上 下
136 / 142
第6章  黒い森の戦い

第28話 隠密の沙汰は高く言え

しおりを挟む
  食後は真剣な話し合いになり、討論会とうろんかい並みになっていた。
最初はまだ子供の私は除外してはと意見があったが、余りにも深く全て知りに関わってしまっていたので最後まで付き合うことになる。

「なんと、西のランシがその様になっていたのか。
治安が悪くなっているとは、風の噂で聞いていたが本当だったのだな」

東の将軍スクード公爵が、話をうかがっていると厳しい顔つきになった。

ヴェントが西の将軍になってから、税金が段々と高くなり暮らしが苦しくなっていった。
そうなると、食べる為に盗みや時には人を害するなど問題が増えてしまう。

「その高くした税で、今回の戦いの準備に資金を当てたんだな。
領民たちは、税に不満や抗議しなかったのか?!」

ヘイズ王はランシの民たちを思い、なぜ静かに黙っていたのか不思議になるのである。

「領民たちには芝居や祭りなどを無料で行い観せてました。
関心をそちらに向けさせていたようであります。
それにより、良い領主と思われてたようです」

北の将軍チューダー侯爵は、ヴェントがあやしいと分かると部下たちをランシに行かせた。
内緒で、秘密に調査を命じていたのである。

「民とは、単純な者が多い。
娯楽ごらくを無料で提供すれば、すぐに飛びつく。
治安が悪化したのも、祭りに来ているよそ者だと思い込ませる。
ヴェントは、なかなか巧妙こうみょうやつだったようだ」

祖父グレゴリーは、腕を組むと座って的確な憶測おくそくを述べた。

そうだったのか。
私がヴェントの奥方を、強盗ごうとうから助けた時から治安が悪かった。
ごろつきが集まれば、その者たちを雇えば兵になる。

『どうせ、彼らはヴェントからすれば捨てこまだわ。
傷つこうが死ぬのうがどうでもいい』

「プリムは鋭いのう。
我が孫だけあるわい。
しかし、女が口にする言葉ではないぞ。
気をつけなさい!」

じじバカなグレゴリーは孫娘の大きな独り言に笑っていたが、釘を差すのは忘れてない。
真っ赤な赤い顔で口を閉じ、うつむく彼女は体温が上昇していた。

「そうなりますと。
ヴェントが、西の将軍になったのは3年前。
その間準備していたとは、我々はまったく気づきもしなかった」

『3年前ですって?!』

チューダー侯爵の話に食い付く、プリムローズ。
またベルナドッテ公爵夫人が、お隠れになった年と同じ時期だわ。
偶然すぎて、これは…。

「マーシャルの弟をどう処遇しょぐう致しますか?
兄の伯爵が無事なら、彼をどうしたとなりますよ」

「なら、いっそう自害する前に閉じ込めた場所を伝えた。
そして、我らが助けた事にしたらどうだ?!」

チューダー侯爵とスクード公爵が考え、ここまでの話の道筋みちすじ提案ていあんする。

「良い考えだと思う!
だがその弟をいずれにかくまわせて、暮らさせれば良いのだ!?」

「わが国エテルネル!
わしの領地ではどうだな?
ゲラン親子やそのつかえていた者たち。
大勢がヘイズからコチラに流れている。
言葉は、最低限は困らんぞ」

王の言葉にクラレンス公爵が、助け舟だし難問を退しりぞけた。

「【隠密おんみつ沙汰さたは高く言え】を、実行を致しましょう。
ここで話された事を、全国民に対して公言するです」

「なるほど、ひそひそ話すと人の好奇心をき立てるものだ。
普通にした方が、目立たずに秘密は守れるかもしれん」

祖父グレゴリーはこの話しに乗る言葉を言うと、ヘイズ王も二人の発案をよいと判断した。

「では、早速その様に進めましょう。
また兄弟が離ればなれになりますが、生き抜くためです。
辛いことですがな…」

「生きていれば、またいつかきっと会えますわ。
そこまで、落ち込んで暗くなりなさるな」

チューダー侯爵の後ろ向きな発言を、消し去るように未来ある若い少女は大人たちに発破はっぱをかける。

相変わらず子供のくせに、物怖じしないのう。大きな態度する孫を、グレゴリーはチラリと横目に見てニヤける。

『やはりどう見ても、ヴィクトリア似じゃな。
幼いからまだ可愛いいと笑って許されるが、そろそろ言い聞かせなくてはならんのう~』

この性格を自分に似たとはけして認めないグレゴリーは、胸の中だけでつぶやく。

西の将軍をどう処罰するのか。
税を国の定めるより高くし、娘の恋路こいじのためにスクード公爵の嫡男ちゃくなんかどわかして誘惑しようとした事。
一緒にいた兄ブライアンを、恐らくエリアスと間違え誘拐事件ゆうかいじけんを起こした罪。

将軍職を辞して領地鞍替くらがえ、侯爵から位下げして王家の監視かんしかに一生見張られ終わりか。
納得できないけど、それ以上は無理だろう。
それは大人の事情で、常識の範囲内で決着つけるしかない。

彼女はそんな結末を考え退屈そうに聞いていたら、どうも寝落ねおちちする一歩手前。
薄れゆく意識の中で、お祖父様と他の方々の笑い声を聞いたような気がして眠りに落ちるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~

可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

処理中です...