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第3章  暗躍と毒女たちとの戦い

第4話 君子危うきに近寄らず

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 寝起きから何やら胸騒むなさわぎして、今日は学園に行きたくない。
全くと言ってよいほど、全然気分がのらないのである。
気分で行かないわけには行かないので、プリムローズは不機嫌ふきげんそうな態度していた。

「お嬢様、どうされたのですか?
お顔がドス黒くなっています。
失礼しました。
間違えてしまいましたわ。
暗くなっておられます」

メリーの言い間違いで、顔が本当にまた一段とドス黒くなってしまった瞬間である。

「夢見が悪かったんだけど、内容をよくは覚えてないの。
今日は、合同教室の日でね。
それも、ヴェント侯爵令嬢がいる鈴蘭すずらん組と一緒に刺繍ししゅうをする予定なのよ」

正夢みたいな夢を見たが、最悪なことに内容をきれいサッパリ忘れている。
目を覚ました後に、ひたいに汗をにじんでいたのだ。
いやな気分が残っている。
思い出そうと努力をしたが、どうしても無理だった。

補足ほそくするが、プリムローズの組は優秀な薔薇ばら組である。

その次は、百合ゆり組で最後が鈴蘭組。

鈴蘭組の愛称は、毒組である。
あの可憐かれんな鈴蘭には、花と根に有毒ゆうどくがある。
体に取り込むと、嘔吐おうとや下手したら天国にされる場合もある。

何で花の名にしたか、単純に可愛いとの声で決まったそうだ。

プリムローズは花の名前は、バカっぽいとメリーに文句を言っていた。

「お嬢様でしたら…。
覚えてないのは、たいした事でないからでは?
君子危くんしあやうきに近寄ちかよらず】を実行なさいませ。
そのご令嬢の側に、近寄らず無視すればいいのですよ」

「ほうほう、なるほど!
君子危うきに近寄らずか。
ありがとう、メリー。
今日はそれで、なんとかやり過ごしてみるわ」

メリーはその助言に後悔して、落ち込むとはこの時は思わなかった。

予想は当たり、毎回厄介やっかいことが起きる。
しかし何故か、この主従はキチンと対処を出来ない。

教えて下さっている、空の上にいる神様も。
あきれて果てて、下界げかいのぞいて見ているはず。

 
 プリムローズとライラは、二人で静かに時が過ぎるのを待っていた。
ヴェント侯爵令嬢サンドラは、学園では良い噂を聞かない。

鈴蘭組の毒女と呼ばれている。
実際に16歳になるのに、婚約者がいない。
自分と同じ身分か上でないと、嫌だと駄々をこねて現在相手探しをしている。

そんなお相手は、ライラの婚約者オスモ様ぐらいしかいない訳だ。
人のものを欲しがり、ねらうとは姑息こそくだ!
そんなサンドラに嫌悪感けんおかんしか感じなかった。

 
 裁縫さいほう専用の教室に入るとクラスメートたちが、二人の側に来て話しかけ始める。

「お二人とも、毒女様から離れた方がよろしいわ」

「ライラ様は、とくにスクード公爵の嫡男オスモ様と婚約されてますしね」

クラスメートたちが、サンドラ嬢たちから私たちを引き離してくれた。

「はい、皆さん静かにー!
今日は、各クラスの名前の花を刺繍します!
手元に裁縫道具はありますか?怪我けがに気をつけて、慎重に作業して下さいね」

先生がそう注意してから、静かに生徒たちは刺繍を始める。

「よかったですね。
彼女たちとは、関わり合いがなく終わりそうですわ」

ライラ様がそう話しながら、赤い薔薇を刺繍し始めていた。

私は、ピンクに白を混ぜた薔薇にした。

『どうやら、私のとり越し苦労みたいね』

静かな教室に、ヒソヒソ話が微かに聞こえてきた。

「うまく出来ませんわ。
ずるくはありません。
鈴蘭は1番難しいわ。
薔薇の方が、簡単でいいわよね」

薔薇組の生徒たちは、手を止めて声のする方を見た。

「サンドラ様の仰る通りね。
鈴蘭はたくさん何個も、ちまちま花を刺繍しなくてはなりませんわ」

「薔薇は1つでもいいんですもの。
これでは不公平です」

取り巻きの令嬢たちも、文句を言い出してきた。

「こらっ!無駄口むだぐちを話さないで、お静かになさい。
あなた方は文句をばかり言っていますが、何処まで出来上がっているのかしら?!」

先生は椅子から立ち上がると、サンドラ嬢たちの側に行く。

「あらあら、全然進んでないじゃない。
それに、これはー」

先生のにごす言葉に、鈴蘭の出来映えがわかる。

「先生!
私は薔薇がいいです!
好きなものを刺した方が、やる気も出ますわ」

サンドラは我儘わがままを言い出すのを、遠くから見ていたライラが小さな声でプリムローズに言った。

「薔薇に変えても、ちゃんと出来るのかしらね?
今度は、百合がよかったと言うのでは?!」

プリムローズが聞いて静かに笑うと、周りもられて笑いだした。

笑い声が、耳に聞こえたのだろう。

毒女ことサンドラは、先生が横に居るのにもかかわらず立ち上がって大声を出した。

「赤毛の魔女がー!
いま、私の悪口を言いましたわねっ!」

静まり返る教室に響く、毒女サンドラの声に先生が注意する。

「ヴェント嬢!!
もういい加減になさい!
淑女しゅくじょを目指す令嬢が、なんとはしたない言葉をー」

「でも先生!
あの笑い声は、私の事でしょう?!
きっと、侮辱的ぶじょくてきな話をしたんです」

プリムローズは、サンドラは鋭いと感心する。
しかし、先生に反論は頂けないわと冷静に見ていた。 

「まぁ確かに、笑ってはいけませんよ。
分かりました!
今回は、好きな方で刺繍してもいいですよ。
しかし、もうこれ以上は我儘を聞きません。
さぁ、早く始めなさい」

先生がそう命じると、また教室に静けさが戻るのである。

たが、その時間は貴重な時間であったのだ。
授業の終わりに、信じられない惨事さんじが起こる。

それは、あのプリムローズが絶叫ぜっきょうするほどであった。
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