上 下
30 / 75
第2章  愛と希望とそして秘密

第12話 君は私の理想の人

しおりを挟む
 見合いから約2ヶ月後、新しい年が少し明けた頃。
マリー様とサミュエル様の婚約が、両家の間で秘密裏に決定していた。

ハントリー侯爵令嬢セリーヌとは違い控え目なマリー様に、伯爵令息サミュエルはすっかり骨抜きになってしまう。

順調な交際を聞いて、縁結びをしたプリムローズはワクワクして見守っていたのだった。

マリーは誰より先にこの婚約話を、彼女に報告するのをずっと前から決めていた。

「マリー様、まだ大っぴらには喜べませんがおめでとうございます。
私が見込んだ通りになりましたわ!」

彼女はマリーから人気の少ない場所へ呼ばれて、この吉報きっぽうを教えてもらっている。

此方こちらこそ、なんと礼を申し上げてよいか。
プリムローズ様が、良縁を紹介して下さり感謝致します」

マリーは彼女には一生恩義おんぎを持ち続ける気持ちで、心の底からお礼を伝えていた。

プリムローズは口が固く、両家からの発表があるまでは知らぬ存ぜぬを通している。

 そんな彼女が学園の廊下を歩いていると、2人の見知らぬ令嬢たちから声をかけられた。

「失礼致します。
貴女様がクラレンス公爵のプリムローズ様ですか?」

「えぇ、確かに!
そういう、貴女は何処の何方?
私と話したければ、名を名乗るのが礼儀というものよ」

背丈はまだ彼女の方が少し低かったので、視線が上からで気分が悪くなるプリムローズ。

「貴女様のせいで、セリーヌ様は修道院に送られたのよ!
婚約破棄まで、公衆の面前でされて!
貴女って、酷いお方だわ!!」

公爵令嬢に対して、かなり辛辣しんらつな言葉である。
周りはその場で足を止めて、そのやり取りの経緯けいいを見守る野次馬やじうまもいた。

「礼儀知らずの酷い方はどちら?
いい事、あの方は婚約者が居ながら他の殿方にちょっかいを出していたのよ!
不義理ふぎりで、貞操ていそうなしとは思いません?」

プリムローズは腕を組み、堂々とセリーヌの浮気グセを話していちゃもんをつけた令嬢たちに言い聞かせる。

「それはセリーヌ様が魅力的で、殿方が放っておかないからですわ!」

もう一人の令嬢が、彼女に断りもなく話に割って入ってきた。

「クスクス! 
笑ってしまって、ごめん遊ばせ~!
婚約破棄しても、魅力的で殿方がいっぱい寄ってくるなら。
それで良いではありませんか!」

二人の令嬢たちは、彼女の返事に言葉を失っていた。
確かに、モテるなら目くじらを立てるのはおかしい話だ。

「修道院に行って神に従えば、清い心になり戻れますわね。
そうしたら、もっと良い御縁を引き当てるかとはお思いになりませんか?
神さまのお導きで~!!フフッ」

言い返す言葉がないし、この方には何を言ってもムダだわ。
勝てないと分かると、令嬢たちは顔を下に向けた。

「でっ、あなた方はどちらのお家の方?
侯爵、伯爵?まさか、ドチラでもないの!
私は身分の下の方は、知り合い以外は家名を覚えておりませんの!ねぇー、教えてくださる?
オーホホホ!!」

廊下に響き渡るプリムローズの高笑いは、側にいた生徒たちの恐怖心をあおっていたのであった。

 メーター伯爵からクラレンス公爵に先触れがあり、マリーの紹介の御礼をとプリムローズに会いに来ていた。

「この度は、素敵なご令嬢を紹介頂きありがとうございます。
息子は勿論、家内かないも喜んでおります」

メーター伯爵は、プリムローズに深々礼をする。

「良かったのう。 
わしらが婚約破棄させたので、気になってたんじゃ」

祖父は、心にもないことを伯爵に告げていた。

「前の婚約者は身分が格下かくしただと、私たちを見下みくだしてましたのよ。
今の方は、謙虚けんきょでお話も合いますわ。
すでに行儀見習いを、素直に一生懸命しております」

