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第8章
30 去来する人
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話している態度と声色は、別に押し付けがましくはしてない。
ただ彼女は淡々と自分の提案を述べるだけに集中し、サンダース親子はその話の内容を考えているようだった。
「隣国か、それも私を恨んでいる。
ブライオン王弟の比護を求めて行くのか……」
子爵は、名だけの妻の顔を思い出していた。
「父にある方々を頼む為に、手紙で先に打診しております。
その方々と、御一緒に行かれたらどうでしょうか?」
「ある方々とは、どのような人物たちでしょうか?
私は男で心配ないが、この2人は女性だ。
何かあってはと、不安でな」
言っているのはもっともで、子爵たちに真剣な顔つきで頷く。
そして、マティルダはテーブルにある呼び鈴を鳴らす。
「ご用ですか?」
用があるから呼ぶのだけど、これもお決まりのパターンだ。
「ジョージ様たちを、この部屋に呼んでくれないかしら?
あと、お茶の用意を7人分お願いします」
この人数で3名だと、子爵は頭のなかで計算する。
「隣国へ行く予定の方々を、これから御紹介致します。
彼らと話してから、決定したらどうかしら?
別に無理に行けとは、私からは命じません」
何やら含んだ物言いに、三人は不思議に感じた。
ジョージはマティルダから相談をされて、これから起こるのを事柄を想定する。
その主役になる者を、彼はチラリと流し目を送ってみた。
「ジョージ様、マティルダ様の用件は何でしょうか?」
ハロルドは自分を刺した男と一緒に歩き、呼ばれた部屋に近づいていく。
彼は平民出身で、国1番の豪華な住まいに踏み入れると心臓が変な音がしていた。
『ダメだ、今にも倒れそうだ』
床が歪んでいるように感じて、真っ直ぐ歩いている足がもつれてしまいそうだ。
「お二人は、王宮は初めてだったな。
俺も最初来たのは子供の頃だったから、詳しく覚えてないから緊張する気持ちは分からないけど。
ちょっと立ち止まって、深呼吸でもしてみたらどうだい? 」
先ほどからカクカク動く動きで、彼は同行して気になりしょうがない。
「そ、そうでございますな。
お言葉に甘えまして、お時間頂きます!」
「お、俺も!する、します!」
マティルダたちが待つ部屋の前で深呼吸を始める、二人。
ジョージは、温かな視線で行動を見守る。
ハロルドはマティルダしか居ないと勘違いしているようで、まさか中にあのアリエールがいるなんて思ってはいない。
『マティルダ様も意地が悪い。
ハロルド殿はこれから会う人物を見たら、どう感じるのだろうか。
彼女は、こういう謀をするのがお好きらしい』
何度も深呼吸する二人に苦笑し、そろそろ中に入るぞと声をかけた。
「マティルダ様のお呼びにより参りました」
取り次ぎの者へー。
そして、彼らは三人だけが部屋に招かれた。
ジョージだけは警護として、特別に剣を腰につけていた。
パレードの襲撃犯が一緒にいるし、狙われたマティルダが部屋にいる。
『ここに雨乞いをした者がいる。
もう少し、早く雨を降らせてくれたら俺は……』
男はまだ捨てきれない恨みを、雨乞いをしたマティルダに残していたのだった。
男性三人が入ると一際目立つ扇を優雅に動かす女性が一人。その前には3人が長椅子に座っていた。
『この女が…。
コイツが早く雨を降らせてくれたらー』
どうしても、憎く思えてマティルダを睨んでしまう。
八つ当たりとは、自分でも頭では分かっている。
「ジョージ様、お二人も良く来てくれました。
此方にいらっしゃるのは、私と縁のある方々です」
「「あっ!」」
誰が来たのかと、ついつい後ろを振り返るサンダース子爵たち。
目が合った男女は、同時に声をあげてしまった。
『どうして、ハロルドがー。
彼は、商人の娘と家庭を持ったはず。
彼が、どうして王宮にいるの?!』
『アリエール、修道院から出られたのか。
どうして、王宮に来ているんだ。
そうか、彼女は貴族の娘だったな』
犯罪を犯して今度は国を出ていく者と、彼女とは知り合いとは言えない。
「お呼びしたのは隣国へ行く前に、決心を再確認する為です。
アリエールと貴方がたは、目を閉じてください!」
目を閉じろと頼まれて、戸惑っても言われた通りに目を閉じた。
「あなた方が辛い時や嬉しかった時に、どなたが頭に浮かびますか?
