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第2章  新天地にて

第10話 恋に上下の隔てなし

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 スクード公爵家の庭園には、夏の季節の白い薔薇ばらが美しく咲いていた。
何代か前の祖先が大恋愛だったそうで、二人が相思相愛そうしそうあいの花言葉を気に入り植えたと教えて下さいましたわ。
その近くにテーブルを置き、5人でお話をする予定である。

メイドのメリーが選んだ数着のドレスから、クリーム色のドレスに決めた。
胸元にピンクの薔薇飾りが付いてあり。
半袖のふくらんだ袖下にも、絞ったリボンと胸元よりも小さな同じ色の薔薇が両袖にもさり気なく付いていた。

この白薔薇の中にピンクの薔薇を一輪咲いた感じにしたら、素敵ですわぁーと大きな声を出して叫び。
荷物の山から、力付くで引っ張り出したドレスたちだった。

あんなたくさん荷物をほどいて、探すのは苦労したのではと思う。
毎回ドレスの事になると、目の色が変わる彼女の執念に時に恐ろしく感じる。

「やはり、私の想像した通りよくお似合いです。
お嬢様はこの国ではまだ本性が知られてませんから、おしとやかになさって下さいませね」

『本性とは、いったいどういう意味よ!
私は、いつも礼儀正しいですわ。
へんな方々が寄ってきたり、喧嘩けんかを仕掛けるから受けているだけですわよ!』

文句を言うと倍で返されてもと、心の内で言いたいことを吐き出していた。

「ゴホン、メリー分かったわ。
エテルネルの自分の行いは、ちょっと反省してました。
なるべく静かにします」 

主人であるプリムローズの素直さに、不気味に思うが沈黙した。

 公爵一家とプリムローズの顔見せのお茶会が、和やかに開かれる。

歳が幼いのに完璧なカーテシーは、大陸1の大国アルゴラの元王女殿下の祖母からの仕込みである。

これをやられたら、後から返礼するのはキツいだろう。
口は大人しくしていたが、態度や礼儀は嫌味っぽくなってしまった。
所詮しょせん無駄むだな悪がきである事を、忠告したメリーは知らなかった。

「では、今度は剣の手合わせでもお願をいしよう。
どんな剣術するのか楽しみです」

公爵の一人息子のオスモ様がプリムローズに朗らかに仰ってくれた。
お父様の公爵様が少年の頃は、きっとこんな風貌ふうぼうでしたのねというほど似ていらっしゃった。

「旅で剣を振っていないので、オスモ様との手合わせまでに体を慣らしておきますわ」

「プリムローズ様は、勇敢ですのね。
剣術はとても無理ですわ。
宜しかったら刺繍ししゅうを刺しながらでも、祖国エテルネル国のお話を聞かせて下さいませね」

このお方が、養女のイングリッド様。

薄茶の髪に深い緑色の瞳を持ち、おしとやかな淑女しゅくじょに見える。

「イングリッド、嫁ぎ先では大事にされとるのか?!
何かあれば、遠慮せずに言うのじゃぞ」

スクード公爵は心配そうに、娘を気遣っていた。

「そうですよ。
貴女には、もっと上の方の縁談もあったのに」

公爵夫人もお相手の身分が低いのを気に入らないのか、娘に残念そうに話す。

「お父様、お母様。
私は、伯爵家で大切にされてますわ。
それに彼は誠実なお人柄ですのよ。
【恋に上下のへだてなし】、恋とは愛とはそんなもんですわ」

イングリッド様は、ご主人である方を愛してますのね。
本当に清らかな想いですわ。

「恋愛は人間の本性に根ざしたものであるから、身分や地位の上下による区別は全く関係はないという意味ですよね。
イングリッド様」

プリムローズが目をキラキラさせて、彼女の顔を見て言うのだった。

「【恋路に王位とても隔てなし】って、同じ意味の言葉もありますよ。
父上や母上も、身分に拘らなくてもいいでありませんか?
姉上が幸せなら、それが1番ですよ」

彼も姉上様の婚姻こんいんを後押してましたのね。
血の繋がらなくても、きずなを感じとれますわ。

公爵夫妻は、私たちの話に自らの考えを改めたみたい。

「すまんのう。
新婚夫婦の間に、いちゃもん付けてしまったのう。
いい年して悪かった」  

「身分や家にこだわって、嫌なことを言ってしまったわね。
今度は、旦那様も連れて来なさいな」

どうやら、わだかまりが溶けたようですわ。

「私にも、恋のご指南しなんをして下さいませんか?
思ったような殿方と、出会いがありませんの?!」

プリムローズはエテルネルにいた時に、出会った方々を思い出して首をひねる。

「【恋に師匠ししょなし】とお言葉がございます。
人に教えなくても、時がくれば誰もが自然に覚えてしまうものですわよ。
プリムローズ様、ウフフ」

イングリッド様の仰るのは一理あると思った。

「そうだ!
プリムローズ嬢、学園では私の婚約者が貴女様のお世話するよう頼んだ。
名前はライラ・へーディン侯爵令嬢と申します。
仲良くしてくれたら嬉しい」

「お気遣いに感謝します。
ヘーディン侯爵令嬢にお会いできるのが、今から楽しみですわ」

喜び公爵令息に礼を述べるプリムローズは、紹介される令嬢の争いに巻き込まれる事になるとはこの時は考えもしなかった。

彼女のヘイズでの波乱の学園生活は、もうじき始まろうとしていた。
    
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