上 下
74 / 142
第4章  光と闇が混ざる時

第14話 先んずれば人を制す

しおりを挟む
    ハーヴモーネ侯爵夫妻を前にして、商人タルモは緊張気味。
彼はたくさんの貴族にあきないをして、彼らにれていたつもりでいた。

「そちが、孫娘が世話になった。
……、ヘイズの商人か?
わしは、祖父のグレゴリー・ド・クラレンスだ。
そうじゃった。
ここでは、ハーヴモーネと呼んでくれ。
宜しゅう頼むな!」

祖父がタルモ殿に名乗ると、横に立つ祖母が次に挨拶する。

わらわが、妻のヴィクトリア・ド・クラレンスです。
プリムローズが迷惑かけたのう、礼を申すぞ」

優雅におうぎで口元を隠して、お得意の鋭い目線で自己紹介してくる。

「お目にかかれて、光栄のいたりでございます。
タルモ・ホルコネンと申します」

挨拶すると、タルモは黙って近くにいるルシアン殿下をチラリと見た。

「あぁ、そこの若造は孫のブライアンだ。
まぁ、ちょい訳ありだが~。
この子は、気にせんでよいわ」

投げやりに紹介されて無言でお辞儀する、ブライアン。
本来は、エテルネルのルシアン王子殿下であった。

プリムローズを含めた5人は、タルモとプリムローズとの出会いや船の旅路の話で盛りあがる。

「ほお~、そうか。
優れた商人に助けて頂いたのじゃあな。
プリムローズが迷惑かけたついでに、儂も助けてくれんか?
のう、……駄目かのう?!」

プリムローズは、やはりと感じてタルモ殿に申し訳なさそうに流し目を送る。
ブライアンは、そんな彼女の表情の変化をさっした。
祖母ヴィクトリアは、夫の味方なので平然と話を聞いていた。

「私は…、一介いっかいのただの商人にすぎません。
クラレンス公爵様…。
いや、ハーヴモーネ侯爵様のような立派な方のお役に立てるなどございません」

上手い、なんと見事なお断り術とプリムローズはタルモの機転に羨望せんぼう眼差まなざしで見守る。

「いやいや、儂など片足に棺桶かんおけを突っ込んどる。
ただのくたびれたじじいじゃ。
若いそちの方が、よっぽど役立つと思うぞ!
のう~、儂を助けてはくれんか?!」

これは断れないと、ルシアンはクラレンス公爵のねばる話し方でそう感じた。
これを拒絶出来る者は、なかなかこの世にはおるまい。
    
「ハーヴモーネ侯爵、私は何度も言うがただの商人。
一度商談したら誠心誠意、相手の求める品を探すのが仕事。
失礼ですが、内容によっては断ります。
それでも、宜しいのですか?!」

『クーッしびれる、ズバリきましたわ。
二人の間には、凄まじい緊張感が走っていますこと。
あの祖父に対して、これ程ハッキリ仰る。
まさに今、商人の神を目の前で見ましたわ』

プリムローズは、エリアスの件で船長とのやり取りはこんな感じだったのだろうと想像した。

「ふぅ~ん、まぁ良いぞ!
久々に骨のある御仁ごじんに会って、儂も喜んでいるぞ」

『おぉー、あの戦の神を退しりぞけた。
なんと、豪胆ごうたんなお人だ』

尊敬に値する、ルシアンは瞳を輝かしタルモから目を離せずにいた。

戦の神対商人の神は、互いに目を見ながら話をつづけた。

「タルモ殿にエリアス様の噂を、上手い具合に流して欲しい。
商人たちから貴族たちに、うまく伝えて欲しいのだ」

「【先んずれば人を制す】ですか?
人より先に行動すれば、有利な立場に立つことができますな。
でっ、ハーヴモーネ侯爵様!
なんと、私は伝えれば良いのです」

祖母は二人の話し合いを静かに聞く姿勢にてっしていたが、それを孫娘は恐れた。
彼女は元大国の王女殿下、このような策略にたけている。

「エリアス様は、王弟夫妻の乗る馬車の車輪を外れるように工作こうさくした犯人を存じあげておる。
彼を屋敷から連れ去り逃し、世話した者から伺ったとな。
その様な噂を、うまく流して欲しい」

私たち4人は祖父の話を聞き、驚きの声を各々出してから祖父クレゴリーの話の続きを待った。

「亡くなった先王から、病床で伺ったのだ。
誰かがー、行為に害したとな。
自分が居なくなった後に、息子が王になり心配だと話された。
儂が、他所の者には話しやすかったのであろう」

