122 / 142
第6章 黒い森の戦い
第14話 及ばぬ鯉の滝登り
しおりを挟む
ヴァンブランは、主の気配を感じようと五感を研ぎ澄ましていた。
騎乗の彼も馬の耳がピクピク忙しく動くのを面白そうに眺めていたが、今晩の寝る場所を決めなくてはならない。
「ヴァンブランさん、泉のある洞窟に行っても下さいますか?」
立ち止まっていたヴァンブランは、ギルの指示に従い歩き始めた。
小枝拾って腰を擦るプリムローズは、体の痒みも感じていた。
「いったい、何日お風呂に入っていないのかなぁ。
自分臭そう!
あぁ~、お風呂に入りたいよう~!」
そんな彼女をじっと見て、また熊は離れて走り出した。
焚き火で、固いパンとチーズを指して炙っていた。
「熊ちゃんー!食べる?
あらっ、何処へ行ったのかしら?」
暫くしてまたも、熊は彼女にコッチに来てをしている。
「うーん、今度は何があるの?」
泉より少し離れるが、だんだんと何やら外気が温かい。
熊が止まると、そこには岩場に囲まれていた水ではなく温泉があったのだ。
「湯気が立ち登っている?
これ、少し臭いしない?
入りたいような、入りたくないような?!」
「バッシャン!トボッ!!」
大中小の岩に囲まれた岩風呂に立ちすくんでいると、真ん中に熊が突然飛び込んだ。
「ちょっと、水しぶき!
お湯がかかるではないか!
ふむっ、平気そうに気持ち良さげに浸かっているぞ。
アリかありなのか?!」
悩みながらも服を脱ぐと、乳白色の湯に浸かる。
熊しか居ないのをいいことに、下手な鼻歌をご機嫌よろしく歌いだす。
「いい湯だなぁ~!
うぇーい!
極楽浄土じゃ~あ。
アーハハハ!」
今までの戦いの緊張から解放されて、感情が高まるご令嬢である。
このバカ笑いに反応した馬の中では生粋ご令嬢ヴァンブランは、プリムローズの華やかな笑い声を聞きつけた。
彼女にとっては、心を解き放って安心感を与えてくれた恩人。
騎乗している男と彼女では、天地の差があった。
「おっ、そっちじゃないぜ!
ちっ、ちょっと待てよ!
走るなよー!!」
馬に走るなとは、お門違いではないだろうか。
ヴァンブランは、調子が外れた鼻歌に真っ先に走り向かうのであった。
プリムローズは、成長途中の自分の胸を見ていた。
マーシャルの矢が胸を貫くはずだと思ったが、目の前から突然に消えてしまった。
あの時、前に誰かが立ちはだかる感じがしたんだけどな。
「誰なんだろうか?
思い出せそうで思い出せない。
うーん、わからんな。
しかし、熊ちゃん有り難うね!
もう、お風呂最高ー!!
きゃあ~、ウフフ」
隣に入っている熊に両腕をあげて、お礼の意思を表した。
「おーい、その声はお嬢ではありませんかい?!
生きていたんだな~!」
「ギルは、いつも一言多い!
淑女の入浴を覗み#しないでよ!」
「お嬢のまな板より、俺はこんなキュンボンの胸が好き!
水が濁って見えないし!
ん、あれっ?
お嬢、髪を切りましたんかい?」
「戦いには、長い髪はウザったしいでしょう?
短かいと、髪洗うのも楽なのよ。
そらから、まな板とは失礼ね!
ヴァンブランをこの布で拭いてあげて、おわったらアンタも岩風呂に入って良いわよ!」
ギルの薄汚れ具合を見て、そう親切に言ってあげた。
「えっ、熊?!
湯気でよく見えないが…。
おっ、熊だぁー!
何故に熊が湯に浸かっていやがるんだぁー!?」
熊は男を睨むと、素っ気なく無視してプリムローズを見る。
「熊ちゃんが私を助けてくれて、ここを探してくれたのよ!
恩人の熊ちゃんを、熊って呼び捨てすんな!」
「へーい!」と、返事してヴァンブランをキレイにしてから岩風呂に入るギル。
「しっかし、いい湯だね!
生き返るー、しみるぜ!
あぁ~、気持ちいい!」
ご機嫌なギルに、メリーの事を伺ってみた。
「ギルってさ、メリーが好きでしょう?
