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第5章 常勝王の道
第20話 急いては事を仕損じる
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地上ではまだ血生臭いまでとはいかないが、自分たちの主人たちが戦っているとは思っていなかった。
「ヒンメル、ヒンメルくん。
ずっとなだらかに、上を目指して歩いてるのは分かります。
この道とは思えない。
これで合っていますか?」
メリーが疲れを見せながら、雪ヒョウにお伺いを立てていた。
「おい、メリ~。
動物に真剣に尋ねるなよ。
ピーみたいに、意思の疎通が出来るとは限らんからな。
あれは鷹じゃなくて、人並みの知能しているぜ」
「小さい頃からお嬢様の近くにいたせいか。
お勉強の時間も、ジーッと側にいて聞いてましたもの」
知らない他人が聞いていたら、不気味な鷹にしか思えない会話でもある。
「アイツ、計算も出来るぜ。
俺、鳴き声で答えていた場面に遭遇したぞ」
「計算だけではありませんわ。
字も簡単な単語なら、理解できますよ。
三文字ぐらいですが。
人間でしたら、いい相棒になれましたのにね」
「いや、十分に相棒じゃねえの?
すまない、ヒンメル。
話が脱線して、首振っているからさ。
この道で、大丈夫じゃあねぇ?!」
崖下では長閑な会話を繰り広げては、地上に向かいひたすら道なき道を歩く2人と一頭。
地上では高笑い中であるプリムローズに、祖父グレゴリーがこれまた素晴らしい馬に跨り王の如しに見参した。
「プリムローズよ!
クラレンスの名に恥じない活躍だ!
祖父として、鼻が高いぞ!
ワーハハハ」
高笑いを聞いていた者は、遺伝子と血の濃さに納得する。
「お祖父様、この方が西の将軍。
エドアルド・ヴェントです。
後は残りは、マーシャルですね!
アチラは、どうですか?
首尾のほうは?!」
「北の将軍が、張り切っておった。
今頃は、アチラも捕まえておるんではないか?」
そこに慌てて駆けてくる者が、チューダ将軍の伝令が現れて馬から降りて膝をつく。
「大変でございます!
チューダー将軍が、マーシャルを捕まえに森に入りました。
その旨を、お伝えに来た次第です!」
「貴様らは、何をしておったのだー!
マーシャルの誘いとは、チューダー将軍は疑わなかったのか?!」
戦の神がイカヅチを落とすように、伝令に怒鳴りつけた。
「いけません!
黒い森には、助けになる動物たちは居ない。
もとからそこで戦っていた。
マーシャルの方が、絶対に有利ですわ!」
プリムローズたちの話を聞き、不気味に笑いだした者がいた。
「くっくく…。
マーシャルにとっては、森は庭だ!
南を預かるものは、王都に行く度にあそこを通る。
だから戦場に、あのミュルクヴィズを選んだのだ」
「捕まっていながら、威勢が良いな!
暫くは、黙って頂こう!!」
グレゴリーはヴィエントの首筋を叩くと、オリに入れろと命じる。
「急ぎヘイズ王とスクード公爵にお伝えしなくては!
ピーちゃんに、伝令をお願いしますわ」
「頼むとしよう!
儂も、これから森に入る。
黒い森には何度か入っているから、お前よりは知っておるぞ!」
私のせいかもしれない。
功を焦って、マーシャルの誘いに乗らざるを得なかったのかもしれない。
「裏目に出たのかもしれません。
私が…、私が派手に知らせたからー。
軽率でした、もしチューダー侯爵に何かありましたら…」
遮るように、彼女の言葉に重ねた声は暗く重い。
「違うな、お前の知らせで軍に活気がついた。
チューダー殿は、慎重にすべきだったのじゃあ。
戦の経験がないのが、仇になったのであろう」
「お祖父様、私はまだまだですね。
今まで私は、自信過剰でしたと気付かされました」
孫の頭にポンと手を載せて、言い聞かすように話す。
「【急いては事を仕損じる】。
マーシャルに対して、これにならなければいいがな。
急ぐことではない。
戦とは、勝つことだ!」
潤んだ瞳で、祖父の話す意味に答える。
「何事も急ぐと、焦って失敗しがちになる。
急ぐ事ほど、落ち着いて行動せよという戒めですね」
「今の儂らも、そうじゃあ。
チューダー殿を思うばかりで、焦ってはならない。
一個人より、全体を見て勝利しなくてはならん!
それが、戦争だし戦いだ!」
初めて、本当の真の姿を見た気がした。
これが、戦の神なのか!
「はいっ、お祖父様!
やるべき事を致しますわ」
彼女は現状を書き、それを祖父に確認を求めた。
「追伸で、ヴェントをヘイズ王に任せると記載せよ。
彼を、我々の元から手放す!気が散るからのう」
「はい、お祖父様。
いいえ…、戦の神よ!」
プリムローズには今の祖父は神のように神々しく思えたから、自然に言葉に出てしまっていた。
メリーとギルは、無事かしら?
ヒンメルは、ちゃんと二人に会えたかしら?
お祖母様やエリアスに、公爵夫人やイーダさんは王宮で恙なく過ごしているの?
今だけ今だけは、迷う心に正直になろう!