目を閉じた瞼の裏に、今は誰の顔が浮かびましたか!?
そして、胸に去来している方は誰?」
三人はそれぞれ辛く悲しかった時を思いだし、誰に救いを求めて泣いたかー。
「さぁ、目を開けなさい!
誰を思い出しました?
その人の隣が、あなた方が居たい場所なのです」
男女は頬を赤らめていたが、黙りを決めているようだ。
そんな中でくたびれた男は、頬から顎へ涙が床に滴り落ちる。
「その人の隣にー、場所へ帰れなかったらどうするんだ?
嫌われて拒絶されたら、何処へ行けばいいんだ!
生きているのか、死んでいるのか。
今の自分がどちらでもない!」
元凶を作った相手に対して、慟哭に近い想いを叫んだ。
「貴方の奥様もお子様も、隣の領地の友人の家にいるそうです。
ジョージ様、そうですよね」
「ああ、君の事を話したら帰って来てと泣いていた。
場所は分かっている。
あとは、君次第だ!」
肩を震わせて頭を下げて、帰ると家族の待つ場所へ帰ると消えるような声で呟くのだった。
ハロルドは思い詰めた表情で、自分と視線を合わせようとしない女性に心が騒ぐ。
ジョージはマティルダの考えを見抜くと、泣き続ける男の肩を手をかけて背中を1度だけ軽く押す。
そして、二人は部屋を静かに出て行った。
次は、残った者たち番になる。
ただ彼女は淡々と自分の提案を述べるだけに集中し、サンダース親子はその話の内容を考えているようだった。
「隣国か、それも私を恨んでいる。
ブライオン王弟の比護を求めて行くのか……」
子爵は、名だけの妻の顔を思い出していた。
「父にある方々を頼む為に、手紙で先に打診しております。
その方々と、御一緒に行かれたらどうでしょうか?」
「ある方々とは、どのような人物たちでしょうか?
私は男で心配ないが、この2人は女性だ。
何かあってはと、不安でな」
言っているのはもっともで、子爵たちに真剣な顔つきで頷く。
そして、マティルダはテーブルにある呼び鈴を鳴らす。
「ご用ですか?」
用があるから呼ぶのだけど、これもお決まりのパターンだ。
「ジョージ様たちを、この部屋に呼んでくれないかしら?
あと、お茶の用意を7人分お願いします」
この人数で3名だと、子爵は頭のなかで計算する。
「隣国へ行く予定の方々を、これから御紹介致します。
彼らと話してから、決定したらどうかしら?
