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第6章  黒い森の戦い

第22話 枯れ木に花が咲く

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    寝込んでいると言わせる伯爵夫人との面会に彼女は、お見舞いとして自らお茶を用意している。
誰にその場を聞き出したのか、厨房ちゅうぼうにひょっこり立っていた。
小さな子供が大人に混ざり、チョロチョロしていて目立ってしまう。

「お嬢様が?
ご自分でお茶を淹れるのですか?
私どもが致しますから」

「あらっ、私でもお茶くらいは…。
そう?
ではお湯は沸いているので、ここからお願いできるかしら」

この水を飲ませればいいだけなので、自分より美味しくできる者にたくす。

『本当は祖父母にと長寿ちょうじゅの泉のお水をくみんできたけど、おばあ様の分は夫人に差し出すわ。
帰りの途中に、また泉に水を汲みに行かないといけないわね』

面倒くさいが仕方ないと諦めて、これも人助けのためだと納得していた。
    
   
    マーシャル伯爵夫人は、見知らぬ客人からの手紙を受け取り読み終えていた。
エテルネルから留学しに来ている公爵令嬢の筆跡ひっせきは、見事なヘイズ語で書かれていて文字からは教養高さが見て取れた。
素晴らしい淑女しゅくじょではないかと想像する。

「お客様を迎えるのでドレスに着替えなくては、久しぶりに鏡を見たらこんなにやつれている。
これでは、旦那様から見向きもされなくなるわね」

夫人は、鏡の中の自分に向けて話しているのか。
髪をかしてくれているメイドに、話しているのか分からない態度していた。

「旦那様はお忙しいのですわ。
じきに必ずや、奥さまの所へ参ります」

メイドは明るくそうは言ってくれるが、彼女は子を亡くしてしまった事で夫が外に浮気して女性を囲ったのではないかと疑っていたのである。

『まさか、今から見舞いに来る女性が旦那様のー。
そうよ、留学生がどうしてわざわざ私に会いに来るの!』

夫人は病のせいもあり、精神が不安定になりかかっていのかもしれない。
 
「奥様、お見舞いのお客様が参りました。
部屋の中へ、案内しても宜しいですか?」

メイドの問いかけに、夫人の顔が醜くゆがんで見えた。

「あっ、えぇ…」

扉の向こうにマルクスのー。
開けられし扉の前にいたのはー。

「こ、子供!!
お客様って、この方なの」

せて青白い、如何いかにも繊細そうな女性が凝視ぎょうしして私の顔から目の焦点しょうてんから離そうとしなかった。
もしかして、この人。
私を何かと勘違していたの?

「子供で、年齢は11歳です。
お初にお目にかかります。
エテルネルから来ました、プリムローズ・ド・クラレンスと申します。これから、良しなにお願い致しますわ」

流石さすがは、気位高そうな公爵令嬢。
初対面でも、見下す様なご挨拶に固まる部屋にいる人たち。
しかし、伯爵夫人は自分の出した失礼な言葉のせいで何も言えずにいた。

「お茶とお菓子をお持ちしましたの。
それから、伯爵夫人には大事なお話がございます。
人払ひとばらいをして下さい」

その場に誰も居なくなると彼女は、お茶を注ぎながら体調の具合をうかがう。

「医師は精神の沈みが、体調に関係しているとおおせです。
分かっていますが、亡くした子を思い出すのです」

初めて会っている、それも年端としはもいかない少女に私は何を告げているのか。

「知り合いに、女の子を2歳で亡くした方がおられます。
しばらくは落ち込んだそうですが、今では二人の男子たちの母です。
いつまでも夫人が落ち込んでいるから、ご主人に悪影響を与えたのです」

「最近、あの人は私に会いに来なかった。
もしかしたら、外に女性がいるかもと思う程に…」

夫人に夫マーシャル伯爵とすり替わり、弟君が謀反むほんを起こした内容を告げる。

「そんなー!!
マルクスの弟がしたの!
とても信じられない!」

顔を下にして手でおおい、嘘よ信じられないと何度も同じ言葉を言っては頭を振り続けている。

「現実に起きてしまっているわ。
貴女がいくら信じなくてもね」

現実逃避げんじつとうひしている夫人に、彼女は冷静になるように伝える。

「いつまでも、せって落ち込んでいたからなの。
医者が他国からの知識があったら、私の赤ちゃんが助かっていたかもと言ったのを気にしていたのかしら?
あの人はー」

動揺して一気に顔色が悪くなり、呼吸も荒くなる夫人。
落ち着いてと、プリムローズは背中をさする。

「安心していいわ。
今は地下牢から出て、安静に休まれている。
国王は、伯爵を不問にすると約束してますよ。
貴女は元気になり、心配させた伯爵を今度は支えなくてはなりません」

泣いてばかりの夫人に、お茶を差し出す。

「あの人は、生きてるの?!
マルクスに、夫に会わせてください」

困った方ね、気持ちは分かる。

「命には別状ありません。
伯爵は半月も地下牢に監禁されて、少しだけ体調が悪いわ。
今は静養してます」

「良かった。別邸に居てそんな事になっているとは、全然知りませんでしたわ」

伯爵夫人は、胸に手を置き安堵のため息をつく。

「このお茶は元気を取り戻す、魔法をかけたお茶なのよ。
私は特別な力を持って生まれたの。
この力は、頻繁ひんぱんには使えない。
信じる信じないは、貴女しだいよ」

「魔法のお茶ですって?
あっ、瞳の色がー。
紫から赤ワインの様な色に変わりましたわ!」

夫人は彼女の瞳を見て、これ以上開くのが困難なぐらいに大きな目をして驚く。
そのグレーがかかった青い瞳には、彼女の顔がハッキリと映り込んでいた。

「興奮したり力を使うと、瞳の色が変化するの。
気持ち悪い?
アルゴラではこの瞳を持つ者は、神様みたいな扱いなのよ」

あらしげに光る赤紫の瞳を輝かして、先にカップのふちに口をつけて紅茶を美味しそうに飲む。

その様子をチラッと見て震える手で、夫人もカップを持ち上げて飲み出す。

いつも飲んでいる茶葉だと気付く。
たが、飲んでみると体内からどんどんと熱い何かがあふれる出すよう。
冷え切った体が温かくなり、そしてなまりのような重苦しさから羽が生えた軽さに変化する。

「ウソ?
今までとは、何かが全然違う。
たった、一口のお茶で?!
れ木に花を咲かせた】よう。
貴女は魔法使いか、それとも本当に神様なの?」

自分で話をしていて気がおかしくなったともう一人の自分が問いかける。

『この伯爵夫人って興味深い。 
自分を枯れ木に見立て、私を魔女と言ってくる。
それとも、想像力があり余っているの。
笑いをこらえるのが大変よ。
しかし、泉の水の即効性は凄い』

黙ってひたすら、吹き出しそうになるのをこらえるのが精一杯のプリムローズ。

前に座る肩くらいの銀髪の美少女は、戸惑う態度の伯爵夫人に微笑ほほえむ。
小さな彼女を見て感じているのは、自分よりもはるか歳上の人に感じてしまう。

外からの風がカーテンをらして、部屋の中へ。
二人の所まで風がそよぐ、それは静かな昼下がりの時間であった。
    
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