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第6章 黒い森の戦い
第34話 一石二鳥 【最終話】
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複数の別れが短い時間に、一同に起こる日となった。
マーシャル伯爵の屋敷というより城は、玄関ホールや中庭には人々でごっちゃ返っている。
話し声と泣き声が混じり合って、近づいて集中しないと聞き逃しそう。
「お祖父様、お祖母様。
どうか、お気を付けて下さい。
波穏やかに、船が進むのをお祈り申しあげてますわ」
「ありがとう、プリム。
また、あの森を通り抜けるのでしょう。
貴女も気をつけて帰るのですよ」
私とお祖母は、これからの互いの旅の安否を気遣っていた。
「ウィリアム殿とギャスパル殿よ。
別れは辛いが、またこうして会える。
迷惑かけるが、あの子をよろしく頼むぞ!」
祖父グレゴリーの視線の先には、愛する家族が別れを惜しむ姿を目にして話す。
「グレゴリー様、長きに渡り有り難うございました。
しかし、私たちが生きて国に戻って良いのかと思ってしまいます」
「父上、そんな風に言うなよ。
親父様やお嬢の配慮で、ゲラン家を再建できる機会を与えられたんだ。
素直に感謝しようぜ!」
息子が父を説得し、こちらは主従関係を解除して新たに友人となる。
そんな会話を耳にしてプリムローズが、三人の前にスキップを踏みように現れた。
「お祖父様~!
あのハーヴモーネの屋敷を、ウィル親方とギルに差し上げるのね。
私、スクード公爵のお屋敷からそちらへ引っ越してもいいですか?!」
2人が守ってくれる。
それに一緒に住めば、【一石二鳥】だ。
そう考えた彼女は、別れのギリギリにお願いする。
頼むタイミングを逃さず、けして逃さない孫娘。
時間が差し迫っているので即決即断をしなくはならない、せっかちな祖父。
二人は目と目を合わせ、何かと戦うかのように腹の中を探る素振りをしていた。
二人の緊迫した空気を晴らすかのように、やんわりウィリアムズ・ゲランが間に立った。
「もともとは、グレゴリー様のお屋敷です。
プリムローズ様が住まわれるのは、至極当然ではありませぬか」
ウィル親方は、今まで世話になったクラレンス公爵に対して恩義を感じてるみたい。
視線を離さずにいた両者はその申し出に満足し、同時に目線を離しウィリアムに顔を向ける。
「皆で楽しく暮らそう!
何人かはヘイズに残るみたいだし、こりゃあ賑やかになるな」
この男は、どうも遠慮って文字を知らないようだ。
血のつながりがある親子なのかと、彼女は二人を見比べていた。
「父上はできた人物なのに、息子の貴方は何なのよ?!
ちゃんと私がヘイズにいるまでは、責任持って護衛してね」
「プリムローズを頼んだぞ。
これで、別れがすんだ。
儂らは、エテルネルに帰るとするか」
あの戦いでお祖父様に騙されて、イヤイヤちがう。
魅了されて新規子分たちになった者たちも、故郷ヘイズを出で新天地エテルネルについて行く。
近寄る足音の方へ体を向けると、ルシアン殿下が別れの挨拶をしに話の輪に入ってくる。
「プリムローズ嬢。
想定外なこともあったが、会えて色々と話せて良かった」
「私の正直な気持ちは、貴方様に振り回されて疲れましたわ」
「迷惑かけてすまなかった。
私もこの先を見据えて、心身共に少しでも大人になるよ」
想定外は、貴方がヘイズに来たことです。
予知夢で予想はしていたが、ここまでお見事にやらかしてくれた。
もうヘイズに二度と来んなよと、眼力を込めて鋭くする。
「……、そうして下さい。
今のままですと、貴方がキツそうですものね。
しっかり、お兄様!」
彼女は、先程から手に持っていた袋を彼に渡す。
「もしかして、私のための別れの贈り物か。
有難う、嬉しいよ!」
喜びで顔を赤らめて、その鞄を嬉しげに受け取る。
中身は何だろうか、かなりの重みを感じた。
「これは、エテルネルの学園の友人たちへの手紙です。
あとは、側室スザナ様の懐妊のお祝いの品です。
貴方様なら、いち早く確実にお渡し出来るでしょう。
【一石二鳥】です。」
要するに、使い走りの郵便屋さん。
私はそなたの国の王子だと、不満を言いかけた。
しかし、誰一人味方になりそうな者が居ないので我慢する。
「ああ、仕方がないな。
可愛い妹からの頼みだ。これは、一応は預かる。
お前も元気に頑張れよ」
兄らしく語ると鞄を握りしめて、彼女に屈んでおでこに別れのキスしてみた。
終わった瞬間、飛ぶように彼女から離れる。
危機管理能力が、前回の経験により進歩した証拠だ。
見ていた知らぬ人たちは、滑稽に見えていた。
キスされた箇所を抑えて、笑う目は冷ややかではある。
反撃されないだけ、ちょっとは二人の仲が進展したように思ったがー。
「お兄様は、父上に似た性格しておりますわ。
女性には過度に親しくされると、勘違いされて大変な思いをされますよ」
本物の父、かつてはエテルネルの王太子であったが女性問題でその地位を追われた経験者。
皮肉を込めた冷たい返しと、気持ちがない別れの挨拶。
「ブライアン、貴方の為に急ぐのです。
プリム、今度はお荷物を連れて来ないで参りますからね。
さぁー、行きますよー!」
祖母ヴィクトリアが、腕が抜けてしまうのではと思うぐらい強く引っ張って歩く。
「お祖父様、お祖母様~!
