子猫

第2話  息子の成長

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 屋敷に帰る馬車の中で、姉たちは安心したのか。
先程の殿下に怒鳴られたのを思い出したか、また泣き出してしまった。

なかなか泣き止まない様子で、ラファエルは姉妹を優しくになぐめたのである。

「姉上たちは、何も悪くないのです。
お泣きになりなさるな。
それにしても、第2王子と一緒にいた女性はなんなんですか?
近くにいたら犯人扱いとは、初めて見た方ですがあまり賢そうに見えませんね!」

ラファエルは、大好きな姉たちを泣かした王子とその令嬢に腹を立てていた。
こちらも、腹の虫が収まらない様子。

「ラル、助けに来てくれてありがとう。
貴方が殿下に毅然きぜんとした態度でいたので、対処できたのです。
私たちは、怖くて違うとしか言えなかったのよ」

可哀想に、相手はこの国の王子様ですもの。
あのままだったら、姉たちは無実なのに泣いて謝っていたかもしれないわ。

「ラルは、もうすっかり立派な紳士ね。
それに、勇敢でとても優しいわ。
王子よりも王子様のようでしたよ。
私は、この国の王子たちは尊敬致しませんわ」

次女シモーヌは、目から涙を流し続けて弟に感謝している。

私も幼い時は王子様に憧れていたけど、あれって絵本の中の話しだけね。
現実ってあの程度なのね。
なんか、想像と違い凄くがっかりしましてよ!
お姉様たちは、もう完璧に王子を軽蔑けいべつしているようだわ。

  夕食の時にこの話題が出たのは、王家よりロベール家に例の件の詫び状が届いたからだった。

「そうか、お前たちも災難だったな。
貴族の間でも噂になっておるぞ。
第1王子は女癖が悪い。
第2王子は粗暴そぼうで、側にいる令嬢は礼儀知らずな頭が足りないと言われているようだ」

父モーリスは、半ばあきれ顔で家族に噂話してくる。

「私も、そのご令嬢の噂を聞きましたわ。
婦人会の御婦人たちが話されてます。
どうも嫌われて、学園で誰かに水を掛けられてるそうですわ」

母アリシアは、姉二人にそんな恥知らずな行為はしないように言い聞かせていた。

「お姉様たち。
父上や母上のお話は、事実なのですか?
私は中等部ですから、よく知りませんでした。
水をかけられるとは、よほど恨みでもあるんですか?その令嬢に…」

女同士の醜い所業しょぎょうに、恐ろしさを感じてしまう。

「彼女は、ほとんどの女子生徒たちに嫌われてるわ。
何かあると、なんでも殿下に泣きつくのよ。
あれでは、令嬢たちだって面白くないわね」

長女エミリーはしかめっ面をして、弟ラファエルに詳しく彼女の話をした。

「殿下もそんな彼女を守る騎士になり、自分に酔ってるの。
周りはバカバカしくて、冷たい目で二人を見ているわよ」

次女シモーヌは眉間にしわ寄せて、家族全員を見ながら説明するのだった。

「どちらが王になっても、あまり尊敬はされません。
皆さまは、ただ黙って静観してる様子ですわね」

母は不敬になる言葉を、堂々と言ってのけた。

「私たちの身分では、どうも出来ん。
できる方は、唯一筆頭公爵の戦の神であろう。
あの方には、王とて逆らえない。
公爵の妻は、あの大国アルゴラの元第1王女殿下であられる。
我が家は、静かに自分たちを守っていこうぞ。
ラル、お前は立派な後取りだ。
姉たちを、こうして助けたのだから!」

父は微笑み、息子の成長を喜びを表した。

あの男女がこんなにも正義感が強くなって、幼い頃のドレス姿をふと思い出す。
密かに手で、目頭に出てくる涙を押さえていた。

そんな会話をイマイチ理解できない、幼い次男は兄がめられていることだけはわかっていた。

「お兄様、大好きです!
僕はおおきくなって、お兄様の様になりたいです」

可愛らしい弟セドリックは、優しい兄を目を輝かせて見ている。
その純な汚れなき瞳を見て、良心が痛むラファエル。

あぁ~どうしよう、困っちゃうわ。
セドリックを私の代わりに伯爵になって貰って、私は宝石商になりたいんだけど…。

だって、宝石ってキラキラして綺麗でしょう!
ドレスは泣く泣く諦めたのだから、せめて宝石ぐらいはいいわよね!

ラファエルは、宝石の種類の勉強を内緒でしていたのである。
家族は誰ひとり、そんな彼のたくらみを知らなかった。
  
 
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