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第5章  常勝王の道

第9話 昨日の敵は今日の味方

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   腹が空いたら戦はできぬで、プリムローズたちは夕食を取っていた。
火を使用しているので、敵に位置を知られやすい。
この時をっていたのか、突然に森から10名程の敵兵たちが 此方こちらに矢を放った。

「食事中を、狙うとは不届ふとどき者めが!
のどに引っかかって、あの世行きになったらどうするのだ!
おのれ、許せぬわい!」

祖父グレゴリーは立ち上がり、矢が放たれた方を干した肉を持ち怒鳴る。
肉を剣に見立てて、敵に向けて指し示していた。

「お祖父様、お待ち下さい。
敵兵は、何かに追われて森から出てきた様子ですわ」

彼女は暗闇くらやみの中でじっと集中して見てみると、敵の後ろに獣たちが追って来ているのが分かった。

「兵士たちよー!
獣たちは、我らの味方です。
はさちにして、捕らなさい!」

彼女が指示すると、兵隊たちは素直に動く。
プリムローズの可愛さに骨抜きで、何でもホイホイと命令に従っていた。
獣たちに吠えられて怖がり呆気あっけないくらいに簡単に、敵兵たちはお縄になっていったのだ。

「お前たちの知っている事を素直に話したら、なわき食事を与えようぞ」

スクード公爵は寛大な態度で、捕まった敵兵たちにそう話して食べ物でってきた。

そんな簡単にはいくら腹がいても、味方みかたを売る行為など騎士道きしどうはんする。

彼女は騎士道の教えに忠実にだったが、実際は教えられてもその人間が本質ほんしつ左右さゆうされるものをこのときに肌で味わったのである。

「飯をー!
飯を食わせてくれるんですか?!
なんでも話します。
全て、洗いざらい知っている事をー!!」

『こんなに飢えていたのか。
お腹空くのは辛いのは、私も嫌だし気持ちは分かるがー』

いとも呆気あっけなく返事するのを、プリムローズはとても信じられないと言葉を投げかける。

「えーっ!
お前たちは、簡単に味方を売るの?!
もう少し、普通は反発しない!?
そんな事を喋れるか!とか言わないの~!」

彼女は思った事を口に出して、前にお縄になっている者たちに疑問を投げかけてくる。

「あっ、普通はそうでしょうが…。
俺たちはだまされて、この森に連れて来られましたので…」

1人の敵兵は、歯切はぎれ悪そうにボソボソ答えてくれた。

「はい?なにそれ?
騙されたって、貴方たちは兵士でしょう?
主人に誓いをたてた、騎士ではなの?!」

プリムローズは、呆れるのを通り越していた。
両手を後ろでグルグル巻で、土下座状態の兵に尋問じんもんし始めた。

「俺たちは、4大将軍がつどう合同訓練するって言われて連れて来られたのです!」

「そうだ!まさか、森の中で獣に襲われるとは思わなかった」

「それに…、事前にわながあるから気を付けろと!
無理難題に決まっているじゃないか。
あんなものに追いかけられてよぉ~!!」

一人だけでなく、次々と不満不平ふまんふへいを言い出してくる捕虜ほりょたち。
この話を聞く限り、森の中は混乱しまくっているな。

「……。分かった、分る!
貴方たちは、別に私たちと真剣には戦うつもりないのよね?
訓練だと騙されていた、そうでしょう?」

彼らは、この小さな女の子が何故こんな場所にいるのか?
えらそうに話していても、誰も不思議がっていないのに驚くのだ。

「へい、そうです。
もう、家族のいる田舎に帰りたい。
元々は、俺らは正式の騎士ではなく農民で予備兵なんです」

帰りたいまで弱音よわねく、この男たちに何ができようか。
北の将軍はクセのある髪を指でクルクルさせて、けない者たちに言葉を投げつけた。

「腹いっぱい飯を食え!
戦いが終わったら、家族の元へ無事に戻るがよいぞ」

チューダー侯爵はそう約束すると、縄を解いてシチューの入った皿を渡すように兵士たちに頼むのだった。

「【昨日の敵は今日の味方】です。
人の心はうつろいやすく、あてにならないものだ」

スクード公爵はシチューを美味おいそうに頬張ほうばって食べながら、先ほどまでの敵兵たちを見てポッと口にする。

「まったくだ。
こうして、4大将軍が2手に分かれて戦っている。
同じ王につかえて、今までやってきたのに…」

私には彼らの仲がどうきずいていたのかわからないが、見てる限りは怒りよりかなしみに近いのだろう。

「勝っても敗けても、後味あとあじが悪い。
そうお思いになりませんか?お祖父様」

「その通りだ、だかのう…。
けして、負けてはならぬ。
ヘイズ王の軍隊は、此方こちらに向かっていると伝令でんれいが来ていた。
どうやら、王みずから指揮をとる姿を拝見はいけんができるぞ」

彼女はあまり乗る気がしない表情を浮かべ、誰よりも戦い方を知る祖父の話を頼りにして聞いていた。

この戦はどう開戦かいせんして、最後の結末はどうなるのか。
考えても先が見えないので、彼女は仕方しかたなしに冷えた食べかけのシチューを我慢がまんして食べる。

『くっそぉー、温かいほうが美味うまいのに!』

少し遠くで、温かいのを食べる捕虜たちにガンをつける。
どこまでも意地いじっている、くさっても公爵令嬢の彼女だった。
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