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第3章  暗躍と毒女たちとの戦い

第23話 美辞麗句

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 公爵は時おり目を閉じて、当時に返ったように語りだした。
亡き先王には弟がいて2人兄弟、仲は悪くなく良い。

兄は人の顔色をうかがって、どことなく頼りない印象を与えているお方。
反対に弟は、ハキハキした明るく人懐ひとなつこく誰からも好かれる性格していたそうだ。

「その頼りない方の人が、祖父が助けた方でしたの?!」

プリムローズは、たまらず口をはさんでしまった。

「前王は弟殿下に比べられて、悩んでしまわれたのじゃあ。
悩むより、ひどく病んだと言っていい。
次期王は弟にと、書き置きされヘイズを出られてしまった。
その際に嵐にあって漂着ひょうちゃくしたのを、グレゴリー殿に助けられたのだ」

あぁー、どんでもない将軍の参謀さんぼうを無理やり引き受けさせられた戦いの時ね。

「そんな命の危険な経験された前王様は、見違えるように変わられたそうよ」

公爵夫妻は臣下なので、歯の浮くような【美辞麗句ひじれいく】を並べていた。

プリムローズは沈黙の間で祖父から聞かされていたため、その上辺だけの話を信じられないでいる。

「優秀で…、皆にしたわれた。
その弟君は、その後はどうされたのですか?
国を出た兄に、王様をすすめられたのでしょう」

普通は無事に帰国して良かったとは思っても、次期王の件は納得しないわよね。

「弟君は兄が王になるべきと仰ったそうで、父である王も心を入れ替えた息子を許した。
そして、王になられて亡くなるまで名君として君臨くんりんされた」
 
目に光るものを発見した彼女は、感極かんきわまる公爵を冷静に見ていた。

「弟君は兄を支えながら、国を収める手伝いをされたの。
ですが…。
お可哀そうに病にかかり、お若くしてお亡くなりになったわ」

良い方は、何故か長生きしないのよね。
私も気をつけなくては、プリムローズは心の中でつぶく。

「……そ、そんなことが。
前王様は、何故ご長男に継がせなかったのですか?!」

問題はここにあるのではと、プリムローズは判断する。

「賢く皆に好かれたお方でしたが、欲をかきすぎてしまいましたわ。
そのまま波風なみかぜをたてなければ、王になり玉座を約束された方なのにー。残念です…」

ニーナ様はため息じりに、私に返事を返した。

「ヘイズが海賊を雇い、商船が違法していないか取り締まっているのはごじか?!」

「はい、祖父がヘイズに留学したいと私が相談した際に伺いました」

「王太子として決まりかけた時に、息子に海賊を使い取り締まる役目を任された。
今思うと、王になる器量を試されたのだ。
そして、罪を犯した!」

公爵の話いわく、違法の取引を見逃す代わりにお金を要求したそうだ。
その商会をゆすり、耐えきれなくなった商会みずら訴えてきたという話だ。
何にその金を使ったかは言わないが、たぶん女性にみついだのだと公爵はあきれた表情でおっしゃった。

どこか似ている話で、我が国の現王の昔話を思い出す。
駄目な男って共通して、女性がからむのね。

私もよくよく、伴侶はんりょは考えないといけないわ。
先程から、自分に都合のいい考えしかしないプリムローズであった。

「その道を外された方は、その後はどうなりましたの?」

「前王がお怒りになり、臣下になりましたわ。
そうです、パーレン伯爵はそのお方です」

公爵夫人は、不快をあらわにして告白する。

プリムローズは、ありきたりすぎて詰まらないと思った。
まだ、本当の黒幕が居るのではないだろうか?!

パーレン伯爵やヴェント侯爵を裏で操っていて、彼らがもし失敗しても切って捨てられる方がいるのではないかと。

「お待ちになって!
以前、公爵は自分と同じ爵位の方が怪しいと言われた。
パーレン伯爵は、爵位は下ですわ。
もしかして、前王の弟君は爵位は公爵なのでは?!
そして、その方の息子が黒幕ではないでしょうか?!」

プリムローズの洞察力どうさつりょくと黒幕発言に、公爵は目を大きくした後に大笑いを始めた。

やはり、感じがどことなくお祖父様に似ていらっしゃるわ。
エテルネルの祖父母は、元気にお暮らしになっていらっしゃるかしら?!
そんなことを考えていたら、公爵が真顔になって言ってきた。

迂闊うかつしゃべってしまったが、覚えておったのか。
この国には、儂ともう一人の公爵がいる。
先王の若くして亡くなられた弟には、一人息子がおりましてな。
名は、ヤン・ベルナドッテ公爵と申す」

スクード公爵は、私に教えたくなかったのか渋い顔をされた。
ヤンという名に聞き覚えがあった、ひょっとしたらと思うが…。
そんな偶然はないだろう。

「変なこじつけですが、執事長だったヤンネはベルナドッテ公爵の関係筋なのでしょうか?」

ヤンネは執事長らしくなく、目つきが鋭かった。
冷酷さをまとっていた。私は好きではなかったから、偏見でそう感じたのかもしれない。

「アハハ、お手上げだ!
ご令嬢、貴女は鋭すぎる。
気を付けなさい。
全ての人が、その力を歓迎する者とは限らない。
邪魔に感じる者もいる事を、忘れないように」

プリムローズは、おもわず背筋をピーンと伸ばした。 
確かに、スクード公爵は味方だ。
もし、この方が敵ならどうなっていただろうか。

「スクード公爵様…、答えはいりませんわ」

今の話で私は判断した。
ヤンネは、ベルナドッテ公爵の血を引いている。
しかし、認められない立場なのだろう。
それは私の憶測おくせくに過ぎない。
この考えは、間違えてる可能性もある。

これからベルナドッテ公爵はどう動くのか。
彼は玉座が欲しいのか。
それとも、息子を王位につけたいのか。

「ベルナドッテは、王宮にネズミを放ったようだ。
エリアス様の身代わりに、害を与える素振りをみせた」

「食事に毒でも入れましたか」

公爵夫人は黙って聞いていたが、私たちの会話に顔色を青くされていた。

「物騒な話で、奥方様が倒れかかっていますぞ。
イーダは奥様を連れて、部屋を下がらせて貰います。
坊っちゃん、いいですね」

「私も部屋に帰りますわ。
知りすぎても、先はどうなるか予想はつきません。
ヤンネのその後も、お話になりたくなったらお聞かせ下さい。
では、失礼を致します」

イーダがニーナ様を支える様にして部屋を出る後ろに、私もついて行くことにした。

今日は驚く話ばかりで疲れたプリムローズは、自分の部屋を目指しながら歩くのだった。
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