タダの好きじゃないわ。
男女の愛の好みのことよ!
ウッフフン~!」
「ブッー、ゲホゲホ!
な、何言いっているんだよ!
お嬢、子供のくせに変な話をすんな!」
足を滑らして、頭まで温泉に浸かってしまったようね。
いい大人が、これしきで狼狽えるなんて!
ギルの方が、私よりずっと子供だわ。
「俺よりもこの熊、お嬢の事を惚れてんじゃないか?」
プリムローズは隣の熊を見て、少しのぼせ気味に話す。
「【及ばぬ鯉の滝登り】。
いくら頑張っても、目的が達成できないこと。
決して、かなうことのない恋なの。
ゴメンね、気持ちに答えられなくて…。
熊ちゃんは、可愛い熊の令嬢がお似合いだと思うわ」
温泉のせいで真っ赤な顔をして、ご丁寧にお断りするのだった。
「ぐぅ~。」
「よっ、めげるな!
いいお嬢さん熊に、出会えるさ」
慰めているギルに、彼女は夜空を見て男の心に呼びかけた。
「ギルは人間の男で、メリーも人間の女。
あの子はもういい年で、適齢期は過ぎているわ。
私は、女性として幸せになって欲しいの」
二人と一頭の間に、ほんの少しだけ静寂が流れた。
「……、何で相手が俺なのよ?」
『煮えきらないな、この男は!』
どちらの熱さでカーっときているか、プリムローズは判断出来ずに続けた。
「このままだと、私が婚姻したら。
次に子供が出来たらと、延ばしていたらお婆ちゃんになっちゃう。
あんたが、あの子に申し込みなさい!」
「どうして相手が俺になるんだよ」
「あぁ~、知らんわ!
自分で少しは考えろ!
私は、のぼせるので先に出るね。
コッチ見るなよ!
ス・ケ・ベ~!」
プリムローズは、暑さと怒りに頭をフラフラさせてその場を離れる。
ひとり星空を見て、メリー笑顔を思い浮かべる男。
逆上せるのは、湯のせいなのか。
自分でも分からずにいた。
騎乗の彼も馬の耳がピクピク忙しく動くのを面白そうに眺めていたが、今晩の寝る場所を決めなくてはならない。
「ヴァンブランさん、泉のある洞窟に行っても下さいますか?」
立ち止まっていたヴァンブランは、ギルの指示に従い歩き始めた。
小枝拾って腰を擦るプリムローズは、体の痒みも感じていた。
「いったい、何日お風呂に入っていないのかなぁ。
自分臭そう!
あぁ~、お風呂に入りたいよう~!」
そんな彼女をじっと見て、また熊は離れて走り出した。
焚き火で、固いパンとチーズを指して炙っていた。
「熊ちゃんー!食べる?
あらっ、何処へ行ったのかしら?」
暫くしてまたも、熊は彼女にコッチに来てをしている。
「うーん、今度は何があるの?」
泉より少し離れるが、だんだんと何やら外気が温かい。
熊が止まると、そこには岩場に囲まれていた水ではなく温泉があったのだ。
「湯気が立ち登っている?
これ、少し臭いしない?
入りたいような、入りたくないような?!」
「バッシャン!トボッ!!」
大中小の岩に囲まれた岩風呂に立ちすくんでいると、真ん中に熊が突然飛び込んだ。
「ちょっと、水しぶき!
お湯がかかるではないか!
ふむっ、平気そうに気持ち良さげに浸かっているぞ。
アリかありなのか?!」
悩みながらも服を脱ぐと、乳白色の湯に浸かる。
熊しか居ないのをいいことに、下手な鼻歌をご機嫌よろしく歌いだす。
「いい湯だなぁ~!
うぇーい!
極楽浄土じゃ~あ。
アーハハハ!」
今までの戦いの緊張から解放されて、感情が高まるご令嬢である。
このバカ笑いに反応した馬の中では生粋ご令嬢ヴァンブランは、プリムローズの華やかな笑い声を聞きつけた。
彼女にとっては、心を解き放って安心感を与えてくれた恩人。
騎乗している男と彼女では、天地の差があった。
「おっ、そっちじゃないぜ!
ちっ、ちょっと待てよ!
