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第4章  光と闇が混ざる時

第9話 獅子の子落とし

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  歓迎のうたげは終わった。
歓迎といっても、お祖父様が子分たちを使い運び込んだ食料でほとんどまかなったようだ。

「それでは、わしらは屋敷に戻るかのう。
プリムや、明日にも我が屋敷に遊びに来るがよい」

祖父は、私をスクード公爵の屋敷に置いて行くみたい。

「お祖父様、何ですかー?
ヘイズに屋敷があるなら、そこで最初から暮らせばよかったのではありませんか?!」

納得がいかない彼女は、祖父に疑問を投げかけた。

「プリムや、お前少しこの南国気質に頭をやられたのか。
儂は、ヘイズでは謎の侯爵だ。
エテルネルのクラレンス公爵ではないんだぞ!
つまり、お前とはここでは赤の他人だ。
分かったな!
おーい帰るぞ~、皆のもの!」

なんですっと、では○○侯爵って呼ばないといけないの?

「ちょっと、お待ち下さい!
お祖父様の名をなんと呼ぶんですか!?
キチンと段取りよく、お話しをして下さいませ。
私は何がなんだか、サッパリ理解出来ません」

プリムローズはあきれてから、ちょい怒りが込み上げてきた。
暗号文で、前もって教えてくれたら良かったのにー!

「悪るかった、ハーヴモーネ侯爵だ!
なかなか良い名じゃろ」

「はぁ~、海と月ですか。
確かに風流ですこと、海賊の頭に相応ふさわしい名をつけましたわね。
人前では、ハーヴモーネ侯爵様とお呼びすることにします」

お祖父様は無骨ぶこつそうに見えるが、案外ロマンチックなお方なのかしらね。

「おおそうじゃな。
これから、嵐が来そうだし。
用心に越したことはない。
ブライアン殿は、儂らの孫になるからの。
すまぬが、プリムローズとは知らぬ間柄で通せよ!よいな」

ルシアンは、ガッカリした表情をギリギリえていた。
ここで大人にならなくてはと、自分に言い聞かせた。
兄妹の間柄で交流を持てると、エテルネルからはるばる来たのに心の中は大嵐。

「ブライアン様、ここは他国です。
エテルネルではないのですから、目立たないように武器でも隠し持っておいて下さいね」

やっと、彼女から声をかけてくれた。
そう思って喜んだのも束の間、優しさも微塵みじんのない物騒ぶっそうな言葉であった。

「プリム、安心せい!
儂や子分たちも、目を光らせておるわい。
しかしなぁ、ブライアンよ!
ここへ来る条件に、自分の身は自分で守れと申したからな」

「ブライアンは将来大きな物を、その背負って立つお方。
もし、何かあってもご自分で責任を持ちなさい!」

どういう理由で、ヘイズに殿下は来られたのだろうか?!
首をひねりたくなるプリムローズは、他国を観光したかったのかと勘違いをした。
まさか、自分の為に海を渡ったと話してもとても信じないだろう。

それにしても、ルシアン王子がもしこの世からいなくなったら…。
お二人は、どうするんでしょう?!
後が怖いので、考えをやめとくのであった。

「ま、あれじゃな!
獅子しし子落こおとし】!
獅子は子を産むとその子を深い谷に投げ落とし、よじ登って来た強い子だけを育てるといういい例えがあるわい」

お祖父様はすごいことを言っては、サラッと殿下を見捨てにかかっていらっしゃるわ。

「ブライアン様は、剣術や体術は習っていますか?
もし、ご不安でしたら…。
お祖父様、子分を2,3人付けた方が宜しいのでは?!
この方があの世に旅立つたら、私たちは首チョンパをされてしまってよ」

孫娘も負けずに、それは恐ろしい言葉を吐いた。

「なにを甘いことを申します!
自分の子に苦難の道を歩ませ、その器量を今こそ試すのです。
もう、貴方は16歳になるのでしょう?!
旦那様は16歳で初陣ういじんで、戦の神にしょうされ立派に戦ったのですよ!」

おばあ様もキツい物言いをされて、それに血もつながらない殿下を子供扱いして。
確かに、子供の部類ギリギリの年齢ですけどね。
あの幸運の持ち主のお祖父様と、同列にされてはいけないわ。

「おばあ様…。
今は身内扱いですが、私たちとは比べたら可哀想ですわ。
とくに、お祖父様とでしたら月にすっぽん。
いえ、すっぽんではなくミミズですよ!オーホホホ」


周り者たちは聞きたくもないが耳に入る会話とプリムローズの高笑い、思わず耳をふさぎたくなる。

「私がー、ミミズ…。
あの、土の中でくねくねしている。
なんと、無礼な!
聞き捨てならないぞ!」

とうとう我慢できずに言い返す、殿下でなく孫ブライアン。

「では、誰に剣術を教わったの?
まさか、貴方も近衛このえ隊長なの?!
あんなお飾りの品の良いだけの剣さばきで、人を殺せるのかしらね。クスクス」

スクード公爵ニーナ夫人は、顔を青ざめ夫の腕にしがみついた。 

「これこれ、プリムローズ!
ブライアンも、ミミズを馬鹿にするな。
あれがいる土地は、作物がよく育つからのう。
今のお主より、数倍は役立つ」

周りはミミズの方ですかと、あきれた表情を見せて成り行きを見守っていた。

今までここまでコケにされた事のないルシアンは、声を出せず怒りで震えていた。

「コホン、大事ないように屋敷から出なければよいのではないかな?
皆さまで観光するのであれば、警戒のために護衛も付けます」

助け船を出したスクード公爵は、疲労した顔を見せた。
あのクラレンス公爵の方々が、ここまで毒舌どくぜつとは知らなかった。

「スクード公爵よ。
気持ちは有り難いが、だが案ずるな。
我が子分たちは騎士並みにきたえておる。
プリム、明日は久しぶりに剣の稽古けいこをつける。
腕が鈍っていたら、その腕を切り落とすからな!よいな!」

最後まで、物騒な会話で終わった。
相変わらず話したら、とっとと撤収して帰る戦の神であった。

普通に笑顔で手を振るプリムローズを、後ろで固まって見送っていた。
スクード公爵家の人々である。
    
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