沈黙を破るのは、冷静な商人の声であった。

「我が商会の1番の得意先の大事…。
力になりますが、私の主に話しても宜しいか。
何せ、私は商会に属する者ですからな」

祖父は、タルモ殿の商会の代表者を頭の中で思い浮かべているのか?
暫く、手をアゴに置き考えている様子していた。
大きく一度頷くと、タルモ殿に一言だけ返事をした。

「商談成立です!
決行日は、主から返事をもらい次第で宜しいか?!」

「よい!我が屋敷には、敵がいつ来ても良いように準備する。
ヴィクトリアは、スクード公爵の屋敷にプリムローズと行け!
案ずるな、戦争より楽な戦いになる」

「旦那様、私はここにおります。
けして、足手まといにはなりませぬ」

祖母は扇を握りしめると、目線まであげて一気にバラバラにしてみせた。
これには、見ていた私たちは目を丸くした。

「ワーハハハハ、怪力かいりき王女は本当だったのだな。
ヴィクトリア、ああ分かった。
身の危険を感じたら、すぐにでも逃げるのじゃぞ。
儂に、約束できるな!」

「はい、旦那様!」

怪力王女って、お祖母様のこと?!
祖母はたくさんの扇を簡単に破壊しているけど、馬力ばりきではなく怪力だったの?!

「お噂は、このヘイズにも聞こえています。
アルゴラの元第一王女は、狩りで偶然に出会った熊を投げ飛ばして腹を一撃して瞬殺しゅんさつしたと…」

タルモは、バラバラなった扇の残骸ざんがいを見つめてはアッサリと話をしてきた。

「えっ、お祖母様が!
熊ちゃんを○○しましたの?!
凄いー、私も熊ちゃんを投げ飛ばしてみたいー」

「そんなこともありましたな。
昔過ぎて、妾は忘れたわ」

物騒な事をまた平然と嬉しそうに話す少女と祖母。
エテルネルの王子は、二人を青い顔で見ていた。
 
「…………。(ここへ来なければ、良かった)」

ルシアンはクラレンス公爵一家の異常性を知ってはいたが、恐らくそれは一部なんだと今初めて思い知る。

『プリムローズ嬢を、私の伴侶にできるのだろうか?
その前に、私が○○されそうになるのではないか?』

ルシアンは、エリアスの身代わりよりも恐ろしく感じるのである。
    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~

可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

わたしは出発点の人生で浮気され心が壊れた。転生一度目は悪役令嬢。婚約破棄、家を追放、処断された。素敵な王太子殿下に転生二度目は溺愛されます。

のんびりとゆっくり
恋愛
わたしはリディテーヌ。ボードリックス公爵家令嬢。 デュヴィテール王国ルシャール王太子殿下の婚約者。 わたしは、ルシャール殿下に婚約を破棄され、公爵家を追放された。 そして、その後、とてもみじめな思いをする。 婚約者の座についたのは、わたしとずっと対立していた継母が推していた自分の娘。 わたしの義理の妹だ。 しかし、これは、わたしが好きだった乙女ゲーム「つらい思いをしてきた少女は、素敵な人に出会い、溺愛されていく」の世界だった。 わたしは、このゲームの悪役令嬢として、転生していたのだ。 わたしの出発点の人生は、日本だった。 ここでわたしは、恋人となった幼馴染を寝取られた。 わたしは結婚したいとまで思っていた恋人を寝取られたことにより、心が壊れるとともに、もともと病弱だった為、体も壊れてしまった。 その後、このゲームの悪役令嬢に転生したわたしは、ゲームの通り、婚約破棄・家からの追放を経験した。 その後、とてもみじめな思いをすることになる。 これが転生一度目だった。 そして、わたしは、再びこのゲームの悪役令嬢として転生していた。 そのことに気がついたのは、十七歳の時だった。 このままだと、また婚約破棄された後、家を追放され、その後、とてもみじめな思いをすることになってしまう。 それは絶対に避けたいところだった。 もうあまり時間はない。 それでも避ける努力をしなければ、転生一度目と同じことになってしまう。 わたしはその時から、生まれ変わる決意をした。 自分磨きを一生懸命行い、周囲の人たちには、気品を持ちながら、心やさしく接するようにしていく。 いじわるで、わたしをずっと苦しめてきた継母を屈服させることも決意する。 そして、ルシャール殿下ではなく、ゲームの中で一番好きで推しだったルクシブルテール王国のオクタヴィノール殿下と仲良くなり、恋人どうしとなって溺愛され、結婚したいと強く思った。 こうしてわたしは、新しい人生を歩み始めた。 この作品は、「小説家になろう」様にも投稿しています。 「小説家になろう」様では、「わたしは出発点の人生で寝取られ、心が壊れた。転生一度目は、悪役令嬢。婚約破棄され、家を追放。そして……。もうみじめな人生は嫌。転生二度目は、いじわるな継母を屈服させて、素敵な王太子殿下に溺愛されます。」という題名で投稿しています。

処理中です...