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第1章  奇跡の巡り合わせ

第13話 山あり谷あり

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  船旅から4日目、明日の昼にはヘイズに到着する。
エリアスもまだまだ痩せ細っているが、顔色は少しだけ良くなり表情も明るくなった。

「やっと、ヘイズに着きますね。
そこから東の将軍のお屋敷まで、馬車で3日もかかるのか。はぁ~、ながい…」

お昼のサンドイッチを片手で持ち、口の中の物を食べ終えてから話し始める。

「お嬢、東で良かったですぜ。
東側寄りの中心に、王都ヴァロがある。
お嬢の通う学園も、其処そこにあるんだよ」

「島と話してましたが、結構な広さがあるのですね。
エテルネルより、少しだけ小さい位ですもの」

メリーはヘイズの大きさを、商人タルモから聞かされ驚くのであった。

「他の国では、ヘイズは秘密に包まれてますからな」

タルモが話に加わってきて、プリムローズは彼に質問する。

「タルモ殿、?東まで直接この船で行けないんですか?
そっちの方が早く到着するんではなくて」

プリムローズは、また始まる馬車の旅にウンザリだった。

「何故?東に首都があるかを考えれば、簡単にわかりますよ」

こじらすが上手いタルモに、イラつき考えてみた。

「波が荒いのかしら?
港が作れない土地?
ああ、まったく分からないわ~!」

「プ、プっ。
笑ってすみません、お嬢様。
正解に、ほぼ近いです」

初めてエリアスが、声を出して笑ってくれた。
プリムローズは、エリアスが笑えるようになってきて嬉しく感じた。

「エリアスは理由を知っているのね。
意地悪しないで教えなさいな」

ふくれっ面をする彼女を見て、またおかしく笑いだす。
他の者たちは、エリアスの年相応としそうおうの笑顔を嬉しそうに眺めていた。

「正解は、渦潮うずしおです!
そこには、大きな渦潮が3つもあるんです。
大きな船でも、危険で近づけません」

エリアスは船員たちが、話をしていて知っていたのである。

「その通りです!
渦潮が、ヘイズ王を守っているのですよ」

タルモは正解を言うと、プリムローズは首をかしげた。

「ヘェ~、渦潮?
渦潮って見たことないわ。
海すら初めてだったもの」

「渦潮は、渦を巻いて激しく流れる海水をいいます。
それが3つもある、天然の海の要塞ですな。
偶然にも同じ行き先ですが、ヴァロまで私も同行しても宜しいのですか?!」

タルモは、首都ヴァロの商会で働き暮らしていたのだ。

「いいんじゃね。
行き先は同じだしよ。
お嬢、港に着いたら誰が迎えに来るんですかい?!」

「それがね…。
お祖父様が、会ってからのお楽しみだって教えてくれなかったわ。
紫のドレスを着て、待ってれば来るぞ!
それしか、教えてくれないんだもん。
本当に出迎えに、姿を現してくれるのかしら?」

タルモとエリアスは、なんとも呑気のんきな性格のお祖父様だと危惧きぐした。

 この船旅でギルとタルモは、エリアスに文字や計算を教えていた。
彼はプリムローズに言われた事を実践して、恥ずかしがらずに何でも質問してきた。

メリーは荷物の中にあった布地で、簡単な肌着をエリアスに作ってあげた。
プリムローズは、港に着いたら出す手紙を沢山書いている。
勿論、約束をしたルシアン王子にも書く。
書きすぎて右手が疲れたのか、手を振っていたらメリーが声をかけてきた。

「お嬢様、明日のドレスはこのラベンダー色の七分袖にレースの手袋にしましたわ。
此方は気候が少し温暖ですが、島国だけあって湿気があるようですよ」

メリーは、タルモとエリアスからヘイズについて聞き出していた。

「納得した。
祖父母が、やけに夏服を多めに荷造りを指示していたのね。
メリーは、どんな服を持ってきたの?」

「私はメイド服が主ですから、私服はそんなにございません」

メリーは、あまりお洒落しゃれにはこだわらない。

「服で思い出した!
エリアスの服を、買ってあげたいわ。
私の服を着せて、似合うけど可哀想よ。
買い物する時間があるといいんだけど…」

  プリムローズはその晩、何故か寝付きが悪かったがいつの間に寝ていた。

夢の中で、ある貴婦人が財布を出して露店ろてんで支払いをする。
夫人の2人の護衛を4人の男が突き飛ばして、もう1人の野蛮な男が刃物で手を切り付け財布を奪うのを見た。

私も近くにいるみたい。
だって、明日着る予定のドレスを着ているわ。

彼女は目が覚めて、半身だけベッドから起きあがった。
こんなに間近な予知夢は、生まれて初めて見た。
額に汗がにじんでいるのが、自分でもわかる。

剣では、気配がすぐにわかって駄目ね。
ムチなら、あの刃物を叩き落とせるかもしれない。
当たらなくても、抑止力にはなるはず。

その前に、ギルにこの夢を話してみようか?
いいえ、信じるわけはない。
笑われて、馬鹿にされて終わりだわ。

プリムローズは横で寝息をたてて安らかに眠るメリーを見て、準備してから自分もまたもう一度寝りつく。

船室では小さな窓で、朝の日差しが入らないため薄暗い。
メリーがまだ寝ている主人を、最初は優しく揺さぶり起こしていた。

「お嬢様、朝でございますよ!
昨夜は、寝れなかったようですね」

プリムローズは、目が開かない状態で挨拶する。
顔を洗えと指示され、次に手際よく服に着替えさせられた。
髪をハーフアップにプリムローズの花の髪飾りをされて、隣の部屋に引っ張っていかれる。
主人の扱いとは思えない、強引な支度に怒りより笑いが込み上げそうにー。

やっと目がえた頃には、朝食が目の前に用意されていた。
食べたらムチと短剣を装備しなくては、本当に使うのだろうかと食べながら思う。

「お嬢様。最後にヴァンブランのいる場所に行きたいのですが、宜しいでしょうか?!」

意外な申し出に、プリムローズはエリアスの気持ちがわからなかった。

「最後に…、昔の私に別れを告げたいのです。
彼処あそこには、8歳から4年いましたから…」

エリアスって、今は12歳なんだ。
私より2歳上か…。
同じ年か、下かと思った。

「一緒に行きましょう。
ギルも、護衛としてついて来てね。
エリアス、もう貴方は今日で谷から卒業よ!」

ギルがわかったと、手をポンと叩いて言った。

「【山あり谷あり】か!
お嬢、良いこと言うな。
エリアス、これからは山だけだ。
上だけ向いて、生きて行こうぜー!」

2人はその言い方で、ついつい笑いが出てしまう。

「そうか…。
今までは、谷底って意味か…。
それを言うなら、船底か!
あはは」

エリアスは冗談まで言えるようになり、笑える自分に幸せを感じていた。
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