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第4章  光と闇が混ざる時

第16話 以心伝心

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 王弟の忘れ形見が見つかったとの噂はヘイズの王都のヴァロいる貴族たちには完璧に知れ渡った。 

「そろそろ、敵から動きあってもいい頃なんだけどな。
やる気があるのか、ないのか」

教室で窓の外を眺めて小さく独り言を言っていたら、ピーちゃんらしい白い鷹が前にある木に止まり睨んでいた。

『あれは、ピーちゃん!何か伝言かしら?
足には手紙が巻かれていないわ』

ピーちゃんだけ分かる、飼い主からの理解不能の謎なサインで指示を送る。

『いまは授業中で、休み時間になったらね!』

「クラレンス嬢!
授業中に何をしているんです。
ダンスのお時間ではないのですよ」

クスクス、ホホホの上品な令嬢たちの笑い声が全体に響く。

「小さな虫が前を飛んでいたのです!」

「あらっ、虫ですか?
それなら仕方ありません。
皆さん、授業を続けますよ」

虫ならぬ、鷹であったが……。

『うまく誤魔化せて良かったわ。
ピーちゃんがあんな目付きをしていたのは、緊急な出来事があったに違いない』

プリムローズは気になり、先生の話は上の空で聞き流していた。

   

 授業を終える鐘がなると一目散に教室を出て、ピーちゃんに会いに外へ駆け出す。
こんな奇妙な姿を数人の生徒が目撃していた。

「はぁはぁ、そうだった!
指笛で呼べばいいんじゃない」

荒い息で弱々しいが反応して、白い物体と茶色の物体が彼女の前に降り立った。

「ピーちゃん!
それにお仲間さんまで!
何か緊急な出来事があったの!」

二羽は首を上下に振り、プリムローズに返事する。

「えっ!!
まさか、エリアスが誘拐されたの?」
  
今度は、左右に振ったような気がする。

「う~ん、違うの?
誰かに拐われたのよね?」

「ピー!!」、そうだと羽を広げて鳴いて教えてくれた。

こんな時に、ピーちゃんが人なら良かったのにと思ってしまった。

「【以心伝心いしんでんしん】!
文字や言葉を使わなくても、お互いの心と心で通じ会えるわ。
私とピーちゃんの間柄ですもの。
私たちには、種族を越えた愛がある。
ああ~、くじけちゃダメよ!」

鷹たちには分からないが、何やら気合いを入れてるのだけは察した。


「ヨシ!エリアスは無事なのね」

激しく喜んでいるようだ。

「そうか、そうか。
じゃあ、エリアス意外で学園に通っているのは……。
ピーちゃん、スクード公爵の息子オスモ様なの??」

どうして、オスモ様なの?
1番の厄介者、東の将軍の嫡男を狙った。

「ピッピッ!ピぃーー!」

「そうか、よく考えたらあり得るかも知れないわね」

納得していると、まだバタバタしているのを不思議に思う。

「ピーちゃん、オスモ様以外にまだいるの?」

激しく首を振り目が回らないか、飼い主は思わず心配になった。

「オスモ様より狙われる方…。
あーっ、あの王子!
兄ブライアンの偽者ね」

「ピぃーー!!」

「ウソー!!本当なの??
ああ、マジにそうなんだ。
二人も拐われたのか。チッ!」

幼い頃の環境がそうさせたのか。
自我が出ると、無意識に乱暴な言葉遣いになる。
公爵令嬢プリムローズ。

「スクード公爵夫妻に、急ぎお知らせしなくては!
お祖父様たちは、殿下が拐われたのはご存知なのかしら?」

木の幹を台にして手紙を書きながら、彼女は彼女なり考察してみる。

『もしかしたら!
ルシアン殿下をわざと無防備させたの?
さすがに、それはないな』

「ピーちゃん!
先にスクード公爵で、次にお祖父様の屋敷よ。
イーダさんと、メリーに渡してね。
杖をついた黒い服着たお婆さんよ!」

任せろと言うように一声鳴いて、空高く舞い上がって消えて行く。

「さぁ、今度は私の番だ。
どうやって、早退したらいいの。
具合悪くして、エリアスも連れて帰らないといけない」

やり取りと拐われたショックで、彼女は疲れてベンチに座ってしまう。
考えにふけっていたら、ライラ様の私を呼ぶ声が聞こえてくる。

「プリムローズ様、こんな所にいましたのね。
次の授業は、音楽室に移動しなくてはいけませんわ。
あらよく見たら、顔色が悪くありませんこと?!」

『コレだわ!
この機会を逃してはならない。
絶好のチャンスー!』

弱々しく眉を下げて、潤む紫の瞳をライラに向けた。

「ライラ様…、私。
気分が悪いので、外の空気が吸いたくなってー。
ここに来たら、ますます具合がー」

顔を下に向けて話すと、ライラは隣に座りプリムローズの手を握る。

「なんと、冷たい手なんでしょう!?
貧血ではございません?
すぐに、先生をお呼びしますのでお待ち下さいませ」

「ありが、とう。
お願いが、あります。
平民の…、エリアスという名前の。
男子学生を呼んでください。
はぁ~、私の愛馬の世話係なんです」

「プリムローズ様、分かりました!
ちょっとだけ待ってて、急いで連れて参りますわ!」

立ち上がるとドレスを両手で持ち上げて、勢いよく走り出して建物に向かっていく。

「私のために一生懸命してくれて、ライラ様はいい人ね。
婚約者のオスモ様が、敵に誘拐されたとは言えないわ。
彼女に気づかれる前に、必ず助けなくてはならない。
バカなお兄様もね」

ついでのように言うが、この人に何かあると外交的にまずい。
クラレンス公爵家にとってもだ。

「別な意味で荒れるな。
船に乗った時よりも、荒れるのかなぁ」

腰を折り前屈みで、地面にいる蟻を見ては呟いていた。
バタバタと駆ける足音を感じて、その方向へ顔をやるとエリアスが必死に走ってきている。

「お嬢様ー!!大丈夫ですか!ハァ、はぁはぁ……」

エリアスやライラをだましていて、心が痛むが芝居しなくてはならない。

「エリアス…、よく来てくれました。
ちょっと、クラクラして……。
屋敷に戻りたいのです。
一緒に、帰ってくれない?!」

「当たり前ですよ!
帰ってお医者様に診て貰いましょう」

「プリムローズ様!
担任の先生をお呼びしましたわ」

大事になってしまい。
彼女は、本当に具合が悪くなりそうになる。

「先生…、ご迷惑かけます。
貧血だと思いますが、帰宅しても宜しいですか?」

 「へーディン侯爵令嬢から話を聞きました。
明後日から冬休みに入ります。
授業は今日までで、明日はたいした事はない。
休みに体調を治しなさい」

『冬休み…、そうか。
休みの期間を待っていたのか』

プリムローズは府に落ちて、唇を固く結ぶと首を1度ハッキリと振るのだ。

「エリアスさんでしたね。
プリムローズ様の鞄です。
彼女を頼みましたよ」

「はい!へーディン侯爵令嬢。
お嬢様、立てますか?
私の肩にお捕まり下さい!」

彼は片ひざをついて、手を乗せやすい様にしてくれる。
申し訳なく感じては、そのまだ細い肩に手をかけるのだった。

こうしてプリムローズは早退出来たが、これからの事を想像すると足取りがおぼつかないのである。
暗躍という、嵐の前触れなのか。
風が強く吹いてきては、プリムローズのプラチナブロンドの髪がなびかせた。
  
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