別に無理に行けとは、私からは命じません」
何やら含んだ物言いに、三人は不思議に感じた。
ジョージはマティルダから相談をされて、これから起こるのを事柄を想定する。
その主役になる者を、彼はチラリと流し目を送ってみた。
「ジョージ様、マティルダ様の用件は何でしょうか?」
ハロルドは自分を刺した男と一緒に歩き、呼ばれた部屋に近づいていく。
彼は平民出身で、国1番の豪華な住まいに踏み入れると心臓が変な音がしていた。
『ダメだ、今にも倒れそうだ』
床が歪んでいるように感じて、真っ直ぐ歩いている足がもつれてしまいそうだ。
「お二人は、王宮は初めてだったな。
俺も最初来たのは子供の頃だったから、詳しく覚えてないから緊張する気持ちは分からないけど。
ちょっと立ち止まって、深呼吸でもしてみたらどうだい? 」
先ほどからカクカク動く動きで、彼は同行して気になりしょうがない。
「そ、そうでございますな。
お言葉に甘えまして、お時間頂きます!」
「お、俺も!する、します!」
マティルダたちが待つ部屋の前で深呼吸を始める、二人。
ジョージは、温かな視線で行動を見守る。
ハロルドはマティルダしか居ないと勘違いしているようで、まさか中にあのアリエールがいるなんて思ってはいない。
『マティルダ様も意地が悪い。
ハロルド殿はこれから会う人物を見たら、どう感じるのだろうか。
彼女は、こういう謀をするのがお好きらしい』
何度も深呼吸する二人に苦笑し、そろそろ中に入るぞと声をかけた。
「マティルダ様のお呼びにより参りました」
取り次ぎの者へー。
そして、彼らは三人だけが部屋に招かれた。
ジョージだけは警護として、特別に剣を腰につけていた。
パレードの襲撃犯が一緒にいるし、狙われたマティルダが部屋にいる。
『ここに雨乞いをした者がいる。
もう少し、早く雨を降らせてくれたら俺は……』
男はまだ捨てきれない恨みを、雨乞いをしたマティルダに残していたのだった。
男性三人が入ると一際目立つ扇を優雅に動かす女性が一人。その前には3人が長椅子に座っていた。
『この女が…。
コイツが早く雨を降らせてくれたらー』
どうしても、憎く思えてマティルダを睨んでしまう。
八つ当たりとは、自分でも頭では分かっている。
「ジョージ様、お二人も良く来てくれました。
此方にいらっしゃるのは、私と縁のある方々です」
「「あっ!」」
誰が来たのかと、ついつい後ろを振り返るサンダース子爵たち。
目が合った男女は、同時に声をあげてしまった。
『どうして、ハロルドがー。
彼は、商人の娘と家庭を持ったはず。
彼が、どうして王宮にいるの?!』
『アリエール、修道院から出られたのか。
どうして、王宮に来ているんだ。
そうか、彼女は貴族の娘だったな』
犯罪を犯して今度は国を出ていく者と、彼女とは知り合いとは言えない。
「お呼びしたのは隣国へ行く前に、決心を再確認する為です。
アリエールと貴方がたは、目を閉じてください!」
目を閉じろと頼まれて、戸惑っても言われた通りに目を閉じた。
「あなた方が辛い時や嬉しかった時に、どなたが頭に浮かびますか?
目を閉じた瞼の裏に、今は誰の顔が浮かびましたか!?
そして、胸に去来している方は誰?」
三人はそれぞれ辛く悲しかった時を思いだし、誰に救いを求めて泣いたかー。
「さぁ、目を開けなさい!
誰を思い出しました?
その人の隣が、あなた方が居たい場所なのです」
男女は頬を赤らめていたが、黙りを決めているようだ。
そんな中でくたびれた男は、頬から顎へ涙が床に滴り落ちる。
「その人の隣にー、場所へ帰れなかったらどうするんだ?
嫌われて拒絶されたら、何処へ行けばいいんだ!
生きているのか、死んでいるのか。
今の自分がどちらでもない!」
元凶を作った相手に対して、慟哭に近い想いを叫んだ。
「貴方の奥様もお子様も、隣の領地の友人の家にいるそうです。
ジョージ様、そうですよね」
「ああ、君の事を話したら帰って来てと泣いていた。
場所は分かっている。
あとは、君次第だ!」
肩を震わせて頭を下げて、帰ると家族の待つ場所へ帰ると消えるような声で呟くのだった。
ハロルドは思い詰めた表情で、自分と視線を合わせようとしない女性に心が騒ぐ。
ジョージはマティルダの考えを見抜くと、泣き続ける男の肩を手をかけて背中を1度だけ軽く押す。
そして、二人は部屋を静かに出て行った。
次は、残った者たち番になる。
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