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第5章  常勝王の道

第12話 奇々怪々

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 こんな所で、この男の昔ばなしを聞かなくてはならないのか。
ルシアンとメリーは、自制心を持たないと保てないと黙って聞いていた。

彼が当時9歳の頃に、父親と言い争いをしたそうだ。

「何度考えても、なんでケンカして家を飛び出したのか。
理由は忘れちゃったけどさぁ。
乗馬習ってたから、調理場から食料くすねて馬に飛び乗り走り出したのよ。
これこそ、冒険だよな~!」

聞きたくないけど話は耳に入ってしまうので、二人はあきめて聞いてあげることにした。

「行き先は決めてあった。
ミュルクヴィズ、別名黒い森だ。
2つの山に囲まれた昼間でも薄暗い森で、ずっとどんな所か興味あった」

「ギル師匠ししょうの子供の頃でしたら、想像しなくても目に浮かびますわ。
好奇心旺盛こうきしんおうせいそうな、悪ガキでしたのでしょうね」

「彼女の言っている通りだ。
わざわざ、こんな場所に訪れたいと思うのはやんちゃなお子様だよ」

二人に馬鹿にされて、ギルは大人気ない顔をして見ていた。

「この道を誰が作ったのか、聞いたら驚くぜ!
俺も、森に行く途中で知ったんだ」

勿体づけて焦らすような態度で、この中では1番の年長者。
横で彼女が、しぶしぶと敷物をひいて男に声をかけた。

「ほら、服のお尻が汚れてますよ。
これに座り直してください」

メイドだけあり良く気が付く、まるで優しい母親の様に感じた。

「おっ、有り難く座るぜ」

「でっ、誰がこの道をひいたのですか?!
結構道幅があり、馬車もかろうじて通れますね」

腰を下ろす彼に、答えをはやしたてるルシアン。

「おっ、食いつきいいね!
誰だと思う?
当たったら、このチョコレートやるぜ!」

子供かよってルシアンは、誰が作ったのか考えていた。

「ヘイズ王でしょう?
秘密の道は人目につかないし、お忍びでこの道で狩りでも楽しんだのでは?」

ギルは、ヒネリのない返事に笑って彼に言った。

「ぶーっ、ハズレだ!
普通はそうだな。
俺も話を聞いて、バカげてると思ったよ。
偉人いじんとは、常人じょうじんとはかけ離れた考えをするんだよな」

「いい加減かげんに教えて下さい。
考えたって、答えはわからないんですから!」

メリーはしびれをきらして、彼に大きな声でお願いをする。

「アルゴラの常勝王じょうしょうおうだ!
彼がヘイズを奪うためにこの地に出向き、この道を兵に命じてつくったのさ!」

((えーっ!アルゴラ王が~!??なんで~、道をつくるの??))

反応が彼の思った通りで気をよくしたのか、日差しに負けないぐらい明るい表情になる。

「その顔が見たかったんだ!
ヒィー、アーハハ!」

腹をかかえて笑ってあぐらで座る男の頭を、メリーはムッとして軽く小突こづいく。

「バカ笑いしないで、ちゃんと話してくださいよ!」

「そうだ!
物事は順序じゅんじょだてて話すものだぞ」

「へいへい!
すまなかった!
ちゃんと、話すから怒んなってばよ」

黒い森にウキウキして馬を走らせていた時、1人の女性に出会った。
その女性に目がいったのは、彼女が真っ黒なマントは顔を隠す
帽子をかぶっていてほぼ顔が見えなかった。

不気味ぶきみでさ、大きなカゴを持っていた。
突然、はしから道の真ん中に出てきたから驚いたのなんの。
止まって、馬から飛び降りて怒鳴ったぜ」

まだ幼いのにこの時から乱暴者だったのねと、二人は胸の内で呟いた。

「危ないんじゃないかって、俺は注意した。
そうしたら、お前さんは子供で周りに大人も見えない。
何処へ行くんだね?
ほんと、しっこくってさ。
ボケてんのか何度も聞いていて、俺が根負こんまけけした」

話さないと解放しなさそうな気になり、仕方しかたなしに話してしまった。

「あらまぁ~、ギル師匠もかわいいところがあったんですね。クス」

彼女は、小さな彼を思い描き笑い始める。

「ふん!黒い森は、危険で幽霊ゆうれいが出るから行くなと説教された。
俺はここまで来たのにと、ふて腐れ相手に話したのさ!」

女性はなら秘密の道から帰ればと、彼に提案ていあんを持ちかけてきたそうだ。

「じゃあ!
その女性が、ギル殿にこの道を教えたのですね」

ルシアンは、座っている前の道とギルを見ながら問いかける。

「そうだ!
その人は、脇の山を目指して林の中に入っていった。
ついて行くと道に出た。
そして、この道は他国の王がこの国に攻め入った時に作ったと教えてくれたんだ」

普段は現れないが、自分の祖先はその王と関係があるから見える。
ここで会ったのもえんだ。
特別に見せてあげよう。
誰に教えたりしてはならないって、気味悪い女性に言われたそうだ。

「【奇々怪々ききかいかい】とは、これだよな!
非常に不可解で不思議だった。
まだ子供だったし、素直について行くと信じたんだな」

二人はギルの話に、秘密をバラしていいのかと突っ込みたくなるのだった。
それに自分たちもこの道に入れているという現実に、笑っているこの男は女性にだまされてしまったということになる。

そう思ったら、二人は一緒に笑いだしていた。
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