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第4章 光と闇が混ざる時
第6話 能ある鷹は爪を隠す
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この屋敷の主人は、近くにいる者に大慌で、急ぎ客間の用意をするよう命じる。
別に寝れればいいですよと彼女は、公爵に話したが屋敷の使用人たちはバタバタしていた。
なにせ祖父は先王の命の恩人で、祖母は大国アルゴラの元第一王女殿下である。
プリムローズは、使用人たちに準備を自ら指示する公爵夫妻を横目でチラリと眺めていた。
「お嬢様、本当にブライアン様はあのお方なのでしょうか?
実は、本物の方がひょっこり現れたりしませんか?」
「さぁね、とにかく足手まといはゴメンだわ。
お祖母様は、ご自分で身を守れるのかしら?
元王女様だし、護衛に任せていたのかもね」
プリムローズはいざとなれば、公爵夫人と二人で出席させた。
仮病をつかい、新年の王族主催のパーティーは参加せず屋敷に引きこもるつもりでいた。
「知りませんでしたか、大奥様は体術と剣はお強いですよ。
元王女だけあり、習ったお方は将軍だったそうですわ」
メリーの発言に、彼女は驚き口をポカーンと開ける。
「【能ある鷹は爪を隠す】だわ。
お祖母様は、一度もそんなお話をした覚えはないわよ」
「ヴィクトリア様は、ひけらかしたりしませんもの。
お嬢様は扇をへし折る腕力で、普通の人ではないとは気づきませんでしたか?!」
メリーは、チクリとプリムローズに嫌味を言ってみた。
「なるほど、そうだわ。
指をへし折る仕方も、お祖母様から教えて貰った。
よくよく考えたら、普通の王女様は知らないわよね」
二人は、考えが一致したのか頷き合っていた。
ヘイズは温暖な気候で、南国に近いカラッとした陽気のせいか汗もかかずに過ごしやすい。
エテルネルは四季がハッキリしていて、今の時期は雪が降る日もある。
「本当に今日なのよね。
こちらに到着する予定って…。
会えるのは喜ばしいが、不安しかないわ。
絶対に、予想外な事件が起きそう」
プリムローズは朝から落ち着かないのか、学園に行く前の支度をしてくれるメリーが断言した。
「なるしかありませんよ。
何時に到着するかわかりません。
お嬢様は、真面目に学園でお勉強して下さいませ」
『ウッ!休んじゃおうかなぁって、思っていたのに気付かれたか…。
メリー、鋭すぎるぜ!』
後ろ髪を引かれつつ、エリアスを乗せて馬車は学園に向かった。
「エリアス、学園で変わったことはない?
誰かに見られているとか、不審な人物に後をつれられているとか?」
「今のところは、大丈夫ですよ。
悪い視線も感じられません。
学園から帰ったら、お嬢様のご家族にお会いできるんですね。
どんな方たちでしょうか?!
お嬢様に、似ていらっしゃるのですか?」
まるで、自分の家族にでも会うかのように楽しげに話しかけてくる。
「お祖母様とは同じ髪と瞳の色で、そのせいか似ていると皆様仰るわ。
おかげで祖母の祖国アルゴラでは、大事にされているのよ」
「前に伺ってましたが、アルゴラという国がお祖母様の祖国なんですね。
いつか、私もアルゴラやエテルネルにも行ってみたいな」
船の中しか知らなかった彼が、他国に行きたいと思わなかった。
笑顔でこんなにも瞳を輝かして、何もかも憂いがなくなったらエリアスをエテルネルに招待したい。
「エリアス、いつか行きましょうよ。
貴方にも、違う外国の景色を見せたいわ」
「はい、お嬢様!
だんだんと欲深くなりました。
自分で話していて驚きます」
彼女は照れ笑いする彼に、そんな事はない笑いかけた。
学園の少し途中でエリアスを馬車から降ろすと、外では馬に乗ったギルが彼を門に入る姿を見届ける。
馬車に乗りながら窓から、周りに不審な馬車や人が居ないかを確認する。
そろそろスクード公爵の屋敷に本物のエリアスが、滞在しているのに気付いてもいい頃なんだけどな。
今日、祖父母と約4ヶ月ぶりに会えるのね。
ヘイズ滞在中に、長寿の泉のお水をお二人に飲んで頂きたいわ。
しかし、何処にあるのかしら?
ピーちゃんが戻って来てるから、あの子が場所を探し当ててると思うんだけど…。
今日も学生の帰りに、無事エリアスをいつもの場所で馬車に乗せる。
「お嬢様、お屋敷から賑やかな声が聞こえてきます」
エリアスがそう話してから、ギルが馬に乗りながらプリムローズたちに話し出す。
「お嬢、親父様はヘイズ出身の子分たちも引き連れて来ましたぜ!
アイツラの声に、聞き覚えがあるあるだ」
ギルのバカ笑いを睨みつつ、彼女は馬上の人物に文句を言う。
「はぁ~、3人でも厄介なのに。
ギル、そのアイツラは何人ぐらいなのよ!」
彼女のこめかみに、青筋が立ちまくっていた。
「お嬢、そんな顔するとシワになりますぜ。
そうだなぁ、40人位?
50は居ないよな?
