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第6章 黒い森の戦い
第31話 口八丁手八丁
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屋敷に戻ると彼女に割りあてられた部屋のバルコリーで、ピーちゃんが大人しく彼女を待っていた。
「ピ~ちゃん、待っていてくれたのね。
さぁさぁ、中へ入ってー」
「ピ~!ピ、ピッピィー!」
相変わらず飼い主の言葉を、理解しているのか?
疑問だがタイミングよく、鳴いては相槌する賢い鷹である。
「いつもありがとう!
長旅、お疲れ様でした。
返事もありますのね。
早速、読みますよ」
ピーちゃんに果物を与えてから、椅子に座り手紙を読み出すプリムローズ。
「えーー!早すぎだわ!
勝利を確信したら、もう出発したの?!
お祖母様、やること早いわー!
こっちとしたら助かりますが…」
それだけ、私たちを心配されていたのね。
じーんとする気持ちと同時に、
あのお祖父様の伴侶だけあって、似た者夫婦だと思っていた。
その分出発が早まり、エテルネルにギリギリ戻れる可能性が高まる。
「急ぎお祖父様にお知らせして、ジャムを作らなくてはいけない。
もう、忙しいたらありゃしない~!!」
いつものことなので、果物を食いつまみ鷹の目で見ていた。
鳴き声もせず、静かな視線を向けている。
どういう感情からなのかは、ピーちゃんしか分からないのであった。
ドタバタと部屋を飛び出だすと、祖父グレゴリーを探しに目につく人たちに居場所を聞き出すのであった。
「居た、お祖父様大変ですわよ!
お祖母様たちが、明後日にはコチラに着きますわよー」
戦の神の近くで、殿下が息も絶え絶え転がっていた。
だらしがない、手加減している稽古でこれとは…。
「ヴィクトリアが?
プリム、それにしても早くはないか?!」
「私たちの勝利を聞き、すぐに旅立ったそうですわ」
二人が嬉しげに会話している時に、ルシアンは地べたに大の字に寝転がっていた。
「そうか、そうか。
では、コチラも出発の準備を急がんとならぬ。
ほれ、起きあがって支度をしとけよ。
誰も手伝わんからのう。
プリム、屋敷に戻ろうか」
「今から、私はジャムを作りますのよ。
お祖父様、出来ましたらお味見してくださいね」
クラレンス公爵家の者たちのいつもの高笑いが、マーシャル伯爵の屋敷の庭全体に響き渡る。
完全に自分の存在を無視されて、屋敷にスタコラ歩いている二人。
その後ろ姿を見て、汗で目がしみて涙を流すルシアン。
『私はー、あの者たちの。
国の王子であるよな?!』
誰も居ない芝生の上で、大の字になり自分の頭と心の中で自問していた。
祖父は他の方々にも、思っていたより早く待ち人が来るのを知らせに行った。
聞いた方々は全員が驚き、とくにマーシャル伯爵は船の手配で大慌てする。
今度はプリムローズが必死にギルとニルスを捕まえると、厨房へ泉の水を入れた樽を運ぶように頼んだ。
「二人共、樽を落としたりひっくり返してはダメですからね。
また、汲みに行かなくてはならなくなるから」
独り先に厨房へ向かい、一番偉そうなそれっぽい料理長に声がけをする。
「料理長さんですか?
私はエテルネルから留学に来ている学生で、訳あって当屋敷に逗留している者です。
実は私の身を案じて祖国から来てくれた祖父母に、手作りのジャムを作りたいのです。
どうか、お力をお貸し下さいませ」
話しを聞いていた料理長は、健気な優しい小さな子を見て感動してしまう。
「勿論です。
端で、静かに作るなら問題ない。
しかし、火とかは危ない。
大人が見てないとダメだ」
まだ幼そうな彼女に、料理長は一人で調理するのを認めてくれそうもない。
悩むプリムローズは、樽を運んでくる二人を指差す。
「あの者たちが、火の起こし番を致します。
ですから、お願いします。
どうか、宜しいと仰って下さいな!?」
頼み事によく用いる上目遣いな目線に、眉をハの字にして胸に両手を組みお願いよ姿勢。
彼女の本性を知らぬ者は、ついころっとコレに騙されてしまう。
「まぁ、大人が2名いれば平気かなぁ?!
