上 下
24 / 142
第2章  新天地にて

第5話 弧掌難鳴

しおりを挟む
 ヘイズの都ヴァロに向かう為に、プリムローズたちは明日アウローラから旅立つ。
エリアスはお勉強中で、メリーは荷造りのお手伝い。
私は邪魔なようで、独りで大人しくしてあげている。

そんな彼女は白い鷹と、木の上で語り合っていた。

「ピーちゃん、話を聞いて欲しいの。
これ、誰にも秘密よ。
だって、ピーちゃんなら人にしゃべる事はないし安心でしょう?!」

「ピッ、ピッ、ピィー!」

分かっているのか。
どうかは知らんが、鳴く白いたかは羽をバタつかせる。

その鳴き声を無視して、どんどん勝手に独りで話し出す迷惑な飼いぬしプリムローズ。

「そう……、あれはー……。
私が10歳の誕生日を、祖母のアルゴラで祝うために訪れた日の事よ」

一応は尋ねられても結局は聞かされるしかないと、彼女を大好きな鷹は鳴くのをやめている。
ペラペラ話し出し、彼女の昔話が始まった。

    
 時はさかのぼる、約1年前のお話。

「プリムちゃん、お願いがあるの?
お話を聞いてくれる?
頼みを聞いてくれるわよね?」

大国のアルゴラ王妃様が、朝っぱらからプリムローズに何やらお願いがあるようだ。
この王妃の頼み方の上手さには、毎回感心させられずを得なかった。

「……、何をですか?
私が出来る事なんですか?!」

ビクビクして聞き出すが、内心は嫌がって態度は外へ丸出しになっていた。

「あのね、また神殿にちょっと行ってくれない?
豊作、大豊作って祈って欲しいのよ。
お願い、プ・リ・ムちゃん!」

「げぇ~、またあの長ったらしい呪文をとなえるのですか?!
いつも書いてある紙を読み上げると、大神官様がイヤそうににらみますのよ」

大神官は神の神聖な祈りを紙見て読み上げるなぁと、彼女を威嚇いかくするのである。

プリムローズがぶつくさ文句を言い、大国の王妃様にブーれていた。

「んまぁ、なんと無礼な!
そんな事をー、プリムちゃんに対して許すまじ!
キツくキツ~くっ、大神官をしかります。
なんと、恥知らずな!
アルゴラではロイヤル・ゴッド・アイの持ち主は、王より尊いのにねぇ~!!」

その王妃の言葉に気を良くしたようで、しょうがないなとクズって渋ってはお祈りすることになった。

 どうも、王妃様が激怒して大神官を呼びつけたらしい。
この国は、国王より王妃に権限けんげんがあるようだ。


    神殿の前に馬車で乗り付けると、大神官を筆頭に神官たちがプリムローズに深々と頭を下げる。

「お久しぶりでございます。
プリムローズ様、わざわざ我が国の為に有り難うございます」

「国が安泰あんたいなのは、ひとえにプリムローズ様のおかげにございます」

「毎回、ご足労そくろうお掛けします。
何卒なにとぞ、ここは宜しく願います!」

満足げに微笑むと、大神官や出迎えの者たちに嫌みを言うのをけして忘れない。

「あーらっ、毎回ごめんなさいね~~!
まだ、神様への祈りの御挨拶を覚えてないの。
大神官さま、それでも神は慈悲深いからお許し下さるわよね」

「それは、もう当たり前です!
プリムローズ様は、このアルゴラでは神に等しきお方です。
今年も、どうぞ良しなに願います」

プリムローズは偉そうに、大神官や他の神官たちに高笑いするのだった。

「オーッホホホー、そうよね!
私が祈ると何故か、毎年必ず大豊作ですもの」

ひたすら下を向き神官たちは耐え忍ぶ。
彼らは、この高笑いを聞くしかないのだった。

    
    現在いる神殿の最奥は、大神官とロイヤル・ゴッド・アイの継承者のみが入れる神聖な場所である。

彼女はいつもこの場に来ると、胡散臭うさんくさいと思うのだ。
だいたい、神は本当にいるのか?!
誰一人、神を見た者はいないのではないか?

「大神官さま、神は存在しますの?
私が唱える呪文は、誰が考えたの?
べつに大神官さまの仕事に、ケチつけるつもりはなくってよ。
こんな私が神に願って、かなえてくれるものかしら?」

「私も神に会ったことはありませんが、感じようと努力してます。
信じる信じないは、その人しだい。
すがる気持ちの代弁者が、神なのではないでしょうか!?」

奥深い話であると考えていたら、大神官が真面目な顔で話を続けてくる。

「プリムローズ様に謝らなくてはなりません。
本当は、貴女様しか見てはいけない手紙を読んでしまったのです」

話しいわく、ロイヤル・ゴッド・アイの瞳を持つ2番目の方は常勝王と呼ばれたお方。
大の戦好きで、領土を広げることを生き甲斐がいにしたそうである。
その方が、大陸に飽きてヘイズの島に侵略を決めた。

「随分とまぁ。
行動力のお持ちの王様でしたのね」

自分の血に、その方の血が流れているとは…。

「はぁ~、どうも島に住んでいる者たちの抵抗が凄まじく。
苦戦されたと書かれてました」

「そりゃもちろん、そうよ!
私でもその国の者なら、必死に抵抗するわ」

とうとう現地で体調を崩した王は、侵略を諦めるまでになった。
唯一、常勝王に土をつけたのがヘイズだそうだ。

「体調の悪くなった王は、ヘイズに住む一人のおさに謝り兵を退く約束しました。
長はそんな王のいさぎよさに、感銘かんめいを受けました」

何が感銘だよ、余計な出兵して負けただけじゃん!
大神官の話に、胸中で悪たれを言っていた。

「ここからが本題なのよ!
ピーちゃん!なんと、ヘイズには不思議な泉があるらしいの!
その泉の水を飲むと、命が延びるらしいのよー!!」

常勝王はその泉の水を飲み、普通ではあり得ない長寿を全うした。

「ピィ~?」と、それは本当にみたいな鳴き声を出すのである。

「そうよね、信じられないよね!でもね、ピーちゃん!
私は、お祖父様やおばあ様に長生きして欲しいの!
勿論、ピーちゃんもよ!」

「ピッ、ピッピーィ~!」

嬉しそうに鳴く白い鷹に、プリムローズは頭をヨシヨシとでた。

「どうも手紙を読むと、山の中の洞窟どうくつにあるらしいわ。
目印にアルゴラの常勝王の剣が、泉の側に突き刺さってると書かれたわ」

そう話していたら、ピーちゃんは突然夕陽に向かい飛び去ってしまった。

「ちょっと、まさかあの子!
ピーちゃんは、泉を探しに行ってしまったの?!」

プリムローズは【孤掌難鳴こしょうなんめい】の気持ちだったが、ピーちゃんが助けてくれる気がしていた。

「何かを成そうとしても、一人ではどうすることもできないか…。
私もヴァロに着いたら、地図でも手に入れて近くの山にでも行ってみるか!」

ピーちゃんと共に、その不思議な泉を探すのだった。

目の前に広がる景色は、夕暮れで輝く湖は黄金の様に光り輝く。
彼女の瞳に、まぶしくキラキラと写るのであった。
     
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

毒家族から逃亡、のち側妃

チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」 十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。 まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。 夢は自分で叶えなきゃ。 ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...