何せ毎年、親父さまの子分は増え続けているぞ」
「ギルに聞くのが無駄でした。
結局は会って数えないと、人数は分からないのね」
「そんなに、大勢の人が来るんですか。
まるで、お祭りみたいだ!」
エリアスは実に嬉しげに馬車の窓から顔を出して、近づいてくる公爵邸を見続けていた。
無邪気な彼を見ていて、そっとため息を吐き続けているプリムローズであった。
別に寝れればいいですよと彼女は、公爵に話したが屋敷の使用人たちはバタバタしていた。
なにせ祖父は先王の命の恩人で、祖母は大国アルゴラの元第一王女殿下である。
プリムローズは、使用人たちに準備を自ら指示する公爵夫妻を横目でチラリと眺めていた。
「お嬢様、本当にブライアン様はあのお方なのでしょうか?
実は、本物の方がひょっこり現れたりしませんか?」
「さぁね、とにかく足手まといはゴメンだわ。
お祖母様は、ご自分で身を守れるのかしら?
元王女様だし、護衛に任せていたのかもね」
プリムローズはいざとなれば、公爵夫人と二人で出席させた。
仮病をつかい、新年の王族主催のパーティーは参加せず屋敷に引きこもるつもりでいた。
「知りませんでしたか、大奥様は体術と剣はお強いですよ。
元王女だけあり、習ったお方は将軍だったそうですわ」
メリーの発言に、彼女は驚き口をポカーンと開ける。
「【能ある鷹は爪を隠す】だわ。
お祖母様は、一度もそんなお話をした覚えはないわよ」
「ヴィクトリア様は、ひけらかしたりしませんもの。
お嬢様は扇をへし折る腕力で、普通の人ではないとは気づきませんでしたか?!」
メリーは、チクリとプリムローズに嫌味を言ってみた。
「なるほど、そうだわ。
指をへし折る仕方も、お祖母様から教えて貰った。
よくよく考えたら、普通の王女様は知らないわよね」
二人は、考えが一致したのか頷き合っていた。
ヘイズは温暖な気候で、南国に近いカラッとした陽気のせいか汗もかかずに過ごしやすい。
エテルネルは四季がハッキリしていて、今の時期は雪が降る日もある。
「本当に今日なのよね。
こちらに到着する予定って…。
会えるのは喜ばしいが、不安しかないわ。
絶対に、予想外な事件が起きそう」
プリムローズは朝から落ち着かないのか、学園に行く前の支度をしてくれるメリーが断言した。
「なるしかありませんよ。
何時に到着するかわかりません。
お嬢様は、真面目に学園でお勉強して下さいませ」
『ウッ!休んじゃおうかなぁって、思っていたのに気付かれたか…。
メリー、鋭すぎるぜ!』
後ろ髪を引かれつつ、エリアスを乗せて馬車は学園に向かった。
「エリアス、学園で変わったことはない?
誰かに見られているとか、不審な人物に後をつれられているとか?」
「今のところは、大丈夫ですよ。
悪い視線も感じられません。
学園から帰ったら、お嬢様のご家族にお会いできるんですね。
どんな方たちでしょうか?!
お嬢様に、似ていらっしゃるのですか?」
まるで、自分の家族にでも会うかのように楽しげに話しかけてくる。
「お祖母様とは同じ髪と瞳の色で、そのせいか似ていると皆様仰るわ。
おかげで祖母の祖国アルゴラでは、大事にされているのよ」
「前に伺ってましたが、アルゴラという国がお祖母様の祖国なんですね。
いつか、私もアルゴラやエテルネルにも行ってみたいな」
船の中しか知らなかった彼が、他国に行きたいと思わなかった。
笑顔でこんなにも瞳を輝かして、何もかも憂いがなくなったらエリアスをエテルネルに招待したい。
「エリアス、いつか行きましょうよ。
貴方にも、違う外国の景色を見せたいわ」
「はい、お嬢様!
だんだんと欲深くなりました。
自分で話していて驚きます」
彼女は照れ笑いする彼に、そんな事はない笑いかけた。
学園の少し途中でエリアスを馬車から降ろすと、外では馬に乗ったギルが彼を門に入る姿を見届ける。
馬車に乗りながら窓から、周りに不審な馬車や人が居ないかを確認する。
そろそろスクード公爵の屋敷に本物のエリアスが、滞在しているのに気付いてもいい頃なんだけどな。
今日、祖父母と約4ヶ月ぶりに会えるのね。
ヘイズ滞在中に、長寿の泉のお水をお二人に飲んで頂きたいわ。
しかし、何処にあるのかしら?
ピーちゃんが戻って来てるから、あの子が場所を探し当ててると思うんだけど…。
今日も学生の帰りに、無事エリアスをいつもの場所で馬車に乗せる。
「お嬢様、お屋敷から賑やかな声が聞こえてきます」
エリアスがそう話してから、ギルが馬に乗りながらプリムローズたちに話し出す。
「お嬢、親父様はヘイズ出身の子分たちも引き連れて来ましたぜ!
アイツラの声に、聞き覚えがあるあるだ」
ギルのバカ笑いを睨みつつ、彼女は馬上の人物に文句を言う。
「はぁ~、3人でも厄介なのに。
ギル、そのアイツラは何人ぐらいなのよ!」
彼女のこめかみに、青筋が立ちまくっていた。
「お嬢、そんな顔するとシワになりますぜ。
そうだなぁ、40人位?
50は居ないよな?
何せ毎年、親父さまの子分は増え続けているぞ」
「ギルに聞くのが無駄でした。
結局は会って数えないと、人数は分からないのね」
「そんなに、大勢の人が来るんですか。
まるで、お祭りみたいだ!」
エリアスは実に嬉しげに馬車の窓から顔を出して、近づいてくる公爵邸を見続けていた。
無邪気な彼を見ていて、そっとため息を吐き続けているプリムローズであった。
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