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第8章

27 死者からの生還

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   ベッドで気がついたのは、ジョージが王様から何やら説教を言われていた時だった。
どのタイミングで目覚めたと言おうか、マティルダは様子見をしていていた。

『ジョージ様ったら。
国王様と会話して、緊張のしすぎで頭の中がグルグルしちゃってる。
ハロルド、亡くなってアリエールが知ったらどう思うんだろう』

サンダース領地にいると教えられている。
あの三人は血の繋がりがある家族だが、戸籍の書類では赤の他人だ。
そう考えていたら、ジョージは本題をやっと述べ始めた。

「彼は…。
彼は生きております。
私と父で話し合って、亡くなったとしたのです」

し~んと静まかえっな空気を、裂く甲高い女性の怒声。

「生きている!?
ハロルドは死んでないの?!
どうして、サクって軽々しく殺したようにしたのよ。
ジョージ様~!!」

意識もなく寝ていたマティルダがガバッと起き上がる。
周りにいた王族たちと名前を告げられたジョージ本人は、驚きのあまり思考も体も固まってしまう。
特に国王は、心臓に手を当ててるハァハァしているではないか。

「驚かすでない、マティルダ!
余をハロルドという男の代わりに、あの世に送るつもりなのか!?
ハァハァ……」

「陛下、深呼吸して下さい。
マティルダ、妾も息が止まりかけました。
気がついていたなら、早く教えて頂戴な」

「申し訳ありません。
声が聞こえて、我を忘れてしまいました」

ベッドから半身を起こして、両陛下に平謝りをする。

「ジョージ、マティルダのもと婚約者は生きておるのか?!
なんで、そんな処遇をしたのだ」

同じ年で友人でもあるエドワード王子は、三人を無視して話の先を知りたいのか尋ねる。

「切り傷は、それほどは浅くはありませんでした。
ハロルド殿の家族に、私たちは連絡しようとしましたらー」

彼の説明によると、ハロルドはやめてくれと泣き出したそうだ。

「自分は落ちこぼれで要らない存在だから、死んでしまった方がマシだとー。
刺されて一思いに殺られてしまったら良かった。
そう話してきて嗚咽までしだしまして…」

人が死を選びたいとはー。
よっぽど生きるのが辛かった日々を、長年過ごしていたのか。

「前向きで自己中心的な、あのハロルドが死を望むなんて…。
あの日から、ここまで性格が変わってしまったの」

暗い表情になり顔を下にすると、いまにも泣きそうになり前にジョージは違うと身ぶり手振りをして慌てる。

「だから、私は彼に提案したのです。
ハロルドを亡くして、新たに生まれ変われたらいいのではないかー」

「生まれ変わる……。
違う人としてやり直すって、そういう意味?」

ジョージの顔色を伺いながら、彼女は真意を考えて自分の答え合わせを求めた。

「はい、父も陛下が許してくれたらと条件をつけました。
陛下、未来の王太子妃の生命を救った彼の望みを叶えて下さいませんか!?」

「父上、私からも頼みます。
そうでないと、うやむやでスッキリしません。
マティルダと一緒に、未来を歩めないのです」

どちらかと言えば、妹だったアリエールの横やりで二人の仲は悪い方だった。
しかし、アドニスは直接その様子を知らない。
知らないからこそ、過去の影に不安になるのだ。

家族全員から懇願されて、国王でも人としては弱い。

「うむっ、死人に口なしだ。
余はこの国の国王であって、神ではない。
その者の好きにするがよい」

懐の深い言葉に聞こえるが、よくよく考えれば突き放す内容である。
目の前の善行に、皆は明るい表情を話す人へ向けていた。

「国王陛下、彼は罪を償えなかった。
その代わりに死者を、彼を国外追放にして下さい。
この者を我が父、ブライオン王弟に預けますのを許可をお願いします」

マティルダは、自分の親に彼を頼む事に決めた。

「ハハハ、幽霊は見えないし何処にでも勝手に行ける。
この話題は、もう終わりにしよう。
余は驚きすぎて疲れた、休ませて貰おうか」

自身の腕を王妃に差し出す。
夫に鈴を転がした笑いをして、その腕に白い美しい手をかける。
肩を並べて部屋を後にするのを、感謝を込めてマティルダは頭を下げて見送る。
この短い間にも、彼女はもう一人救いたいと思っていた。

「マティルダお姉様~。幼なじみさんが、無事でなによりでした。
アドお兄様も、厄介者が居なくなって良かったわね」

「暴漢から助けて貰ったから良かったけど。
そういえば、そのパレードを妨げようとした人はどうなるんでしょうか?」

ハロルドの怪我を気にしていたが、その原因を作った人は重犯罪者扱いになる。

「一番重い刑は、たぶん打ち首だろう。
広場で一般に公開し、皆に見られて執行される」

「アドニス様、命だけは救ってくれませんか?
私たちの婚約を祝った行事でもあります。
それで、こうなるのは辛いですわ」

「マティルダは、こころ優しいな」

婚約者の誉め言葉を完全無視して、自分なりの考えを通そうとしていた。

「そうだわ!
彼も亡くなった事にしましょう。
二人が争って、共に死んだことにすればいいんだわ」

突拍子のない案を出して、周辺を呆気にさせていた。
ハロルドはいいとして、犯罪を犯した彼を無罪にしてよいのか。

『これはどう思うんだろうか』

マティルダ以外はこれが気になっていたが、嬉しげに話している彼女に誰が言い聞かせるか。
視線で探っていると、容赦ない声がドアを開けつつ反対した。

彼はこういう場面に、いつもタイミング良く現れるのだった。
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