198 / 207
第8章
23 暗躍とパレード
しおりを挟む
王宮の敷地内でも、目立たない北の端に小さな屋敷が建つ。
ここは、王が貴族たちと狐がりをする時に食事や休憩をする。
普段使わなければ閉鎖してあり、そんな人気のない場所で密会する者たちがいた。
「実行犯から、我らまで足がつかないだろうな。
危ない橋は渡りたくない」
「ご安心をー。
奴は、もう病気で長くない。
五年前の干ばつで、家族とバラバラになり自暴自棄になっている」
「クッ、笑ってすまない。
よくそんな者を探し当てたな。
死ぬのが怖くない者ほど、怖い者はない」
シーツのかけられた椅子を払いのけて座ると、もう一人は窓の外を様子見していた。
「素性の知れぬ田舎貴族が、実は隣国の王弟の娘だって信じられるか?
陛下は、我らをバカにしている」
「そんな娘を、未来の王妃なんて誰がさせるか。
パレードで命までとは取らぬが、傷物になって頂こう」
扉付近に立っていた人は、薄ら笑いをして軽く頭を下げておねだりをする。
「彼女がダメになったら、我が娘を後釜にしたい。
王妃になったら、このお礼は必ずや致す」
部屋の端と端で離れている二人は、返事もせずにニヤリと目だけ細める。
娘を頼む彼に、賛同してるのかしていないのか。
曖昧な態度をして、保身をしているようにしていた。
「当日は高みの見物だな。
久方ぶりな楽しい余興で、気分が高揚して眠れなくなりそうだ
」
「私たちの結び付きを、他人に知られないよう気を付けよう」
「そろそろ、時間をずらして出ようか。
誰かに出会っても、気晴らしの散歩で通すようにしよう」
最後に椅子に座った彼が、元に戻さずにシーツを床に落としたままでいた。
一人一人この部屋から出て、やがて部屋は人の姿が消える。
王のお膝元に国中から観光客が集まり、人と人の人だかり。
混乱して怪我でもしそうで、騎士たちは緊張をもって人の流れを誘導する。
「閣下、全員集まりました」
「皆、よく聞いてくれー!
見て分かるように、ひとつ崩れると大事故が起きる可能性がある。
怪しい人物がいたら、躊躇せずに声をかけるようにしろ!」
「騒いだり反抗したら、捕まえても宜しいですか?」
部下の一人が上司に確認すると、彼はキリッと表情を強めて頷き公言した。
「一瞬のミスで、犯罪は小さくもなり大事にもなる!
各自の判断になるが、捕まえても違っていたら謝罪すればいいのだ!」
パレードで使用される大通りの左側を、まだ若いが任されたジョージが馬に馬上から命じていた。
父のマイヤー伯爵が、反対側の国王が座る右側を受け持つ。
パレード中に何か起きたら、マイヤー伯爵家の重大な責任になるかもしれない。
「気を引き締めろ!
平民に対して、過度な態度をとるなよ。
お祝い事で集まっているのだから、穏やかに楽しくパレードを終わらせようしよう。
皆の検討を期待する!
では、配置に着くようにー」
彼が反対側を見ると、既に父の方は整然と騎士たちが平民たちの人の波の前に立っていた。
ゴタゴタして配置についてない、自分の未熟な部隊につい失笑してしまう。
建物の上から、同時期に笑ってワインを飲んでいる人影。
「父親と比較しては可哀想だな。
ここからでも分かる穴だ。
狩りにするのは罠を仕掛けて置かないと、フッフフフ…」
「あまり飲み過ぎるなよ。
本番はまだだし、酔っ払ったら後悔するぞ」
こう言っても、右手にワインボトルを持ってグラスに注ぐ。
「おーっとと、勢いいいな。
お前も酔ってるだろう。
ワインが溢れてしまうぞ!」
「ハハハ、どんな阿鼻叫喚がここまで聞けるか。
マイヤー伯爵も気の毒に、息子の失敗でどうならやら」
「それだけでは終わらん。
息子の嫁は、ブルネール侯爵の娘だ」
「名前は、サラ嬢だったよな。
エドワード殿下の婚約者候補の筆頭だったのに、マイヤー家に嫁ぐなんて運がお悪い」
パーン、パーンと乾いた音が空の上で音を立てていた。
パレードの始まりを知らせる花火があげられる。
「おおー、始まった!」
「宴の始まりだ。
せっかくの平民に媚びるパレードを、陛下たちには、暫し楽しんで頂こう」
三人は声を弱めてヒソヒソと会話をしては、気持ち悪い笑い声をしている。
離れた場所で客たちの様子を見ていた従業員は、その態度に心証を悪くし給仕していた。
どこで何時のタイミングで、マティルダをどんな風に襲うのだろうか。
ゆっくりと走る馬車に乗り、王族たちが沿道に集まる人々に手を振りながら声援に応えている。
ここは、王が貴族たちと狐がりをする時に食事や休憩をする。
普段使わなければ閉鎖してあり、そんな人気のない場所で密会する者たちがいた。
「実行犯から、我らまで足がつかないだろうな。
危ない橋は渡りたくない」
「ご安心をー。
奴は、もう病気で長くない。
五年前の干ばつで、家族とバラバラになり自暴自棄になっている」
「クッ、笑ってすまない。
よくそんな者を探し当てたな。
死ぬのが怖くない者ほど、怖い者はない」
シーツのかけられた椅子を払いのけて座ると、もう一人は窓の外を様子見していた。
「素性の知れぬ田舎貴族が、実は隣国の王弟の娘だって信じられるか?
