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第2章  新天地にて

第5話 弧掌難鳴

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 ヘイズの都ヴァロに向かう為に、プリムローズたちは明日アウローラから旅立つ。
エリアスはお勉強中で、メリーは荷造りのお手伝い。
私は邪魔なようで、独りで大人しくしてあげている。

そんな彼女は白い鷹と、木の上で語り合っていた。

「ピーちゃん、話を聞いて欲しいの。
これ、誰にも秘密よ。
だって、ピーちゃんなら人にしゃべる事はないし安心でしょう?!」

「ピッ、ピッ、ピィー!」

分かっているのか。
どうかは知らんが、鳴く白いたかは羽をバタつかせる。

その鳴き声を無視して、どんどん勝手に独りで話し出す迷惑な飼いぬしプリムローズ。

「そう……、あれはー……。
私が10歳の誕生日を、祖母のアルゴラで祝うために訪れた日の事よ」

一応は尋ねられても結局は聞かされるしかないと、彼女を大好きな鷹は鳴くのをやめている。
ペラペラ話し出し、彼女の昔話が始まった。

    
 時はさかのぼる、約1年前のお話。

「プリムちゃん、お願いがあるの?
お話を聞いてくれる?
頼みを聞いてくれるわよね?」

大国のアルゴラ王妃様が、朝っぱらからプリムローズに何やらお願いがあるようだ。
この王妃の頼み方の上手さには、毎回感心させられずを得なかった。

「……、何をですか?
私が出来る事なんですか?!」

ビクビクして聞き出すが、内心は嫌がって態度は外へ丸出しになっていた。

「あのね、また神殿にちょっと行ってくれない?
豊作、大豊作って祈って欲しいのよ。
お願い、プ・リ・ムちゃん!」

「げぇ~、またあの長ったらしい呪文をとなえるのですか?!
いつも書いてある紙を読み上げると、大神官様がイヤそうににらみますのよ」

大神官は神の神聖な祈りを紙見て読み上げるなぁと、彼女を威嚇いかくするのである。

プリムローズがぶつくさ文句を言い、大国の王妃様にブーれていた。

「んまぁ、なんと無礼な!
そんな事をー、プリムちゃんに対して許すまじ!
キツくキツ~くっ、大神官をしかります。
なんと、恥知らずな!
アルゴラではロイヤル・ゴッド・アイの持ち主は、王より尊いのにねぇ~!!」

その王妃の言葉に気を良くしたようで、しょうがないなとクズって渋ってはお祈りすることになった。

 どうも、王妃様が激怒して大神官を呼びつけたらしい。
この国は、国王より王妃に権限けんげんがあるようだ。


    神殿の前に馬車で乗り付けると、大神官を筆頭に神官たちがプリムローズに深々と頭を下げる。

「お久しぶりでございます。
プリムローズ様、わざわざ我が国の為に有り難うございます」

「国が安泰あんたいなのは、ひとえにプリムローズ様のおかげにございます」

「毎回、ご足労そくろうお掛けします。
何卒なにとぞ、ここは宜しく願います!」

満足げに微笑むと、大神官や出迎えの者たちに嫌みを言うのをけして忘れない。

「あーらっ、毎回ごめんなさいね~~!
まだ、神様への祈りの御挨拶を覚えてないの。
大神官さま、それでも神は慈悲深いからお許し下さるわよね」

「それは、もう当たり前です!
プリムローズ様は、このアルゴラでは神に等しきお方です。
今年も、どうぞ良しなに願います」

プリムローズは偉そうに、大神官や他の神官たちに高笑いするのだった。

「オーッホホホー、そうよね!
私が祈ると何故か、毎年必ず大豊作ですもの」

ひたすら下を向き神官たちは耐え忍ぶ。
彼らは、この高笑いを聞くしかないのだった。

    
    現在いる神殿の最奥は、大神官とロイヤル・ゴッド・アイの継承者のみが入れる神聖な場所である。

彼女はいつもこの場に来ると、胡散臭うさんくさいと思うのだ。
だいたい、神は本当にいるのか?!
誰一人、神を見た者はいないのではないか?

「大神官さま、神は存在しますの?
私が唱える呪文は、誰が考えたの?
べつに大神官さまの仕事に、ケチつけるつもりはなくってよ。
こんな私が神に願って、かなえてくれるものかしら?」

「私も神に会ったことはありませんが、感じようと努力してます。
信じる信じないは、その人しだい。
すがる気持ちの代弁者が、神なのではないでしょうか!?」

奥深い話であると考えていたら、大神官が真面目な顔で話を続けてくる。

「プリムローズ様に謝らなくてはなりません。
本当は、貴女様しか見てはいけない手紙を読んでしまったのです」

話しいわく、ロイヤル・ゴッド・アイの瞳を持つ2番目の方は常勝王と呼ばれたお方。
大の戦好きで、領土を広げることを生き甲斐がいにしたそうである。
その方が、大陸に飽きてヘイズの島に侵略を決めた。

「随分とまぁ。
行動力のお持ちの王様でしたのね」

自分の血に、その方の血が流れているとは…。

「はぁ~、どうも島に住んでいる者たちの抵抗が凄まじく。
苦戦されたと書かれてました」

「そりゃもちろん、そうよ!
私でもその国の者なら、必死に抵抗するわ」

とうとう現地で体調を崩した王は、侵略を諦めるまでになった。
唯一、常勝王に土をつけたのがヘイズだそうだ。

「体調の悪くなった王は、ヘイズに住む一人のおさに謝り兵を退く約束しました。
長はそんな王のいさぎよさに、感銘かんめいを受けました」

何が感銘だよ、余計な出兵して負けただけじゃん!
大神官の話に、胸中で悪たれを言っていた。

「ここからが本題なのよ!
ピーちゃん!なんと、ヘイズには不思議な泉があるらしいの!
その泉の水を飲むと、命が延びるらしいのよー!!」

常勝王はその泉の水を飲み、普通ではあり得ない長寿を全うした。

「ピィ~?」と、それは本当にみたいな鳴き声を出すのである。

「そうよね、信じられないよね!でもね、ピーちゃん!
私は、お祖父様やおばあ様に長生きして欲しいの!
勿論、ピーちゃんもよ!」

「ピッ、ピッピーィ~!」

嬉しそうに鳴く白い鷹に、プリムローズは頭をヨシヨシとでた。

「どうも手紙を読むと、山の中の洞窟どうくつにあるらしいわ。
目印にアルゴラの常勝王の剣が、泉の側に突き刺さってると書かれたわ」

そう話していたら、ピーちゃんは突然夕陽に向かい飛び去ってしまった。

「ちょっと、まさかあの子!
ピーちゃんは、泉を探しに行ってしまったの?!」

プリムローズは【孤掌難鳴こしょうなんめい】の気持ちだったが、ピーちゃんが助けてくれる気がしていた。

「何かを成そうとしても、一人ではどうすることもできないか…。
私もヴァロに着いたら、地図でも手に入れて近くの山にでも行ってみるか!」

ピーちゃんと共に、その不思議な泉を探すのだった。

目の前に広がる景色は、夕暮れで輝く湖は黄金の様に光り輝く。
彼女の瞳に、まぶしくキラキラと写るのであった。
     
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