もし作り方が分からなかったら、おじちゃんを呼べば教えてやるからな」
「有難うございます。
なんて親切な、素敵なおじさま」
微笑む笑顔は、一見見たら可愛らしい天使に近い容姿。
頭をナデナデして、にこやかに笑う料理長。
まんまと、詐欺師に騙された瞬間である。
樽を黙ってプリムローズの近くに置くと、二人はあの笑顔に騙されていると口には出さずにその様子を伺っていた。
許可をおりると、彼女の態度は一変する。
料理長は持ち場に戻る際には、彼女らの近くで作業する下っ端に何かあったら教えるよう声がけをしていた。
「ギルとトンボも手伝ってね。
トーマスとアンナ、そして家族たちの分もよ。
たくさん作るから頑張りましょうー!!」
俺たちも作るのかと目を丸くする二人は、彼女の次から次へ指示する通りに動くしかなかった。
「お庭に植えてあった夏みかんのマーマレードを作るわ。
南国だけあるわよね~」
まずは皮を剥くが、それは彼女が手際よくこなす。
二人にはその皮の内側をスプーンで、丁寧に削ぎ落としてもらう。
彼女が小さく切ってからボールの中に泉のお水を入れて、彼らによく皮を揉ませてアクを出させた。
その間にプリムローズは、実の薄皮を剥き始める。
その工程を見て感心する下っ端の彼は、小さな子の割に指示は間違えていない。
よく喋るのに、手はそれ以上動かしているのを見てビックリしてしまう。
「まるで、【口八丁手八丁】。
口も達者で手先も器用。
これだけ細かく指示しながら、手が疎かになっていない」
感心していたら自分の作業が遅れて、焦りながら自分の仕事に集中することにする。
「二人は、瓶とフタと入れるのに使うスプーンを煮沸してね。
お水は、泉のお水を使うこと。
全部使っては駄目よ。
お祖母様が着き次第、お茶をそれでお淹れるのよ」
ジャムをヘラでかき混ぜていたら、二人はキチンと容器を用意してくれた。
「美味しそうにできた。
空き瓶を用意してくれたから、入れましょう!」
「はぁ~、やっと出来上がりか。
鍋に残ったジャム舐めてもいい?
お嬢さまぁ~、お願い!」
「もう、ギルったら!
まだ最後の仕上げが残っているのよ。
瓶が冷めたらフタにお湯がかからないようにして、また煮詰めるのよ。
そうすることで、ジャムが長持ちするの」
「へぇ~、お嬢は詳しいんだな。
食い意地だけじゃないんだ」
「やかましい!
船に乗りエテルネルまで、日数がかかるでしょう。
念には念を入れないと、腐っては食べられなくなるわ」
少し遠くからやり取りを見ていて、どちらが大人かと笑い近寄る料理長。
「アハハハ、こりゃあ驚いた。
小さいのに、よくご存知だね。
それにマーマレードのジャムが、とても美味しそうだ。
かなり、手慣れている」
驚きの口調で、プリムローズを褒めてきた。
「はい、祖国に居たときによく作っておりました。
調理場をお貸してくださり、感謝しておりますわ」
丁寧にお礼を言われて、彼は照れ笑いをして言う。
「構わないさ。
また、使いたい時は声をかけてくれ!」
そうアチラから言われ彼女は、祖母が屋敷に着いたらお茶を自分で入れてあげたいとお願いをするのであった。
孝行な孫娘に偉いなぁと、また彼に頭を撫でられるプリムローズ。
鍋のジャムをスプーンで掬っては食べる男二人は、お嬢と料理長の会話を耳にする。
お嬢がいい子ぶっている態度が、おかしくなり互いの顔を合わせて笑い出す。
水汲みとジャム作りを楽しんで、有意義に1日を過ごしていた。
「ピ~ちゃん、待っていてくれたのね。
さぁさぁ、中へ入ってー」
「ピ~!ピ、ピッピィー!」
相変わらず飼い主の言葉を、理解しているのか?