陛下は、我らをバカにしている」
「そんな娘を、未来の王妃なんて誰がさせるか。
パレードで命までとは取らぬが、傷物になって頂こう」
扉付近に立っていた人は、薄ら笑いをして軽く頭を下げておねだりをする。
「彼女がダメになったら、我が娘を後釜にしたい。
王妃になったら、このお礼は必ずや致す」
部屋の端と端で離れている二人は、返事もせずにニヤリと目だけ細める。
娘を頼む彼に、賛同してるのかしていないのか。
曖昧な態度をして、保身をしているようにしていた。
「当日は高みの見物だな。
久方ぶりな楽しい余興で、気分が高揚して眠れなくなりそうだ
」
「私たちの結び付きを、他人に知られないよう気を付けよう」
「そろそろ、時間をずらして出ようか。
誰かに出会っても、気晴らしの散歩で通すようにしよう」
最後に椅子に座った彼が、元に戻さずにシーツを床に落としたままでいた。
一人一人この部屋から出て、やがて部屋は人の姿が消える。
王のお膝元に国中から観光客が集まり、人と人の人だかり。
混乱して怪我でもしそうで、騎士たちは緊張をもって人の流れを誘導する。
「閣下、全員集まりました」
「皆、よく聞いてくれー!
見て分かるように、ひとつ崩れると大事故が起きる可能性がある。
怪しい人物がいたら、躊躇せずに声をかけるようにしろ!」
「騒いだり反抗したら、捕まえても宜しいですか?」
部下の一人が上司に確認すると、彼はキリッと表情を強めて頷き公言した。
「一瞬のミスで、犯罪は小さくもなり大事にもなる!
各自の判断になるが、捕まえても違っていたら謝罪すればいいのだ!」
パレードで使用される大通りの左側を、まだ若いが任されたジョージが馬に馬上から命じていた。
父のマイヤー伯爵が、反対側の国王が座る右側を受け持つ。
パレード中に何か起きたら、マイヤー伯爵家の重大な責任になるかもしれない。
「気を引き締めろ!
平民に対して、過度な態度をとるなよ。
お祝い事で集まっているのだから、穏やかに楽しくパレードを終わらせようしよう。
皆の検討を期待する!
では、配置に着くようにー」
彼が反対側を見ると、既に父の方は整然と騎士たちが平民たちの人の波の前に立っていた。
ゴタゴタして配置についてない、自分の未熟な部隊につい失笑してしまう。
建物の上から、同時期に笑ってワインを飲んでいる人影。
「父親と比較しては可哀想だな。
ここからでも分かる穴だ。
狩りにするのは罠を仕掛けて置かないと、フッフフフ…」
「あまり飲み過ぎるなよ。
本番はまだだし、酔っ払ったら後悔するぞ」
こう言っても、右手にワインボトルを持ってグラスに注ぐ。
「おーっとと、勢いいいな。
お前も酔ってるだろう。
ワインが溢れてしまうぞ!」
「ハハハ、どんな阿鼻叫喚がここまで聞けるか。
マイヤー伯爵も気の毒に、息子の失敗でどうならやら」
「それだけでは終わらん。
息子の嫁は、ブルネール侯爵の娘だ」
「名前は、サラ嬢だったよな。
エドワード殿下の婚約者候補の筆頭だったのに、マイヤー家に嫁ぐなんて運がお悪い」
パーン、パーンと乾いた音が空の上で音を立てていた。
パレードの始まりを知らせる花火があげられる。
「おおー、始まった!」
「宴の始まりだ。
せっかくの平民に媚びるパレードを、陛下たちには、暫し楽しんで頂こう」
三人は声を弱めてヒソヒソと会話をしては、気持ち悪い笑い声をしている。
離れた場所で客たちの様子を見ていた従業員は、その態度に心証を悪くし給仕していた。
どこで何時のタイミングで、マティルダをどんな風に襲うのだろうか。
ゆっくりと走る馬車に乗り、王族たちが沿道に集まる人々に手を振りながら声援に応えている。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる