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第4章 光と闇が混ざる時
第25話 世乱れて忠臣を識る
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ヘイズ王への謁見は、明日の午後にお茶会の形で行われることになった。
今回の事件で、展開が早まると思ったらしい。
手紙でやり取りするよりは会って話したほうが、互いに意見交換ができると判断しのだろう。
スクード公爵夫妻に、私とハーヴモーネ侯爵夫妻が呼ばれる。
女性を混ぜておけば、敵の目を欺けるようだと考えたみたい。
「お嬢様、危険ではありませんか?
オスモ様やルシアン殿下のように、お嬢様が狙われるかもしれません」
メリーはドレスを着せながら、プリムローズを心配そうに見ていた。
「心配しなくて平気よ。
彼方は拉致して、見事に失敗したのよ。
それに人質がいて、手を出しにくいはずよ」
毒女サンドラが、手元にいる限りはね。
「気を付けて下さいませ。
こんな物騒な留学なるとは、私は思いもしませんでした」
メリーの話には同意する。
こんなに周りがキナ臭り、私だって想像出来なかった。
「留守の間、エリアスをお願いね。
彼だけは、絶対に敵に捕まってはならない」
「ギル師匠とウィリアム様が見張っています。
ウィリアム様は見識が広く、エリアスは彼のお話を聞くのに夢中ですわ」
ウィル親方なら勉強も教えてくれて、護衛にもなるから助かる。
馬車に乗り込むと、3人は王宮へ向かう。
ご嫡男オスモ様は、まだ顔に傷が残っているので留守になってしまった。
あの顔では御前には出れまい、不敬にあたり無理よね。
本人には、浮気の反省の色はない。
誤解だと言い逃れをしているが、私は直に聞い声色だとその気になっていたと思う。
王宮に到着したが、いつも出迎えるはずの侍従長ではない方が出迎えてくれた。
「スクード公爵様、公爵夫人。
それに、クラレンス公爵令嬢。
陛下の元へご案内致しますので、こちらへどうぞ」
大人しく、その者の後へついて歩き出す。
途中で出会う女官やその他の者たちは、緊張しているのか強張っている様に感じた。
『何か侍従長にあったのかしら?』
プリムローズは、姿が見えない侍従長をヘイズ王は処分したのかと考え始める。
部屋に入ると祖父であるハーヴモーネ侯爵が、ヘイズ王の前にドカンと座っていた。
態度から知らない人なら、祖父グレゴリーを陛下と見間違うと孫娘は思った。
「よう参ったな。
余らには、挨拶は無用だ」
ヘイズ王はソファーを指し示すと、スクード公爵から拉致事件の話を詳しく伺ってくる。
「余が、心が弱いばかりに迷惑をかけた。
スクードよ、すまぬ!
もう1つ、謝らなくてはならないことがある」
「陛下、謝罪してはなりません。
臣下たるもの、当たり前でございます。
迂闊に、その様な態度はしてはなりませぬ」
スクード公爵オレフは、忠臣として主君を諌めたのであった。
「【世乱れて忠臣を識る】ですな。
ヘイズ王よ!
世が混乱した時にこそ、真の忠義の臣が誰かとわかることになる」
祖父グレゴリーは相変わらず偉そうに、他国の王様に説教しだす。
ヘイズで侯爵の地位があるから、とりあえずは臣下になるのか。
プリムローズが感じたことを、ポロッと口に出してしまった。
「陛下、発言しても宜しいですか?」
礼儀正しくお伺いを立てて、彼女はヘイズ王に質問を繰り出した。
「疑問があります。
今回の誘拐事件はー。
サンドラ・ヴェントの単独犯行ではないでしょうか?
余りにもお粗末すぎます」
「うむっ、プリムローズ嬢は気づいたようじゃな。
サンドラは、まだソナタらには話していないようだな。
王家の力を使い、ヴェントを見張らせておった。
公爵の息子を拐かしたのは、どうもサンドラだった」
「なんと、侯爵令嬢が!
令嬢が、独りで考えてしたと言うのか」
「はぁ~、サンドラは修道院に入る前にオスモ様と関係を結びたかったのでしょう!?」
「かん、関係って!
その男女の…、ことですの?」
関係を無理矢理持たされそうになった母であるニーナは、扇で顔を隠して頬を赤らめた。
「なんじゃ、儂らの考えすぎだったのか?
捨て身のハニートラップをしただけか、昔お前も儂にしてくれたやつじゃな。わーははは」
「嫌ですわ、旦那様。
妾は、トラップではなく本気でしたわ」
お祖父様もお祖母様も、人前でも仲の良いこと。
「陛下、私も発言をお許し下さいませ。
お茶にへんな物を混入した事件は、解決したのですか?
問い詰めて咎めたり処罰したのでしょうか?」
同じ女性である二人は、王妃様や側室の方々を気にしていた。
スクード公爵夫人ニーナは、堪らずに王に対してお声がけする。
「何故、飲ませてしまったのか。
聞き出して正々堂々と詫びるか、シラを切り否定するか。
余は、彼に問い質したいと思った。
しかし、あれは何も話さず。
ただ、自分が悪いしか言わぬのだ。
何かを隠しているか、誰かを庇っているように見える」
彼は苦い表情して、お茶を飲むために口元にカップを近づけた。
「ワハハハ、やっと自ら動きましたな。
貴方様は、先王に似ておられる。
あの御仁も、ほんに慎重というか臆病であられたのう」
祖父グレゴリーが、何やら含みのある言い方をしてきた。
一国の専制君主には、不敬な物言いだ。
グレゴリーにしか許されないだろう。
プリムローズは孫ながらも、その不思議な魅力に毎回驚くのである。
「スクードよ!
その前に余は…、ここに居る皆に謝罪しなくてはならない。
全ては、心弱さが引き起こした」
ヘイズ王は、苦悩を表情に表していた。
君主たるものは、いつも堂々として弱味を見せてはならない。
この王はその仮面を、今は完全に取り外している。
彼女は、エテルネルの自国の王族たちの顔を思い浮かべた。
彼らも、その仮面をうまく使いこなしていない。
それでも、それなりに王族として尊敬出来る人物たちだと思っている。
「子が出来なくなるお茶は、余が飲むために内密に用意した物だったのだ」
ヘイズ王から発せられた声が、遥か遠くから聞こえる。
そんな変な感覚になっていた。
今回の事件で、展開が早まると思ったらしい。
手紙でやり取りするよりは会って話したほうが、互いに意見交換ができると判断しのだろう。
スクード公爵夫妻に、私とハーヴモーネ侯爵夫妻が呼ばれる。
女性を混ぜておけば、敵の目を欺けるようだと考えたみたい。
「お嬢様、危険ではありませんか?
オスモ様やルシアン殿下のように、お嬢様が狙われるかもしれません」
メリーはドレスを着せながら、プリムローズを心配そうに見ていた。
「心配しなくて平気よ。
彼方は拉致して、見事に失敗したのよ。
それに人質がいて、手を出しにくいはずよ」
毒女サンドラが、手元にいる限りはね。
「気を付けて下さいませ。
こんな物騒な留学なるとは、私は思いもしませんでした」
メリーの話には同意する。
こんなに周りがキナ臭り、私だって想像出来なかった。
「留守の間、エリアスをお願いね。
彼だけは、絶対に敵に捕まってはならない」
「ギル師匠とウィリアム様が見張っています。
ウィリアム様は見識が広く、エリアスは彼のお話を聞くのに夢中ですわ」
ウィル親方なら勉強も教えてくれて、護衛にもなるから助かる。
馬車に乗り込むと、3人は王宮へ向かう。
ご嫡男オスモ様は、まだ顔に傷が残っているので留守になってしまった。
あの顔では御前には出れまい、不敬にあたり無理よね。
本人には、浮気の反省の色はない。
誤解だと言い逃れをしているが、私は直に聞い声色だとその気になっていたと思う。
王宮に到着したが、いつも出迎えるはずの侍従長ではない方が出迎えてくれた。
「スクード公爵様、公爵夫人。
それに、クラレンス公爵令嬢。
陛下の元へご案内致しますので、こちらへどうぞ」
大人しく、その者の後へついて歩き出す。
途中で出会う女官やその他の者たちは、緊張しているのか強張っている様に感じた。
『何か侍従長にあったのかしら?』
プリムローズは、姿が見えない侍従長をヘイズ王は処分したのかと考え始める。
部屋に入ると祖父であるハーヴモーネ侯爵が、ヘイズ王の前にドカンと座っていた。
態度から知らない人なら、祖父グレゴリーを陛下と見間違うと孫娘は思った。
「よう参ったな。
余らには、挨拶は無用だ」
ヘイズ王はソファーを指し示すと、スクード公爵から拉致事件の話を詳しく伺ってくる。
「余が、心が弱いばかりに迷惑をかけた。
スクードよ、すまぬ!
もう1つ、謝らなくてはならないことがある」
「陛下、謝罪してはなりません。
臣下たるもの、当たり前でございます。
迂闊に、その様な態度はしてはなりませぬ」
スクード公爵オレフは、忠臣として主君を諌めたのであった。
「【世乱れて忠臣を識る】ですな。
ヘイズ王よ!
世が混乱した時にこそ、真の忠義の臣が誰かとわかることになる」
祖父グレゴリーは相変わらず偉そうに、他国の王様に説教しだす。
ヘイズで侯爵の地位があるから、とりあえずは臣下になるのか。
プリムローズが感じたことを、ポロッと口に出してしまった。
「陛下、発言しても宜しいですか?」
礼儀正しくお伺いを立てて、彼女はヘイズ王に質問を繰り出した。
「疑問があります。
今回の誘拐事件はー。
サンドラ・ヴェントの単独犯行ではないでしょうか?
余りにもお粗末すぎます」
「うむっ、プリムローズ嬢は気づいたようじゃな。
サンドラは、まだソナタらには話していないようだな。
王家の力を使い、ヴェントを見張らせておった。
公爵の息子を拐かしたのは、どうもサンドラだった」
「なんと、侯爵令嬢が!
令嬢が、独りで考えてしたと言うのか」
「はぁ~、サンドラは修道院に入る前にオスモ様と関係を結びたかったのでしょう!?」
「かん、関係って!
その男女の…、ことですの?」
関係を無理矢理持たされそうになった母であるニーナは、扇で顔を隠して頬を赤らめた。
「なんじゃ、儂らの考えすぎだったのか?
捨て身のハニートラップをしただけか、昔お前も儂にしてくれたやつじゃな。わーははは」
「嫌ですわ、旦那様。
妾は、トラップではなく本気でしたわ」
お祖父様もお祖母様も、人前でも仲の良いこと。
「陛下、私も発言をお許し下さいませ。
お茶にへんな物を混入した事件は、解決したのですか?
問い詰めて咎めたり処罰したのでしょうか?」
同じ女性である二人は、王妃様や側室の方々を気にしていた。
スクード公爵夫人ニーナは、堪らずに王に対してお声がけする。
「何故、飲ませてしまったのか。
聞き出して正々堂々と詫びるか、シラを切り否定するか。
余は、彼に問い質したいと思った。
しかし、あれは何も話さず。
ただ、自分が悪いしか言わぬのだ。
何かを隠しているか、誰かを庇っているように見える」
彼は苦い表情して、お茶を飲むために口元にカップを近づけた。
「ワハハハ、やっと自ら動きましたな。
貴方様は、先王に似ておられる。
あの御仁も、ほんに慎重というか臆病であられたのう」
祖父グレゴリーが、何やら含みのある言い方をしてきた。
一国の専制君主には、不敬な物言いだ。
グレゴリーにしか許されないだろう。
プリムローズは孫ながらも、その不思議な魅力に毎回驚くのである。
「スクードよ!
その前に余は…、ここに居る皆に謝罪しなくてはならない。
全ては、心弱さが引き起こした」
ヘイズ王は、苦悩を表情に表していた。
君主たるものは、いつも堂々として弱味を見せてはならない。
この王はその仮面を、今は完全に取り外している。
彼女は、エテルネルの自国の王族たちの顔を思い浮かべた。
彼らも、その仮面をうまく使いこなしていない。
それでも、それなりに王族として尊敬出来る人物たちだと思っている。
「子が出来なくなるお茶は、余が飲むために内密に用意した物だったのだ」
ヘイズ王から発せられた声が、遥か遠くから聞こえる。
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