ついでに、ブライアンお兄様もお達者で~」
紫の瞳を潤ませて、手を振り別れ惜しむ。
「あ~、行っちゃった。
また暫く、お二人にお会いできないのね。
私も、ヴァロに帰るとするか」
寂しい気持ちを抑えて、自分も王都ヴァロに旅立つ想いを強くする。
これで暗躍も、もう出来なくなっただろう。
首謀者のエドアルド・ヴェントが捕まったからだ。
しかし、まだ暗躍のきっかけとなった謎解きが終わってなかったのを彼女は知らずにいた。
過去から未来へ向けて、本当の真実が明らかになる。
ー 完 ー
ーヘイズ留学 過去から未来編 に続くー
マーシャル伯爵の屋敷というより城は、玄関ホールや中庭には人々でごっちゃ返っている。
話し声と泣き声が混じり合って、近づいて集中しないと聞き逃しそう。
「お祖父様、お祖母様。
どうか、お気を付けて下さい。
波穏やかに、船が進むのをお祈り申しあげてますわ」
「ありがとう、プリム。
また、あの森を通り抜けるのでしょう。
貴女も気をつけて帰るのですよ」
私とお祖母は、これからの互いの旅の安否を気遣っていた。
「ウィリアム殿とギャスパル殿よ。
別れは辛いが、またこうして会える。
迷惑かけるが、あの子をよろしく頼むぞ!」
祖父グレゴリーの視線の先には、愛する家族が別れを惜しむ姿を目にして話す。
「グレゴリー様、長きに渡り有り難うございました。
しかし、私たちが生きて国に戻って良いのかと思ってしまいます」
「父上、そんな風に言うなよ。
親父様やお嬢の配慮で、ゲラン家を再建できる機会を与えられたんだ。
素直に感謝しようぜ!」
息子が父を説得し、こちらは主従関係を解除して新たに友人となる。
そんな会話を耳にしてプリムローズが、三人の前にスキップを踏みように現れた。
「お祖父様~!
あのハーヴモーネの屋敷を、ウィル親方とギルに差し上げるのね。
私、スクード公爵のお屋敷からそちらへ引っ越してもいいですか?!」
2人が守ってくれる。
それに一緒に住めば、【一石二鳥】だ。
そう考えた彼女は、別れのギリギリにお願いする。
頼むタイミングを逃さず、けして逃さない孫娘。
時間が差し迫っているので即決即断をしなくはならない、せっかちな祖父。
二人は目と目を合わせ、何かと戦うかのように腹の中を探る素振りをしていた。
二人の緊迫した空気を晴らすかのように、やんわりウィリアムズ・ゲランが間に立った。
「もともとは、グレゴリー様のお屋敷です。
プリムローズ様が住まわれるのは、至極当然ではありませぬか」
ウィル親方は、今まで世話になったクラレンス公爵に対して恩義を感じてるみたい。
視線を離さずにいた両者はその申し出に満足し、同時に目線を離しウィリアムに顔を向ける。
「皆で楽しく暮らそう!
何人かはヘイズに残るみたいだし、こりゃあ賑やかになるな」
この男は、どうも遠慮って文字を知らないようだ。
血のつながりがある親子なのかと、彼女は二人を見比べていた。
「父上はできた人物なのに、息子の貴方は何なのよ?!