黒い森に入ったら、無二にならなくては生きて戻れないだろうからー。
「ヒンメル、ヒンメルくん。
ずっとなだらかに、上を目指して歩いてるのは分かります。
この道とは思えない。
これで合っていますか?」
メリーが疲れを見せながら、雪ヒョウにお伺いを立てていた。
「おい、メリ~。
動物に真剣に尋ねるなよ。
ピーみたいに、意思の疎通が出来るとは限らんからな。
あれは鷹じゃなくて、人並みの知能しているぜ」
「小さい頃からお嬢様の近くにいたせいか。
お勉強の時間も、ジーッと側にいて聞いてましたもの」
知らない他人が聞いていたら、不気味な鷹にしか思えない会話でもある。
「アイツ、計算も出来るぜ。
俺、鳴き声で答えていた場面に遭遇したぞ」
「計算だけではありませんわ。
字も簡単な単語なら、理解できますよ。
三文字ぐらいですが。
人間でしたら、いい相棒になれましたのにね」
「いや、十分に相棒じゃねえの?
すまない、ヒンメル。
話が脱線して、首振っているからさ。
この道で、大丈夫じゃあねぇ?!」
崖下では長閑な会話を繰り広げては、地上に向かいひたすら道なき道を歩く2人と一頭。
地上では高笑い中であるプリムローズに、祖父グレゴリーがこれまた素晴らしい馬に跨り王の如しに見参した。
「プリムローズよ!
クラレンスの名に恥じない活躍だ!
祖父として、鼻が高いぞ!
ワーハハハ」
高笑いを聞いていた者は、遺伝子と血の濃さに納得する。
「お祖父様、この方が西の将軍。
エドアルド・ヴェントです。
後は残りは、マーシャルですね!
アチラは、どうですか?
首尾のほうは?!」
「北の将軍が、張り切っておった。
今頃は、アチラも捕まえておるんではないか?」
そこに慌てて駆けてくる者が、チューダ将軍の伝令が現れて馬から降りて膝をつく。
「大変でございます!
チューダー将軍が、マーシャルを捕まえに森に入りました。
その旨を、お伝えに来た次第です!」
「貴様らは、何をしておったのだー!
マーシャルの誘いとは、チューダー将軍は疑わなかったのか?!」
戦の神がイカヅチを落とすように、伝令に怒鳴りつけた。
「いけません!
黒い森には、助けになる動物たちは居ない。
もとからそこで戦っていた。
マーシャルの方が、絶対に有利ですわ!」
プリムローズたちの話を聞き、不気味に笑いだした者がいた。
「くっくく…。
マーシャルにとっては、森は庭だ!
南を預かるものは、王都に行く度にあそこを通る。
だから戦場に、あのミュルクヴィズを選んだのだ」
「捕まっていながら、威勢が良いな!
暫くは、黙って頂こう!!」
グレゴリーはヴィエントの首筋を叩くと、オリに入れろと命じる。
「急ぎヘイズ王とスクード公爵にお伝えしなくては!
ピーちゃんに、伝令をお願いしますわ」
「頼むとしよう!
儂も、これから森に入る。
黒い森には何度か入っているから、お前よりは知っておるぞ!」
私のせいかもしれない。
功を焦って、マーシャルの誘いに乗らざるを得なかったのかもしれない。
「裏目に出たのかもしれません。
私が…、私が派手に知らせたからー。
軽率でした、もしチューダー侯爵に何かありましたら…」
遮るように、彼女の言葉に重ねた声は暗く重い。
「違うな、お前の知らせで軍に活気がついた。
チューダー殿は、慎重にすべきだったのじゃあ。
戦の経験がないのが、仇になったのであろう」
「お祖父様、私はまだまだですね。
今まで私は、自信過剰でしたと気付かされました」
孫の頭にポンと手を載せて、言い聞かすように話す。
「【急いては事を仕損じる】。
マーシャルに対して、これにならなければいいがな。
急ぐことではない。
戦とは、勝つことだ!」
潤んだ瞳で、祖父の話す意味に答える。
「何事も急ぐと、焦って失敗しがちになる。
急ぐ事ほど、落ち着いて行動せよという戒めですね」
「今の儂らも、そうじゃあ。
チューダー殿を思うばかりで、焦ってはならない。
一個人より、全体を見て勝利しなくてはならん!
それが、戦争だし戦いだ!」
初めて、本当の真の姿を見た気がした。
これが、戦の神なのか!
「はいっ、お祖父様!
やるべき事を致しますわ」
彼女は現状を書き、それを祖父に確認を求めた。
「追伸で、ヴェントをヘイズ王に任せると記載せよ。
彼を、我々の元から手放す!気が散るからのう」
「はい、お祖父様。
いいえ…、戦の神よ!」
プリムローズには今の祖父は神のように神々しく思えたから、自然に言葉に出てしまっていた。
メリーとギルは、無事かしら?
ヒンメルは、ちゃんと二人に会えたかしら?
お祖母様やエリアスに、公爵夫人やイーダさんは王宮で恙なく過ごしているの?
今だけ今だけは、迷う心に正直になろう!
黒い森に入ったら、無二にならなくては生きて戻れないだろうからー。
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