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第1章  奇跡の巡り合わせ

第11話 商人の空値

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    彼を無事に救いだした4人は、やっと落ち着いて部屋に集合していた。
テーブルの上に置かれた食事を前に、疲れきった表情を浮かべていた。

「今日は朝からバタバタしていて、もう3日位たった気分よ」

プリムローズが3人に話すと、ギルがうなづきながら主人に文句を言ってきた。

「お嬢~!
俺、もう倒れそう!
だってよぉー、よく考えたら朝から何も食っていないんだぜ」

「私とタルモ殿は、お茶と少しお菓子だけですしね」

「先ほどから、私も腹の虫が鳴いておりますよ」

3人の早く飯をコールに、プリムローズは返事した。

「では、今日の神から与えられた1日に感謝します。
いただきまぁすー!」

「「「いただきますー!」」」

二人が元気よく言うので、タルモも釣られて言うのである。

静かに食べるのに専念し終え、お腹が満足したらプリムローズが話しかけてきた。

「タルモ殿、証文と今後は手出し無用の紙を読みました。
それと金貨4枚もですが、本当に1枚しか使いませんでしたの?!」

プリムローズがあれからメリーとタルモがいる部屋に戻ると、メガネをかけて髪型を変えたタルモがいた。
その姿は目の前で、食事しているタルモとは別人に見える。

「私は商人あきんどです。 
【商人の空値そらね】って言葉をご存じか?!」

タルモはプリムローズに、言葉の意味をただした。

「えーと、商人の言い値を信じるのかなぁ?!エヘヘ」

プリムローズは、適当に返事してみた。

大方おおかたはそうです。
私たち商人は、相手の元値よりも少しでも安く品を手に入れたい。
相手は逆ですね。
元の価値を信用せずに、駆け引きをするんですよ。
私は証文を持つ船長と駆け引きをして勝った訳ですな」

タルモは笑い声を出しながら、3人に船長とのやり取り始めの部分を説明する。

「それにしても勝ちすぎじゃん。
どんな駆け引きしたら金貨5枚が1枚になるんだ?!」

ギルは分厚い肉を噛んで飲み込むと、隣のタルモに顔を向けて聞く。

「まさか脅迫でもなさったの?タルモ殿」

メリーは思わず、タルモを恐々と眺めていた。

「脅迫か…。近いと言えば遠からずかなぁ。メリーさん」

タルモは船員に会い、船長の部屋に行くところから話し出した。

「ずげぇー!策士というか。
まるで参謀さんぼうみたいな雰囲気ふんいきだぜ。こわー!裏社会のボスもあざむけるんじゃね?!」

プリムローズも、つい礼儀を無視してしまう。
聞いていて興奮し、思わず肉をフォークでぶっ刺した。

「側でこのやり取りをぜひ拝見したかったですわ。
私も出てくる内容ですから、タルモ殿が仰る通りに確かに訴えるかもです」

「そう思って、船長を脅しましたよ。
いや、忠告しました。
言葉はちょっとした言い回しで、かなり印象は変わるものです」

意味深な発言を3人にする。

プリムローズは彼がそんな駆け引きをどれくらいして、ここまでになったのか興味が出てしまった。

流石さすがに交渉事に慣れてますわね。
私も道ばたの商人に、ついつい乗せられて買ってしまいますもの!」

メリーはグラスを手にしながら、思い出したかの様に話に割って入ってくる。

「メリー、道ばた商人と比べるなよ。
ぜんぜん格が違うぜ。
すまんな、タルモ殿」

メリーの話にいちゃもんをつけ、代わりに謝っていた。

「対して変わりません、ギル殿。私も最初は、道ばた商人からここまでにい上がったのだよ。
最初からの商人はいるにはいるが、大体だいたいは成り上がりの方が多いですぞ。
商人は嫌われてなんぼの世界だ!」

堂々とそんな事を自慢する、タルモを驚きの目で見た。
商魂がたくましいですわ。
ポレット夫人のまさに男番ね。

そう言えばエテルネルの皆は元気かしら、明日は手紙でもゆっくり書きたい気分ね。
プリムローズは、少し里心が出て寂しく感じた。

賑やかな食事が終わるとプリムローズとメリーは、エリアスが寝ている部屋に戻って行く。

 
    部屋の鍵を開ける2人に聞こえたのは、エリアスとピーちゃんの会話。

「初めまして、エリアスです。君は鳥さんなんだろう?!
さんではなく鳥様かなぁ?!
白くて綺麗だし、この鳥籠も豪華です。
鳥様のお名前は何て言うのですか?!」

たかだか鳥のピーちゃんに土下座して、頭を下げながら挨拶している。

「ピィー!」

羽を広げては、エリアスに名前を教えているように鳴いた。

「ねぇねぇ、メリー?!
エリアスって、天然ボケボケ少年なの?
ヴァンブランにさえ、馬様って様付けしてたわよ」

部屋のドアの隙間すきまから見ていたプリムローズは、後ろに立つメリーに質問した。

「お嬢様…、エリアスは今まで誰よりも下に扱われていたのです。
私も昔は彼のようでした。
まるで虫以下に扱われたら、あの様になりますよ」

虫かメリーもそんな時代があったのか。
今では、私より偉そうな時があるのに。
人って変われば、人格までも変わるものね。
人間って凄い生き物ねー!!

「それより、盗み見しないで入りましょう。
この部屋の主は、お嬢様なんですから」

「コホン、そうね!
衝撃的なあの会話とあの態度にひるみましたわ」

メリーがドアを開けて、声をかけてくれた。

「まぁ、エリアス!
そんな格好では風邪をひきますよ。
毛布を出しますから、ソファーに座りなさいな」

メリーが声をかけると、後ろ姿のエリアスの肩がビクっとした。

「プリムローズ様とメリー様!
お帰りなさいませ。
目が覚めましてお二人を探していたら、綺麗な鳥様を見つけましたのでご挨拶しておりました」

土下座のままの姿勢で、詳細に説明する。

「床は冷たいでしょう?!
ほら、ソファーに座りなさい。
それに鳥は鷹という種類で、名前はピーちゃんよ。
様は要らないわよ」

そう話していて、ふと思い出した。

あらっ、タルモ殿もピーちゃんをピー様って呼んでいたわ。
ピーちゃんを不思議そうに見ては、なんでだろうと考える。
ピーちゃんって威厳あるのかしら、鳥のくせにと見ていたら鳴き声がした。

「ピ、ピ、ピィー!」

そうだぞと、偉そうな態度で鳴いたように見えてきた。

見ながらソファーに座ると、ワケわからないが突然に笑いだす。

メリーは持ってきた毛布に、優しくエリアスを包み込む。
そんな笑いこける姿を、エリアスは不思議そうに眺めているのであった。
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