まるで娘の様に、可愛がっている伯爵夫人。

「素直が一番ですよ。
前の方を悪く言いありませんが、公爵夫人のわらわさからう言葉を言いました。
この度の御令嬢は孫娘の友人で、何度かお会してます。
とても感じが良い方ですよ」

祖母は、まだ侯爵令嬢を許していないらしい。

「プリムローズ様、ありがとう。
マリーと幸せになると伝えたくてね。
前のあの方と違い、私を立ててくれるし優しいんだ。
私の理想の人だよ。
どうしても両親も御礼が言いたくて、訪問しました」

サミュエルは、赤い顔して笑顔を爆発させる。

「私も友人として喜んでおりますの。
メーター伯爵家も、これで安泰あんたいですわね!」

残りはリザ様、だけど彼女って相手はいないわよね? 
結婚とかどう考えてるのかしら?

なんだかとても、気になるわ。
プリムローズは、またしてもお節介おばさんの血がうずくのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

嘘を囁いた唇にキスをした。それが最後の会話だった。

わたあめ
恋愛
ジェレマイア公爵家のヒルトンとアールマイト伯爵家のキャメルはお互い17の頃に婚約を誓た。しかし、それは3年後にヒルトンの威勢の良い声と共に破棄されることとなる。 「お前が私のお父様を殺したんだろう!」 身に覚えがない罪に問われ、キャメルは何が何だか分からぬまま、隣国のエセルター領へと亡命することとなった。しかし、そこは異様な国で...? ※拙文です。ご容赦ください。 ※この物語はフィクションです。 ※作者のご都合主義アリ ※三章からは恋愛色強めで書いていきます。

【完結】浮気現場を目撃してしまい、婚約者の態度が冷たかった理由を理解しました

紫崎 藍華
恋愛
ネヴィルから幸せにすると誓われタバサは婚約を了承した。 だがそれは過去の話。 今は当時の情熱的な態度が嘘のように冷めた関係になっていた。 ある日、タバサはネヴィルの自宅を訪ね、浮気現場を目撃してしまう。 タバサは冷たい態度を取られている理由を理解した。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)
恋愛
プリムローズは、筆頭公爵の末娘。 上の姉と兄とは歳が離れていて、両親は上の子供達が手がかからなくなる。 すると父は仕事で母は社交に忙しく、末娘を放置。 そんな末娘に変化が起きる。 ある時、王宮で王妃様の第2子懐妊を祝うパーティーが行われる。 領地で隠居していた、祖父母が出席のためにやって来た。 パーティー後に悲劇が、プリムローズのたった一言で運命が変わる。 彼女は5年後に父からの催促で戻るが、家族との関係はどうなるのか? かなり普通のご令嬢とは違う育て方をされ、ズレた感覚の持ち主に。 個性的な周りの人物と出会いつつ、笑いありシリアスありの物語。 ゆっくり進行ですが、まったり読んで下さい。 ★初めての投稿小説になります。  お読み頂けたら、嬉しく思います。 全91話 完結作品

〖完結〗ご存知ないようですが、父ではなく私が侯爵です。

藍川みいな
恋愛
タイトル変更しました。 「モニカ、すまない。俺は、本物の愛を知ってしまったんだ! だから、君とは結婚出来ない!」 十七歳の誕生日、七年間婚約をしていたルーファス様に婚約を破棄されてしまった。本物の愛の相手とは、義姉のサンドラ。サンドラは、私の全てを奪っていった。 父は私を見ようともせず、義母には理不尽に殴られる。 食事は日が経って固くなったパン一つ。そんな生活が、三年間続いていた。 父はただの侯爵代理だということを、義母もサンドラも気付いていない。あと一年で、私は正式な侯爵となる。 その時、あなた達は後悔することになる。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...