上 下
46 / 142
第3章  暗躍と毒女たちとの戦い

第13話 他人の空似

しおりを挟む
 追憶ついおくの間かと心の中でつぶいては、よいお名前の部屋よねと思ってあれを思い出す。

それに比べたら我がクラレンス家の沈黙の間もとい、お笑いの間は…。
あれはあれで、役には立っている。

「これが、送られてきた肖像画ですよ。
薔薇を見て微笑まれているとは、お花が大好きなんですのね」

王妃はやはり女の子は、美しい花が好きなのねとプリムローズを可愛らしく感じる。

「我がクラレンス家の庭の薔薇は、それはそれは宝石に例えられる程に見事ですのよ」

『本当のことを言えないわよ。
お菓子を食べて、笑っている姿を描かれたとは。
よくもまぁ、嘘をここまで描けるわよね。
私と薔薇を別々に描いて一緒にするとは、この画家は腕がいいわ。
絵画は、画家の創作物も入っていますものね』

残念なことにもう少し、私の気品をにじませて描いてほしかったわ!
無理難題むりなんだいを胸中でつぶやく、わがままなご令嬢であった。

「懐かしいぞ。
近頃は、追憶の間に来なかったからな。
コチラが父上で、隣の絵は弟だ」

王は目を細めて、寂しげに愛おしいそうに絵を眺めていた。

プリムローズはその絵を見て、口からポロリと名前が出てしまった。

「あっ、エリアス!?」

その名に即座そくざに反応したのは、ヘイズ王でその人であった。

「何故…、何故にー。
そなたは、その名を知っているのだ?
そ、それはー。
弟の子の名であるぞぉ?!」

興奮した王は、プリムローズの肩を乱暴につかんだ。

「いっ、痛いー!」

その力強く握られた小さな肩に、痛みと驚きを感じた。

「おぉ、すまぬ!許せ…。
それで、なぜその名を知っているのだ!
お願いだ!
どうしてか教えてくれぬか!」

必死に驚きあせりながらヘイズ王は、プリムローズに頼んでくる。

『こんなにも突然、態度を変えて…。
10年間の長きに捜索したが、結局見つからなかった。
このご様子だと、ヘイズ王もエリアスをめていたのかもしれない』

私はゆっくりと出会ってから、今までの彼を話して聞かせた。

「そんな目に合っていたとは。
もし令嬢がその者を救ってくれなければ、命もあやぶれていたのかもしれん。
この通り、礼を申すぞ!」

「私の話すエリアスが、絶対に同じ人物とは限りません。
ただ、肖像画を見た限り可能性はあります」

プリムローズは、慎重になっていた。
1番良いのは、ヘイズ王にエリアスを見て判断してくれたらと思うが難しいかしら?

「なるほど、【他人の空似そらに】か。
確かに、ぬか喜びはいかんな」

王が考え込むと、王妃が助言を与えた。

「他人でも、偶然に似た者もおりましょう。
会えば分かるかもしれません。
陛下、その子供にお会いましょう!
ご令嬢、王宮へ連れて来て貰えぬか?!」

「王妃様、それは危険です!
何故なら、ネズミがこうして私たちが会っている事を知っているからです。
もしかしたら、自分たちが気づかれてるかもしれない。
ネズミを、使っている方の目星はついてますか?」

この方たちは何を考えてるのか、さっぱり分からなかった。
味方なのに、所詮しょせんは他国の人間と軽んじてるのだろうか?
それとも、子供で女だからか。

「ご令嬢はどなたか、わかりますかなぁ?!」

スクード公爵が少し目つき鋭く、私に話しかける。

「さぁ、私はヘイズに来てから3ヶ月もちませんのよ!
色々起こりまして、長くいるような錯覚はしますけどー」

彼女は、スクード公爵に不信を持ち始めていた。
まさか、この方がネズミの頭ではないでしょうね?!
のらりくらりで、腹の中が読めないわ。

「スクード公爵は、どなただと思いますか?
王宮だって、間者かんじゃひそんでましたのでしょう?
それほどの力がある方なら、予想してしぼれますわよね?!」

プリムローズも、公爵に負けない眼力を返した。
戦の神の孫である私を、めないで頂きたいものですわ。

わしと同じ地位を持ち、王族の血を引くもの。
王よ、これは血を見ないとならなくなるやも……。
謀反むほんを許すことは出来ませんぞー!!」

今度は主君である、ヘイズ王に厳しい目を向けた。

『あ~っ、こんな時にお祖父様が側に居てくれたらなぁ~!
きっと、ビシバシとやっつけて下さるのにー』

「長年の、積もり積もった膿が出てしまったな。
ヘイズ国はこの鎖国さこく状態から、開国しないといけない時期に入ったのやもしれない。
きっと、新しき風がヘイズに必要な時なのだ!」

話をする先には、プリムローズが居て王と公爵の目線が重なった。

私は関係ないし、ヘイズの国民でもないわよ。
どうしていつも、厄介事がついて回るの。

「お言葉を宜しいですか?
へーディン侯爵は、信じるに値しますか?!
エリアスと会う場所に、へーディン侯爵家をお使いになされませ。
ライラ様とヴェント侯爵令嬢の学園での言い争いを、うまく利用するのです」

最初はプリムローズの話の意味が、分からない4人であった。

「私から学園の話を訊いて、王妃さまが同情し元気づけたいと言い出して王さまも賛同した。そこに、スクード公爵と私も訪れるのです。
私も事件には関わっておりますわ。
そこに供として、エリアスを連れて行くのです!」

「それは良い考えだ!
話を聞くかぎり、不自然ではない。
これなら、相手も気づかないだろう!
ご令嬢は凄腕の策士さくしになりそうだ」

ヘイズ王は、彼女の奇策きさくに驚くのであった。

王妃とスクード公爵夫人も、この小さき令嬢の賢さに感心した。
それと同じくらいに、この機転に恐ろしさも感じる。

王と王妃は、へーディン侯爵のライラ嬢に会うために先触さきぶれの日程を組むことにした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

完結・私と王太子の婚約を知った元婚約者が王太子との婚約発表前日にやって来て『俺の気を引きたいのは分かるがやりすぎだ!』と復縁を迫ってきた

まほりろ
恋愛
元婚約者は男爵令嬢のフリーダ・ザックスと浮気をしていた。 その上、 「お前がフリーダをいじめているのは分かっている! お前が俺に惚れているのは分かるが、いくら俺に相手にされないからといって、か弱いフリーダをいじめるなんて最低だ! お前のような非道な女との婚約は破棄する!」 私に冤罪をかけ、私との婚約を破棄すると言ってきた。 両家での話し合いの結果、「婚約破棄」ではなく双方合意のもとでの「婚約解消」という形になった。 それから半年後、私は幼馴染の王太子と再会し恋に落ちた。 私と王太子の婚約を世間に公表する前日、元婚約者が我が家に押しかけて来て、 「俺の気を引きたいのは分かるがこれはやりすぎだ!」 「俺は充分嫉妬したぞ。もういいだろう? 愛人ではなく正妻にしてやるから俺のところに戻ってこい!」 と言って復縁を迫ってきた。 この身の程をわきまえない勘違いナルシストを、どうやって黙らせようかしら? ※ざまぁ有り ※ハッピーエンド ※他サイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで、日間総合3位になった作品です。 小説家になろう版のタイトルとは、少し違います。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...