走るなよー!!」
馬に走るなとは、お門違いではないだろうか。
ヴァンブランは、調子が外れた鼻歌に真っ先に走り向かうのであった。
プリムローズは、成長途中の自分の胸を見ていた。
マーシャルの矢が胸を貫くはずだと思ったが、目の前から突然に消えてしまった。
あの時、前に誰かが立ちはだかる感じがしたんだけどな。
「誰なんだろうか?
思い出せそうで思い出せない。
うーん、わからんな。
しかし、熊ちゃん有り難うね!
もう、お風呂最高ー!!
きゃあ~、ウフフ」
隣に入っている熊に両腕をあげて、お礼の意思を表した。
「おーい、その声はお嬢ではありませんかい?!
生きていたんだな~!」
「ギルは、いつも一言多い!
淑女の入浴を覗み#しないでよ!」
「お嬢のまな板より、俺はこんなキュンボンの胸が好き!
水が濁って見えないし!
ん、あれっ?
お嬢、髪を切りましたんかい?」
「戦いには、長い髪はウザったしいでしょう?
短かいと、髪洗うのも楽なのよ。
そらから、まな板とは失礼ね!
ヴァンブランをこの布で拭いてあげて、おわったらアンタも岩風呂に入って良いわよ!」
ギルの薄汚れ具合を見て、そう親切に言ってあげた。
「えっ、熊?!
湯気でよく見えないが…。
おっ、熊だぁー!
何故に熊が湯に浸かっていやがるんだぁー!?」
熊は男を睨むと、素っ気なく無視してプリムローズを見る。
「熊ちゃんが私を助けてくれて、ここを探してくれたのよ!
恩人の熊ちゃんを、熊って呼び捨てすんな!」
「へーい!」と、返事してヴァンブランをキレイにしてから岩風呂に入るギル。
「しっかし、いい湯だね!
生き返るー、しみるぜ!
あぁ~、気持ちいい!」
ご機嫌なギルに、メリーの事を伺ってみた。
「ギルってさ、メリーが好きでしょう?
タダの好きじゃないわ。
男女の愛の好みのことよ!
ウッフフン~!」
「ブッー、ゲホゲホ!
な、何言いっているんだよ!
お嬢、子供のくせに変な話をすんな!」
足を滑らして、頭まで温泉に浸かってしまったようね。
いい大人が、これしきで狼狽えるなんて!
ギルの方が、私よりずっと子供だわ。
「俺よりもこの熊、お嬢の事を惚れてんじゃないか?」
プリムローズは隣の熊を見て、少しのぼせ気味に話す。
「【及ばぬ鯉の滝登り】。
いくら頑張っても、目的が達成できないこと。
決して、かなうことのない恋なの。
ゴメンね、気持ちに答えられなくて…。
熊ちゃんは、可愛い熊の令嬢がお似合いだと思うわ」
温泉のせいで真っ赤な顔をして、ご丁寧にお断りするのだった。
「ぐぅ~。」
「よっ、めげるな!
いいお嬢さん熊に、出会えるさ」
慰めているギルに、彼女は夜空を見て男の心に呼びかけた。
「ギルは人間の男で、メリーも人間の女。
あの子はもういい年で、適齢期は過ぎているわ。
私は、女性として幸せになって欲しいの」
二人と一頭の間に、ほんの少しだけ静寂が流れた。
「……、何で相手が俺なのよ?」
『煮えきらないな、この男は!』
どちらの熱さでカーっときているか、プリムローズは判断出来ずに続けた。
「このままだと、私が婚姻したら。
次に子供が出来たらと、延ばしていたらお婆ちゃんになっちゃう。
あんたが、あの子に申し込みなさい!」
「どうして相手が俺になるんだよ」
「あぁ~、知らんわ!
自分で少しは考えろ!
私は、のぼせるので先に出るね。
コッチ見るなよ!
ス・ケ・ベ~!」
プリムローズは、暑さと怒りに頭をフラフラさせてその場を離れる。
ひとり星空を見て、メリー笑顔を思い浮かべる男。
逆上せるのは、湯のせいなのか。
自分でも分からずにいた。
20
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
婚約を正式に決める日に、大好きなあなたは姿を現しませんでした──。
Nao*
恋愛
私にはただ一人、昔からずっと好きな人が居た。
そして親同士の約束とは言え、そんな彼との間に婚約と言う話が出て私はとても嬉しかった。
だが彼は王都への留学を望み、正式に婚約するのは彼が戻ってからと言う事に…。
ところが私達の婚約を正式に決める日、彼は何故か一向に姿を現さず─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる