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第8章
25 最後の会話
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王太子の乗る馬車が通りかかるのを、沿道の高級レストランの2階から見物をする着飾った紳士たち。
その手には血のような真っ赤なワインが、グラスの中で跳び跳ねて踊っていた。
「や、やったぞー!!
王太子の馬車が襲撃された!」
「そんなに喜ぶな。
周りから変に思われる」
「静かに、冷静になれ。
ん?ちょっと、待て。
何だか、様子がおかしい」
飛び出した男を後追いした者が止めに入って、もみ合ってナイフが光輝くのが反射する。
「誰かが邪魔したようだ。
あれは、どこの誰だ!」
「奥にいる客たちが、騒ぎに窓際にくるぞ。
これ以上、口を開くな。
誰かに聞かれたら、我々が疑われる」
3人は沈黙して深刻な表情は、心配しているように他人には見えたようだ。
「ご覧になりまして、なんと恐ろしいことでしょう」
「アドニス王太子殿下が襲われたの?」
「どうも、婚約者のマティルダ様みたいよ」
野次馬のツレの男性から話を聞き、ご婦人たちが噂をしている。
会話を聞くと、やっぱり隣国から来たからと憶測を話し合う。
「不発に終わったが……。
まぁ、ああして考える者が増えてくれたらそれで満足しよう」
「やった事は無駄ではない」
「ざんねん会でも、我が家でしますか?」
「「カードでもしよう!」」
「私に勝たせろよ。
ここまでしたのに、無駄骨だったんだからな」
勘定はツケでそのまま階段を降りて、悪の根元は悪びれもないようだ。
彼等が去った席は、野次馬の貴族たちにすり変わっていた。
「見て、見まして?
アドニス殿下が、マティルダ様を抱き締めてますわ!」
「襲われてはないよう。
私も誰かに、ああして貰いたい」
「貴女、不謹慎ですよ。
でも、素敵でしたよね。
私も見ているだけで、マティルダ様になった気分になりドキドキするわ」
そのうち主人との恋話になり、呆れて旦那連中は葉巻を吸っていた。
王族たちの馬車は、その場に止まる。
何が起きたか訳の分からない沿道の人々。
「馬車が突然止まっているぞ」
「どうしたのかしら?」
だんだん不振がり騒ぎだすのを、騎士たちはそんな人々に声かけして落ち着かさせる。
「バシッン!うっー!!」
上から押さえ込むハロルドは、犯人のナイフを持つ右手を両手で押さえ込む。
邪魔されて空いた左手で、むちゃくちゃに彼を殴り付けている。
「誰か!!
すぐに、彼を助けなさい!」
マティルダが叫んでもメアリーが余計な事をした為に、クシャミをしながら事件現場に走って向かっている。
「アドニス、コチラからでは見えにくいです。
安否確認をしに行きたいわ!」
「行っても、周りを混乱させるだけだ。
彼は私たちの命の恩人。
ここで大人しく見守ろう」
ハロルドは自分がどうなってもいいと、なにも考えずに力の限り押さえる。
「王族のせいで、家族がバラバラになったんだ。
お前には関係ないじゃないか!早く、俺を離せー!」
ナイフがハロルドの肩や腕に刺さり、所々から赤い血が流れている。
取り押さえているのに集中して、彼には痛みを感じていない。
「色々あったのは君だけではないはずだ。
王族にキズでもつけてみろ!
命はないぞ!
なぁ、自分を大切にしろよ」
説得を試みる顔の額には、汗が滴り落ちてくる。
顔色も青白く変化してきた。
「ハロルド!!」
見張りの彼が、数人の騎士たちを連れてやって来た。
「左右で押さえ込むぞ!
私がナイフを奪う!」
「「 はい!! 」」
「君、怪我してるではないか!
ゆっくりと、そうだ。
慎重に放してくれ」
騎士たちが押さえつけて、声をかけたリーダーがナイフを奪うと周辺から拍手がされた。
体の力が抜けて助けに来た彼に寄りかかると、腕や背中の箇所が赤く服が染まっていた。
タンカーが運ばれると乗せられるようで、マティルダは気圏がなくなると馬車から降りてハロルドの所へー。
「ハロルド!聞こえる?
マティルダです!
貴方が助けてくれたから無事でした。
ありがとう、ハロルド」
タンカーの上で怪我をした腕を縛られているなかで、意識朦朧でも彼女の声が頭に響く。
「あ……、マティ。……ルダ」
「喋らないで、もう大丈夫!
お医者様が診てくださるわ」
「申し訳ないのですが、治療したいので、会話はここまでにして下さい」
「マティルダ、君が居ても仕方ないんだ。
助かったよ。ありがとう」
追ってきたアドニスが、マティルダとハロルドの両者に声をかける。
「君はー。
俺の知って…いる。
人では……ないが。
婚約、おめでとう。
幸せに、なって……くれ」
途切れ途切れの言葉だが、マティルダの幸せを祝ってくれる。
「あ、りがとう。
貴方も、怪我を治して。
助けてくれて、感謝します」
何度も礼の言葉をかけられて、彼は昔から変わらない性格を喜ぶ。
『助けてよかった。
最期に人として、良いことが出来たのだから…』
ハロルドは、騎士たちに応急手当をされて運ばれてゆく。
「さぁ、行こう!
最後まで終わらせよう。
国民が待っているよ」
ハロルドとマティルダは、これが最後の会話となる。
彼女の立場を考えて迷惑にならないように、他人の振りまでしていた。
マティルダは彼の気遣いに声をつまらせて、気持ちを確り持とうとしていた。
メアリー王女の振るまいが、犯人の行動を遅らせる事ができた。
だが婚約者や兄たちからは、コッテリとパレード後に絞られるのだった。
その手には血のような真っ赤なワインが、グラスの中で跳び跳ねて踊っていた。
「や、やったぞー!!
王太子の馬車が襲撃された!」
「そんなに喜ぶな。
周りから変に思われる」
「静かに、冷静になれ。
ん?ちょっと、待て。
何だか、様子がおかしい」
飛び出した男を後追いした者が止めに入って、もみ合ってナイフが光輝くのが反射する。
「誰かが邪魔したようだ。
あれは、どこの誰だ!」
「奥にいる客たちが、騒ぎに窓際にくるぞ。
これ以上、口を開くな。
誰かに聞かれたら、我々が疑われる」
3人は沈黙して深刻な表情は、心配しているように他人には見えたようだ。
「ご覧になりまして、なんと恐ろしいことでしょう」
「アドニス王太子殿下が襲われたの?」
「どうも、婚約者のマティルダ様みたいよ」
野次馬のツレの男性から話を聞き、ご婦人たちが噂をしている。
会話を聞くと、やっぱり隣国から来たからと憶測を話し合う。
「不発に終わったが……。
まぁ、ああして考える者が増えてくれたらそれで満足しよう」
「やった事は無駄ではない」
「ざんねん会でも、我が家でしますか?」
「「カードでもしよう!」」
「私に勝たせろよ。
ここまでしたのに、無駄骨だったんだからな」
勘定はツケでそのまま階段を降りて、悪の根元は悪びれもないようだ。
彼等が去った席は、野次馬の貴族たちにすり変わっていた。
「見て、見まして?
アドニス殿下が、マティルダ様を抱き締めてますわ!」
「襲われてはないよう。
私も誰かに、ああして貰いたい」
「貴女、不謹慎ですよ。
でも、素敵でしたよね。
私も見ているだけで、マティルダ様になった気分になりドキドキするわ」
そのうち主人との恋話になり、呆れて旦那連中は葉巻を吸っていた。
王族たちの馬車は、その場に止まる。
何が起きたか訳の分からない沿道の人々。
「馬車が突然止まっているぞ」
「どうしたのかしら?」
だんだん不振がり騒ぎだすのを、騎士たちはそんな人々に声かけして落ち着かさせる。
「バシッン!うっー!!」
上から押さえ込むハロルドは、犯人のナイフを持つ右手を両手で押さえ込む。
邪魔されて空いた左手で、むちゃくちゃに彼を殴り付けている。
「誰か!!
すぐに、彼を助けなさい!」
マティルダが叫んでもメアリーが余計な事をした為に、クシャミをしながら事件現場に走って向かっている。
「アドニス、コチラからでは見えにくいです。
安否確認をしに行きたいわ!」
「行っても、周りを混乱させるだけだ。
彼は私たちの命の恩人。
ここで大人しく見守ろう」
ハロルドは自分がどうなってもいいと、なにも考えずに力の限り押さえる。
「王族のせいで、家族がバラバラになったんだ。
お前には関係ないじゃないか!早く、俺を離せー!」
ナイフがハロルドの肩や腕に刺さり、所々から赤い血が流れている。
取り押さえているのに集中して、彼には痛みを感じていない。
「色々あったのは君だけではないはずだ。
王族にキズでもつけてみろ!
命はないぞ!
なぁ、自分を大切にしろよ」
説得を試みる顔の額には、汗が滴り落ちてくる。
顔色も青白く変化してきた。
「ハロルド!!」
見張りの彼が、数人の騎士たちを連れてやって来た。
「左右で押さえ込むぞ!
私がナイフを奪う!」
「「 はい!! 」」
「君、怪我してるではないか!
ゆっくりと、そうだ。
慎重に放してくれ」
騎士たちが押さえつけて、声をかけたリーダーがナイフを奪うと周辺から拍手がされた。
体の力が抜けて助けに来た彼に寄りかかると、腕や背中の箇所が赤く服が染まっていた。
タンカーが運ばれると乗せられるようで、マティルダは気圏がなくなると馬車から降りてハロルドの所へー。
「ハロルド!聞こえる?
マティルダです!
貴方が助けてくれたから無事でした。
ありがとう、ハロルド」
タンカーの上で怪我をした腕を縛られているなかで、意識朦朧でも彼女の声が頭に響く。
「あ……、マティ。……ルダ」
「喋らないで、もう大丈夫!
お医者様が診てくださるわ」
「申し訳ないのですが、治療したいので、会話はここまでにして下さい」
「マティルダ、君が居ても仕方ないんだ。
助かったよ。ありがとう」
追ってきたアドニスが、マティルダとハロルドの両者に声をかける。
「君はー。
俺の知って…いる。
人では……ないが。
婚約、おめでとう。
幸せに、なって……くれ」
途切れ途切れの言葉だが、マティルダの幸せを祝ってくれる。
「あ、りがとう。
貴方も、怪我を治して。
助けてくれて、感謝します」
何度も礼の言葉をかけられて、彼は昔から変わらない性格を喜ぶ。
『助けてよかった。
最期に人として、良いことが出来たのだから…』
ハロルドは、騎士たちに応急手当をされて運ばれてゆく。
「さぁ、行こう!
最後まで終わらせよう。
国民が待っているよ」
ハロルドとマティルダは、これが最後の会話となる。
彼女の立場を考えて迷惑にならないように、他人の振りまでしていた。
マティルダは彼の気遣いに声をつまらせて、気持ちを確り持とうとしていた。
メアリー王女の振るまいが、犯人の行動を遅らせる事ができた。
だが婚約者や兄たちからは、コッテリとパレード後に絞られるのだった。
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