ちゃんと私がヘイズにいるまでは、責任持って護衛してね」
「プリムローズを頼んだぞ。
これで、別れがすんだ。
儂らは、エテルネルに帰るとするか」
あの戦いでお祖父様に騙されて、イヤイヤちがう。
魅了されて新規子分たちになった者たちも、故郷ヘイズを出で新天地エテルネルについて行く。
近寄る足音の方へ体を向けると、ルシアン殿下が別れの挨拶をしに話の輪に入ってくる。
「プリムローズ嬢。
想定外なこともあったが、会えて色々と話せて良かった」
「私の正直な気持ちは、貴方様に振り回されて疲れましたわ」
「迷惑かけてすまなかった。
私もこの先を見据えて、心身共に少しでも大人になるよ」
想定外は、貴方がヘイズに来たことです。
予知夢で予想はしていたが、ここまでお見事にやらかしてくれた。
もうヘイズに二度と来んなよと、眼力を込めて鋭くする。
「……、そうして下さい。
今のままですと、貴方がキツそうですものね。
しっかり、お兄様!」
彼女は、先程から手に持っていた袋を彼に渡す。
「もしかして、私のための別れの贈り物か。
有難う、嬉しいよ!」
喜びで顔を赤らめて、その鞄を嬉しげに受け取る。
中身は何だろうか、かなりの重みを感じた。
「これは、エテルネルの学園の友人たちへの手紙です。
あとは、側室スザナ様の懐妊のお祝いの品です。
貴方様なら、いち早く確実にお渡し出来るでしょう。
【一石二鳥】です。」
要するに、使い走りの郵便屋さん。
私はそなたの国の王子だと、不満を言いかけた。
しかし、誰一人味方になりそうな者が居ないので我慢する。
「ああ、仕方がないな。
可愛い妹からの頼みだ。これは、一応は預かる。
お前も元気に頑張れよ」
兄らしく語ると鞄を握りしめて、彼女に屈んでおでこに別れのキスしてみた。
終わった瞬間、飛ぶように彼女から離れる。
危機管理能力が、前回の経験により進歩した証拠だ。
見ていた知らぬ人たちは、滑稽に見えていた。
キスされた箇所を抑えて、笑う目は冷ややかではある。
反撃されないだけ、ちょっとは二人の仲が進展したように思ったがー。
「お兄様は、父上に似た性格しておりますわ。
女性には過度に親しくされると、勘違いされて大変な思いをされますよ」
本物の父、かつてはエテルネルの王太子であったが女性問題でその地位を追われた経験者。
皮肉を込めた冷たい返しと、気持ちがない別れの挨拶。
「ブライアン、貴方の為に急ぐのです。
プリム、今度はお荷物を連れて来ないで参りますからね。
さぁー、行きますよー!」
祖母ヴィクトリアが、腕が抜けてしまうのではと思うぐらい強く引っ張って歩く。
「お祖父様、お祖母様~!
ついでに、ブライアンお兄様もお達者で~」
紫の瞳を潤ませて、手を振り別れ惜しむ。
「あ~、行っちゃった。
また暫く、お二人にお会いできないのね。
私も、ヴァロに帰るとするか」
寂しい気持ちを抑えて、自分も王都ヴァロに旅立つ想いを強くする。
これで暗躍も、もう出来なくなっただろう。
首謀者のエドアルド・ヴェントが捕まったからだ。
しかし、まだ暗躍のきっかけとなった謎解きが終わってなかったのを彼女は知らずにいた。
過去から未来へ向けて、本当の真実が明らかになる。
ー 完 ー
ーヘイズ留学 過去から未来編 に続くー
応援ありがとうございます!
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楽しく幼女編から読ませていただきました。続編楽しみに待っています。何度もあーそうか!と思う小説も、なかなかお目にかかれないのです!誤字脱字は脳内変換器を通しますがそれも、楽しく読んでいます。投稿ありがとうございました♪
よしにゃん様へ
この度は、作品の感想を頂きありがとうございました。
ド素人でまだまだ勉強中、誤字脱字をしてしまって御迷惑かけております。
それすら楽しんでくれてるようで、寛大な読者様のようで助かり感謝です。
有り難くて泣けます。( T∀T)
続編はゴールデンウィーク中に投稿予定です。
これからも宜しくお願い致します。
作者より