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第6章  黒い森の戦い

第11話 老いたる馬は道を忘れず

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  王宮では、先に着いていたエリアスを含むスクード公爵夫人ニーナ。
護衛のウィリアムとメイド長イーダもそろっていた。

他国とはいえ、アルゴラ元第一王女のヴィクトリアがメリーを紹介する。

普通は平民のメイドが王妃様に謁見えっけんし挨拶するなど、天がひっくり返ってもかなわない。
特別待遇たいぐうであり、1番最新の情報にえていたと言ってもおかしくない。

メリーは自分の知りうる話を全て、ここにつどう方々に話して聞かせた。

「大まかな事は分かったわ。
メリー、ヘイズ王から手紙が早馬はやうまで今日届きました。
ヴェント父娘は、王宮の地下牢ちかろうへ入ることになるでしょう。
母親の元侯爵夫人もよ」

ヴィクトリアがそう話すと、次の話に驚きを隠せなかった。

「それから、ブライアンは旦那様たちと黒い森で戦うそうよ。
命はおのれで守れと、ブライアンに旦那様が仰っているわ」

まだギル師匠ししょうは、お嬢様とは合流していないようね。
ヴィクトリアの話の途中で、彼の笑顔が頭に現れたのだった。

「ヴィクトリア様。
皆さまは、無事に帰って参りますわよね。
私たちのところへ…」

「えぇ、勿論もちろんです!
旦那様は、戦に何度も行かれました。
いつも笑顔で、妾のところへ戻られておりますよ。メリー」

不安げな彼女にヴィクトリアは、元気付けるように満面の笑みを返す。 
大切な孫娘が、不思議な道で迷子まいごになっているのを祖母は知らずにいた。

   
  森黒いと呼ばれているミュルクヴィズでは、重罪人マーシャルが捕らわれていた。

「殺すなら、ここで一思ひとおもいにしてもらおうか!
苦しんで死ぬのは、真っ平ごめんだ!」

「何故だ、マーシャル!!
こんな愚かな事をしたのか。
普段のおぬしからは、想像できんおこないだ!」

チューダー将軍は苦悶くもんを浮かべて、縄にくくられている大柄の男に話しかけた。

「くくく、マーシャルか?
確かに、俺はマーシャルだけどな。
お前は、俺の何を知っていると言うのだ!?
見かけだけで判断してある。
笑かしてくれるぜ」

捕まっても、彼は反抗的な態度は崩さない。
思わずグレゴリーは、怒りで男の顔を叩いてしまう。

「お前を、簡単には殺しはしない。
全ての概要を明らかにするまでは…。
どんな手を使っても、本心を語ってもらう!
いいな、マーシャル!!」

戦の神はこの中で唯一ゆいいつ、何度もこのような場面に遭遇そうぐうしてきたのであろう。
苛烈かれつな言葉で、マーシャルにそう命じる。

そして、敵の陣地の方へマーシャルを見せつけながら歩き出す。


  森の出口に出るとマーシャルの目に映ったのは、ヘイズ王率いる王軍に下った自分の兵士たち。

「そちの領地の民も兵士も、結局は王から預かりしものである。
マーシャル!
その目を開き、確かめよ!」

チューダー将軍の言葉に、彼は敗北を確信してか深く頭をれた。
部下が幕引きを感じて、声を二人にかけてきた。

「チューダー将軍、ハーブモーネ侯爵!
陛下が、マーシャルの城でお待ち申し上げております。
この馬車にお乗り下さい」

王軍の兵士たちが片膝かたひざを突き、頭を下げながら王からの伝言を伝える。

「チューダー将軍がお乗りなさい。
わしは馬車の近くで、馬に乗り向うのでな」

「ですが、貴方様もお疲れでしょう?!
ましてや、……」

孫娘の行方知れずを、言いかけて言葉を詰まらす。

黙ってただ首を振るグレゴリーに、それ以上に何も話さず馬車に乗る。

「よしよし、行ったか。
あんなせまい馬車に乗ったら、汗臭あせくさくてたまらんわ!
風呂に入って、早くサッパリしたいのう。
やれやれ、自分ですら臭いわい!」

鼻をクンクンさせながら、馬に乗るために歩きだす。

グレゴリーの本心を知らない、馬車の中の者たちは勝手に勘違いをしていた。
同乗した副官にチューダーは、窓からグレゴリーの騎乗きじょうした堂々とした姿に感嘆かんたんして話しだした。

「よく見るのだ!
いたる馬は道を忘れず】とは、あの方を言うのである。
 私も、あのような御仁ごじんになりたいものだ」

「チューダー将軍の仰る通り、なんとご立派な御仁ごじんだ!
まるで神のごとし!
経験豊かな人は、物事のやり方をよく心得こころえておりますな」

副官の話に同意して頷くと、こうも続けてきた。

「馬車を私一人に乗せたのは、将軍である私をたててのであろう。
それに自分が外にいれば、もし敵が襲ってきても対処できるようにだ」

「孫娘が、あのように行方知れずになっていてもー。
動じないとは、私には難しいものです」

副官の話にまたも深く同意して、まだ年端としはもいかない少女の顔を頭に浮かべた。

「プリムローズ嬢は、この戦では1番幼いのに1番手柄てがらを立てられたお方だ。
無事にお姿を…、我らに見せて頂きたいものだ」

 チューダー将軍が悲しげに部下と話している時、そんな願いを知るか知らぬか。
当の本人は、くまの後を鼻歌はなうたをしながら歩いていた。

「熊ちゃん?
立ち止まったという事は、この洞窟どうくつの中にお水があるの?」

『洞窟か?
 何かで聞いた単語だが、どこでしたっけ?!』

自分が、鷹のピーちゃんに話していたのを忘れていた。
彼女は色々ありすぎてか、このときは忘れっぽくなっていたのである。

1度彼女に振り向くと、どんどん奥に入っていく。

「待って~!熊ちゃん~!!」

ここはどこなのか、その答えは洞窟の奥にありそうだった。

頼るのは、この熊のみ。

彼女は、さっさと前にのしのし歩く熊ちゃんの後を追って行く。
マイペースな熊と、種族を越えたプリムローズとの交流はまだまだ続きそうだ。

 
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