疑問だがタイミングよく、鳴いては相槌する賢い鷹である。
「いつもありがとう!
長旅、お疲れ様でした。
返事もありますのね。
早速、読みますよ」
ピーちゃんに果物を与えてから、椅子に座り手紙を読み出すプリムローズ。
「えーー!早すぎだわ!
勝利を確信したら、もう出発したの?!
お祖母様、やること早いわー!
こっちとしたら助かりますが…」
それだけ、私たちを心配されていたのね。
じーんとする気持ちと同時に、
あのお祖父様の伴侶だけあって、似た者夫婦だと思っていた。
その分出発が早まり、エテルネルにギリギリ戻れる可能性が高まる。
「急ぎお祖父様にお知らせして、ジャムを作らなくてはいけない。
もう、忙しいたらありゃしない~!!」
いつものことなので、果物を食いつまみ鷹の目で見ていた。
鳴き声もせず、静かな視線を向けている。
どういう感情からなのかは、ピーちゃんしか分からないのであった。
ドタバタと部屋を飛び出だすと、祖父グレゴリーを探しに目につく人たちに居場所を聞き出すのであった。
「居た、お祖父様大変ですわよ!
お祖母様たちが、明後日にはコチラに着きますわよー」
戦の神の近くで、殿下が息も絶え絶え転がっていた。
だらしがない、手加減している稽古でこれとは…。
「ヴィクトリアが?
プリム、それにしても早くはないか?!」
「私たちの勝利を聞き、すぐに旅立ったそうですわ」
二人が嬉しげに会話している時に、ルシアンは地べたに大の字に寝転がっていた。
「そうか、そうか。
では、コチラも出発の準備を急がんとならぬ。
ほれ、起きあがって支度をしとけよ。
誰も手伝わんからのう。
プリム、屋敷に戻ろうか」
「今から、私はジャムを作りますのよ。
お祖父様、出来ましたらお味見してくださいね」
クラレンス公爵家の者たちのいつもの高笑いが、マーシャル伯爵の屋敷の庭全体に響き渡る。
完全に自分の存在を無視されて、屋敷にスタコラ歩いている二人。
その後ろ姿を見て、汗で目がしみて涙を流すルシアン。
『私はー、あの者たちの。
国の王子であるよな?!』
誰も居ない芝生の上で、大の字になり自分の頭と心の中で自問していた。
祖父は他の方々にも、思っていたより早く待ち人が来るのを知らせに行った。
聞いた方々は全員が驚き、とくにマーシャル伯爵は船の手配で大慌てする。
今度はプリムローズが必死にギルとニルスを捕まえると、厨房へ泉の水を入れた樽を運ぶように頼んだ。
「二人共、樽を落としたりひっくり返してはダメですからね。
また、汲みに行かなくてはならなくなるから」
独り先に厨房へ向かい、一番偉そうなそれっぽい料理長に声がけをする。
「料理長さんですか?
私はエテルネルから留学に来ている学生で、訳あって当屋敷に逗留している者です。
実は私の身を案じて祖国から来てくれた祖父母に、手作りのジャムを作りたいのです。
どうか、お力をお貸し下さいませ」
話しを聞いていた料理長は、健気な優しい小さな子を見て感動してしまう。
「勿論です。
端で、静かに作るなら問題ない。
しかし、火とかは危ない。
大人が見てないとダメだ」
まだ幼そうな彼女に、料理長は一人で調理するのを認めてくれそうもない。
悩むプリムローズは、樽を運んでくる二人を指差す。
「あの者たちが、火の起こし番を致します。
ですから、お願いします。
どうか、宜しいと仰って下さいな!?」
頼み事によく用いる上目遣いな目線に、眉をハの字にして胸に両手を組みお願いよ姿勢。
彼女の本性を知らぬ者は、ついころっとコレに騙されてしまう。
「まぁ、大人が2名いれば平気かなぁ?!
もし作り方が分からなかったら、おじちゃんを呼べば教えてやるからな」
「有難うございます。
なんて親切な、素敵なおじさま」
微笑む笑顔は、一見見たら可愛らしい天使に近い容姿。
頭をナデナデして、にこやかに笑う料理長。
まんまと、詐欺師に騙された瞬間である。
樽を黙ってプリムローズの近くに置くと、二人はあの笑顔に騙されていると口には出さずにその様子を伺っていた。
許可をおりると、彼女の態度は一変する。
料理長は持ち場に戻る際には、彼女らの近くで作業する下っ端に何かあったら教えるよう声がけをしていた。
「ギルとトンボも手伝ってね。
トーマスとアンナ、そして家族たちの分もよ。
たくさん作るから頑張りましょうー!!」
俺たちも作るのかと目を丸くする二人は、彼女の次から次へ指示する通りに動くしかなかった。
「お庭に植えてあった夏みかんのマーマレードを作るわ。
南国だけあるわよね~」
まずは皮を剥くが、それは彼女が手際よくこなす。
二人にはその皮の内側をスプーンで、丁寧に削ぎ落としてもらう。
彼女が小さく切ってからボールの中に泉のお水を入れて、彼らによく皮を揉ませてアクを出させた。
その間にプリムローズは、実の薄皮を剥き始める。
その工程を見て感心する下っ端の彼は、小さな子の割に指示は間違えていない。
よく喋るのに、手はそれ以上動かしているのを見てビックリしてしまう。
「まるで、【口八丁手八丁】。
口も達者で手先も器用。
これだけ細かく指示しながら、手が疎かになっていない」
感心していたら自分の作業が遅れて、焦りながら自分の仕事に集中することにする。
「二人は、瓶とフタと入れるのに使うスプーンを煮沸してね。
お水は、泉のお水を使うこと。
全部使っては駄目よ。
お祖母様が着き次第、お茶をそれでお淹れるのよ」
ジャムをヘラでかき混ぜていたら、二人はキチンと容器を用意してくれた。
「美味しそうにできた。
空き瓶を用意してくれたから、入れましょう!」
「はぁ~、やっと出来上がりか。
鍋に残ったジャム舐めてもいい?
お嬢さまぁ~、お願い!」
「もう、ギルったら!
まだ最後の仕上げが残っているのよ。
瓶が冷めたらフタにお湯がかからないようにして、また煮詰めるのよ。
そうすることで、ジャムが長持ちするの」
「へぇ~、お嬢は詳しいんだな。
食い意地だけじゃないんだ」
「やかましい!
船に乗りエテルネルまで、日数がかかるでしょう。
念には念を入れないと、腐っては食べられなくなるわ」
少し遠くからやり取りを見ていて、どちらが大人かと笑い近寄る料理長。
「アハハハ、こりゃあ驚いた。
小さいのに、よくご存知だね。
それにマーマレードのジャムが、とても美味しそうだ。
かなり、手慣れている」
驚きの口調で、プリムローズを褒めてきた。
「はい、祖国に居たときによく作っておりました。
調理場をお貸してくださり、感謝しておりますわ」
丁寧にお礼を言われて、彼は照れ笑いをして言う。
「構わないさ。
また、使いたい時は声をかけてくれ!」
そうアチラから言われ彼女は、祖母が屋敷に着いたらお茶を自分で入れてあげたいとお願いをするのであった。
孝行な孫娘に偉いなぁと、また彼に頭を撫でられるプリムローズ。
鍋のジャムをスプーンで掬っては食べる男二人は、お嬢と料理長の会話を耳にする。
お嬢がいい子ぶっている態度が、おかしくなり互いの顔を合わせて笑い出す。
水汲みとジャム作りを楽しんで、有意義に1日を過ごしていた。
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