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第6章  黒い森の戦い

第20話 知らぬが仏

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    周りから注目を浴びているのを知りつつも、彼は自分の体の中で感じている変化に驚く。

『何じゃ、この内側からき出るようなみなぎる力はー!
若かりしの頃のような、疲れ知らずの感覚に似ておるぞぉ~』

グレゴリーが生きた長い生涯で、今まで経験のない沸き立つ力。

「うっ、おぉ~!!
なにやら、体が内からよみがえるぞ。
何だ、その水は?
特別な物でも入れたのか?!
プリムローズよ」

孫娘の両肩をガッチリと手を置き、眼光鋭くギラギラお目めで見る祖父。

百戦錬磨ひゃくせんれんまのお一人だけあり、勘がイヤなくらいにえているじゃない。
こんな大勢いる場で、アホな夢物語を話せないわ』

どう話せば納得するか。
頭をフル回転させている。

「お、お祖父様。
た、ただの水ですわ。
体の疲労回復に、良い成分が含まれているんです。
それに、私に会えたから興奮しているんですわよ。
オーホホホ~」

首を上に向け腰に手をやって、顔を天井にして誤魔化ごまかすように笑う。

「そっ、そうか?
しかし、この水は美味だのう。
さぁ~、城で皆がお前を心配しておる。
急ぎ参ろうぞー」

若返ったような張りのある顔を見て、長生きしてくれるのを期待する。
彼女は腕を引っ張られてというより、強引に抱きかかえられて食堂を出ていく。

まさに青年期さながらの体の軽さに本人も驚きつつも、プリムローズを前に乗せ馬を城へ向けて光のごとく走らせた。
馬にとっては二人も乗せてかっ飛ばされて、かなりの負担でご機嫌斜めである。
たが、乗せている者の尋常じんじょうない覇気はき気圧けおされてしまう。

   
 マーシャル伯爵の城に到着した二人は、外で見張っている家来けらいが一頭の馬が勢いよく走ってくると報告し知らせる。

玄関前には沢山の人たちが、二人を出迎えに待ち構えていた。

「プリムローズ嬢!
よくご無事でお怪我けが等はありませんか!?」

スクード公爵がヘイズ王とチューダー侯爵を連れ、我先に彼女に声をかけてきた。
陛下のお前での声出しに、それだけ心配してくれていた事を感じるのである。 

「はい、このとおり。
元気です。
スクード公爵様」

プリムローズのその返事に、出迎えた者たちは安堵あんどの笑みを浮かべた。

今いる部屋の中には、ヘイズ王とスクード侯爵にチューダー侯爵。
ハーヴモーネ侯爵ことグレゴリーと孫娘プリムローズである。

「話はうかがいましたが、不問にするにはいささか無理があるのではないのですか?」

チューダー侯爵も王に厳しく進言されたそうだけど、私も同意見だわ。

「甘いのは分かるが、うまく言い訳できないだろうか。
が、彼を動かした原因を作ってしまったからのう」

その話はいったん忘れて、違う問題の話に移るのである。

「マーシャルの奥方の話を聞き、確かにこのままのヘイズではいけないと思う。
医療関係とかは、他国と意見を交わしたほうが向上し発展すると考える」

ヘイズ王は私たちに、思う気持ちを吐き出しているようにみえた。

「それは良いお考えです。
他国の医療を取り入れて学んでも、その方の体質もあります。
必ずしも、改善されるとは言い切れませんよ」

大人たちの話を聞いていて、プリムローズ黙ってられなくなる。


「しかし、どうして?!
マーシャルがこのコトを、書簡で嘆願たんがんしていた文が陛下まで届かなかったのか。
そこがどうも気になる」

「陛下との仲をこうとしたのだろうか。
そうすれば、謀反話むほんばなしに誘いやすいと思ったのであろう」

東と北の両将軍は、互いの意見を交換する。

「弟が兄をけしかけて、話に乗らなかったので閉じ込めたそうだが。
その話に賛同さんどうしていたらと、今頃はどうなったろうな」

祖父グレゴリーはあごに手を置き考える態度で、誰がそう導いたのではないかと匂わせた。

「その奥様は、今はどうされてます?
夫に起きた、この顛末てんまつを知らないのですか。
【知らぬが仏】ですか。
真実を知らないから心を乱さず仏のようにいられますものね」

またしても彼女は、嫌味を炸裂さくせつして大人たちに話しかけた。

「本人だけが知らないのを、平然としているのをあざけっていう意味もあるな。
お前は、そういう嫌味ごとを言うのがほんに上手いのう」

身内びいきにしても、子供のくせに一体誰に似たのかと祖父は思い、妻ヴィクトリアの顔が頭に浮かんできた。

「マーシャルの弟がした事は、知らせないワケにはいかぬ。
なるべく波風立てないように、今回は終わらせないだろうか…」

誰に意見して、誰に答えを求めているのか。
ヘイズ王は、苦悶__くもん__#を顔に見せる。

「陛下!
今回は、本格的な軍事訓練にしたらどうですか?!
内乱を想定そうていして、4将軍が2手に分かれて争った。
えてわざと、訓練と発表せずにしたと言うのです」

スクード公爵は王とそして同室している者たちに、落とし所の説明し賛同をうながす。

彼女は他国の話だけど納得できない渋面しぶめんをしていたが、ただ1つ気に入らないのはマーシャル伯爵夫人のことだ。

流産した女性なら、リンドール伯爵夫人マーガレットを思い出す。
彼女は辛い過去から立ち上がり、現在は男の子二人をさずかっている。

「全然話は違いますが、マーシャル伯爵夫人はベッドから起き上がれずにおりますの?
具合は如何いかがですのか?」

その質問には、隣に座る祖父が気の毒そうに話す。

「離れの別屋敷で静かに養生ようじょしているそうだが、最近夫が顔を見せぬのをきっと不思議に感じているであろう」

あわれに思われているのか沈んだ風に話す祖父を見て、彼女は早急に事を動かすことにした。

「なら、私がお見舞いに参りますわ。
その時に、この顛末てんまつを伝えます。
同じ女性同士の方が、腹を割って話せますでしょう」

何をどう伯爵夫人に伝えるか、ここに集まる男性陣は不安を感じた。

「だがのう…。
繊細な話になるのではないか?
貴女には、まだ若く荷が重いのではないかと思うぞ?!」

チューダー侯爵が、彼女を止めようとやんわりと言ってみた。

「皆様は甘いですわ!
いつまでも子を亡くして泣いてみても、亡くした子は生きかえらない。
これを切っ掛けに、絶対に奥方に元気になり立ち直っていただかなくてなりません」

誰もが、彼女の正論に押し黙ってしまっている。

落ちこんで具合が良くない、マーシャル伯爵夫人と対面する事にした。
そして、彼女はその時にあるものを使うことを心に決心していたのである。

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