上 下
113 / 142
第6章  黒い森の戦い

第5話 果報は寝て待て

しおりを挟む
 満天の星々を見上げて寝っ転がる彼女は、何で留学しに来たのに戦いに巻き込まれてしまうのかと考えていた。

普通のご令嬢とは、もっと優雅な者たちや綺羅きらびやかな物に囲まれて暮らしているんではない?
横を見れば雑草と野花、違う場所を見れば人相の悪い男たちがイビキをかいて寝ている。

最低最悪な環境の中に、自分がなんだかなさけなくて悲しい気持ちになってきた。

全ては、自分が引き寄せて巻いたたね
誰をうらむわけではないが、せめて天の星空を見てボヤいても許されるであろう。
独りそう思って、目を閉じて眠りについた。

『胸が苦しい、重苦しい?!
私は、若くして過労死かろうしになるの?』


たまらなくなり起きあがろうとしたら、目の前に相変あいかわらず目つき鋭いピーちゃんが彼女の顔をのぞき見ていた。

「おーっと、ピーちゃん!
原因はお前だったのかい~!」

「ぴ~、ピー!」と、鳴くと彼女の胸の上から飛び降りて羽をパタパタさせている。

彼女は、足に巻かれていたハンカチに見覚えがあった。

「このハンカチは、私がメリーの誕生日に贈ったものだわ!
メリーとギルは、無事だったのね」

「ぴ、ぴ、ぴぃー!!」

そうだそうだと鳴かんばかりに返事を返す、白い鷹。

「あぁ、神様!
滅多に思いませんが、心から感謝致します!
んまぁ、手紙もあるのね!
間違いないは、これはメリーの字だわ!!」

一通ひととおり読み終えると、手紙とハンカチを胸に抱き締めて涙を一滴ひとしずくだけ流す。

「どうしたのだ!
何かあったか、プリムローズよ!
朝っぱらから、なに泣いとるんだぁ?」

手紙を嬉しげに渡すと、その手紙を読んでから豪快ごうかいに笑い出す。

「ワァーハハハ!
果報かほうは寝て待て】とは、これだのう!
意味は少し違うがー。
寝ていたら、良い知らせ幸運が舞い込んだのは本当だしのう」

「え~と、幸運は求めても得られるものじゃない。
あせらないで、気長きながに待っていればやってくる。
お祖父様、そんな言葉でしたっけ?!」

まだ寝ぼけまなこをして、興奮状態で祖父に言葉の意味を答える。

「そんなもんじゃあな!
よかったな、プリム!
手紙を読む限りは、二人は元気そうだ。
めでたい、めでたい!
これは、今日は良い一日になるぞ!」

グレゴリーが思いっきり声高こわだかに話すと、周りも子分たちも二人の生存を喜んだ。

「ギルは、此方こちらに向かっています。
彼が合流したら、我が軍は百人力ひゃくにんりきになります。
オーホホホ」

二人の高笑いが、今から戦の始まりの合図あいずを待つ森の入口で響き渡っている。

 
    その半日後に、谷に落ちた二人はどうしているのか。

ギルとメリーは、雪ヒョウのヒンメルのお陰でやっと地上に出た。
そこにはプリムローズの愛馬ヴァンブウンが、一頭の馬を連れて二人と一匹の前に馬体ばたいを現していた。

「あれは、お嬢様の愛馬!
ヴァンブランではない?!
あぁ、きっとピーちゃんの手紙を読んでお嬢様が迎えを出したんだわ」

二人は前に乗ってきた馬がどこかに行ってしまったので、どうしてよいのか悩んでいた。
これには助かったと、馬たちを見てプリムローズの機転きてんに感謝するのである。

「メリー、見ろよ。
お前が王宮まで行けるように、お嬢からヴィクトリア様宛の手紙入っているぜ」

「確かにこんな格好かっこうでは、ヘイズの王宮に入る前に門前払もんぜんばらいですわ」

馬には食料に地図まであり、れりくせりだった。

「ヒンメルを護衛として連れて行くんだ。
ヒンメル、悪いがメリーを引き続き頼んだぞ!」

ギルの話を理解できたのか、彼女の側近くに寄ってくる。

「ギル師匠ししょう、どうか大旦那様とお嬢様をお助け下さい。
勿論もちろん、ギル師匠のご武運ぶうんをお祈りしますわ」

自分はついでみたいな言い方だったが、彼は怒らずに苦笑して彼女にお礼を言う。

「あぁ、有り難うな。
今生こんじょの別れになるかも、これはお礼と挨拶な!」

彼女のっぺたにキスを軽くすると、急ぎヴァンブランに飛び乗り一言声をかけて走り出す。

「生きていたら、また会おうぜ。
気をつけて行けよな」

驚いて彼女は、キスされた場所に手を重ねた。
去っていく馬上の彼を見て、彼女は少し目を細めて見送る。

「あの馬鹿でスケベな男は何してくれてるの。
ヒンメル、ヴァンブラン!
王都ヴァロへ、そして王宮に向けて出発よー」

力強く指示を出すと、彼が走って行った反対方向へ目指してヴァロへ王宮へと向うのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]

ラララキヲ
恋愛
 「お姉様、それ頂戴!!」が口癖で、姉の物を奪う妹とそれを止めない両親。  妹に自分の物を取られた姉は最初こそ悲しんだが……彼女はニッコリと微笑んだ。 「わたくしの物が欲しいのね」 「わたくしの“お古”じゃなきゃ嫌なのね」 「わたくしが一度持った物じゃなきゃ欲しくない“欲しがりマリリン”。貴女はなんて“可愛”そうなのかしら」  姉に憐れまれた妹は怒って姉から奪った物を捨てた。  でも懲りずに今度は姉の婚約者に近付こうとするが…………  色々あったが、それぞれ幸せになる姉妹の話。 ((妹の頭がおかしければ姉もそうだろ、みたいな話です)) ◇テンプレ屑妹モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい。 ◇なろうにも上げる予定です。

農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~

可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

処理中です...