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第6章  黒い森の戦い

第14話 及ばぬ鯉の滝登り

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     ヴァンブランは、あるじ気配けはいを感じようと五感ごかんましていた。
騎乗きじょうの彼も馬の耳がピクピク忙しく動くのを面白そうに眺めていたが、今晩の寝る場所を決めなくてはならない。

「ヴァンブランさん、泉のある洞窟どうくつに行っても下さいますか?」

立ち止まっていたヴァンブランは、ギルの指示に従い歩き始めた。

 小枝拾って腰をさするプリムローズは、体のかゆみも感じていた。

「いったい、何日お風呂に入っていないのかなぁ。
自分くさそう!
あぁ~、お風呂に入りたいよう~!」

そんな彼女をじっと見て、また熊は離れて走り出した。

で、固いパンとチーズを指してあぶっていた。

「熊ちゃんー!食べる?
あらっ、何処へ行ったのかしら?」

しばらくしてまたも、熊は彼女にコッチに来てをしている。

「うーん、今度は何があるの?」

泉より少し離れるが、だんだんと何やら外気がいきが温かい。
熊が止まると、そこには岩場に囲まれていた水ではなく温泉があったのだ。

「湯気が立ち登っている?
これ、少しにおいしない?
入りたいような、入りたくないような?!」

「バッシャン!トボッ!!」

大中小の岩に囲まれた岩風呂に立ちすくんでいると、真ん中に熊が突然飛び込んだ。

「ちょっと、水しぶき!
お湯がかかるではないか!
ふむっ、平気そうに気持ち良さげにかっているぞ。
アリかありなのか?!」

悩みながらも服を脱ぐと、乳白色の湯につさかる。
熊しか居ないのをいいことに、下手な鼻歌をご機嫌よろしく歌いだす。

「いい湯だなぁ~!
うぇーい!
極楽浄土ごくらくじょうどじゃ~あ。
アーハハハ!」

今までの戦いの緊張から解放されて、感情が高まるご令嬢である。

  
 このバカ笑いに反応した馬の中では生粋きっすいご令嬢ヴァンブランは、プリムローズのはなやかな笑い声を聞きつけた。
彼女にとっては、心をき放って安心感を与えてくれた恩人おんじん
騎乗している男と彼女では、天地の差があった。

「おっ、そっちじゃないぜ!
ちっ、ちょっと待てよ!
走るなよー!!」

馬に走るなとは、お門違かどちがいではないだろうか。
ヴァンブランは、調子が外れた鼻歌に真っ先に走り向かうのであった。

 
 プリムローズは、成長途中の自分の胸を見ていた。
マーシャルの矢が胸をつらぬくはずだと思ったが、目の前から突然に消えてしまった。
あの時、前に誰かが立ちはだかる感じがしたんだけどな。

「誰なんだろうか?
思い出せそうで思い出せない。
うーん、わからんな。
しかし、熊ちゃん有り難うね!
もう、お風呂最高ー!!
きゃあ~、ウフフ」

隣に入っている熊に両腕をあげて、お礼の意思いしを表した。

「おーい、その声はお嬢ではありませんかい?!
生きていたんだな~!」

「ギルは、いつも一言多い!
淑女しゅじょの入浴をのぞみ#しないでよ!」

「お嬢のまな板より、俺はこんなキュンボンの胸が好き!
水がにごって見えないし!
ん、あれっ?
お嬢、髪を切りましたんかい?」

「戦いには、長い髪はウザったしいでしょう?
短かいと、髪洗うのも楽なのよ。
そらから、まな板とは失礼ね!
ヴァンブランをこの布で拭いてあげて、おわったらアンタも岩風呂に入って良いわよ!」

ギルの薄汚れ具合を見て、そう親切に言ってあげた。

「えっ、熊?!
湯気でよく見えないが…。
おっ、熊だぁー!
何故に熊が湯に浸かっていやがるんだぁー!?」

熊は男をにらむと、素っ気なく無視してプリムローズを見る。

「熊ちゃんが私を助けてくれて、ここを探してくれたのよ!
恩人の熊ちゃんを、熊って呼び捨てすんな!」

「へーい!」と、返事してヴァンブランをキレイにしてから岩風呂に入るギル。

「しっかし、いい湯だね!
生き返るー、しみるぜ!
あぁ~、気持ちいい!」

ご機嫌なギルに、メリーの事をうかがってみた。

「ギルってさ、メリーが好きでしょう?
タダの好きじゃないわ。
男女の愛のこのみのことよ!
ウッフフン~!」

「ブッー、ゲホゲホ!
な、何言いっているんだよ!
お嬢、子供のくせに変な話をすんな!」

足をすべらして、頭まで温泉に浸かってしまったようね。
いい大人が、これしきで狼狽うろたえるなんて!
ギルの方が、私よりずっと子供だわ。

「俺よりもこの熊、お嬢の事をれてんじゃないか?」

プリムローズは隣の熊を見て、少しのぼせ気味に話す。

「【ばぬこい滝登たきのぼり】。
いくら頑張っても、目的が達成できないこと。
決して、かなうことのない恋なの。
ゴメンね、気持ちに答えられなくて…。
熊ちゃんは、可愛い熊の令嬢がお似合いだと思うわ」

温泉のせいで真っ赤な顔をして、ご丁寧にお断りするのだった。

「ぐぅ~。」

「よっ、めげるな!
いいお嬢さん熊に、出会えるさ」

慰めているギルに、彼女は夜空を見て男の心に呼びかけた。

「ギルは人間の男で、メリーも人間の女。
あの子はもういい年で、適齢期てきれいきは過ぎているわ。
私は、女性として幸せになって欲しいの」

二人と一頭の間に、ほんの少しだけ静寂が流れた。

「……、何で相手が俺なのよ?」

『煮えきらないな、この男は!』

どちらの熱さでカーっときているか、プリムローズは判断出来ずに続けた。

「このままだと、私が婚姻こんいんしたら。
次に子供が出来たらと、延ばしていたらお婆ちゃんになっちゃう。
あんたが、あの子に申し込みなさい!」

「どうして相手が俺になるんだよ」

「あぁ~、知らんわ!
自分で少しは考えろ!
私は、のぼせるので先に出るね。
コッチ見るなよ!
ス・ケ・ベ~!」

プリムローズは、暑さと怒りに頭をフラフラさせてその場を離れる。

ひとり星空を見て、メリー笑顔を思い浮かべる男。
逆上のぼせるのは、湯のせいなのか。
自分でも分からずにいた。
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