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第8章

23 暗躍とパレード

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    王宮の敷地内でも、目立たない北の端に小さな屋敷が建つ。
ここは、王が貴族たちと狐がりをする時に食事や休憩をする。 
普段使わなければ閉鎖してあり、そんな人気のない場所で密会する者たちがいた。

「実行犯から、我らまで足がつかないだろうな。
危ない橋は渡りたくない」

「ご安心をー。
奴は、もう病気で長くない。
五年前の干ばつで、家族とバラバラになり自暴自棄になっている」

「クッ、笑ってすまない。
よくそんな者を探し当てたな。
死ぬのが怖くない者ほど、怖い者はない」

シーツのかけられた椅子を払いのけて座ると、もう一人は窓の外を様子見していた。

「素性の知れぬ田舎貴族が、実は隣国の王弟の娘だって信じられるか?
陛下は、我らをバカにしている」

「そんな娘を、未来の王妃なんて誰がさせるか。
パレードで命までとは取らぬが、傷物になって頂こう」

扉付近に立っていた人は、薄ら笑いをして軽く頭を下げておねだりをする。

「彼女がダメになったら、我が娘を後釜にしたい。
王妃になったら、このお礼は必ずや致す」

部屋の端と端で離れている二人は、返事もせずにニヤリと目だけ細める。
娘を頼む彼に、賛同してるのかしていないのか。
曖昧な態度をして、保身をしているようにしていた。

「当日は高みの見物だな。
久方ぶりな楽しい余興で、気分が高揚して眠れなくなりそうだ


「私たちの結び付きを、他人に知られないよう気を付けよう」

「そろそろ、時間をずらして出ようか。
誰かに出会っても、気晴らしの散歩で通すようにしよう」

最後に椅子に座った彼が、元に戻さずにシーツを床に落としたままでいた。
一人一人この部屋から出て、やがて部屋は人の姿が消える。

  
    王のお膝元に国中から観光客が集まり、人と人の人だかり。
混乱して怪我でもしそうで、騎士たちは緊張をもって人の流れを誘導する。

「閣下、全員集まりました」

「皆、よく聞いてくれー!
見て分かるように、ひとつ崩れると大事故が起きる可能性がある。
怪しい人物がいたら、躊躇せずに声をかけるようにしろ!」

「騒いだり反抗したら、捕まえても宜しいですか?」

部下の一人が上司に確認すると、彼はキリッと表情を強めて頷き公言した。

「一瞬のミスで、犯罪は小さくもなり大事にもなる!
各自の判断になるが、捕まえても違っていたら謝罪すればいいのだ!」

パレードで使用される大通りの左側を、まだ若いが任されたジョージが馬に馬上から命じていた。
父のマイヤー伯爵が、反対側の国王が座る右側を受け持つ。
パレード中に何か起きたら、マイヤー伯爵家の重大な責任になるかもしれない。

「気を引き締めろ!
平民に対して、過度な態度をとるなよ。
お祝い事で集まっているのだから、穏やかに楽しくパレードを終わらせようしよう。
皆の検討を期待する!
では、配置に着くようにー」

彼が反対側を見ると、既に父の方は整然と騎士たちが平民たちの人の波の前に立っていた。
ゴタゴタして配置についてない、自分の未熟な部隊につい失笑してしまう。
建物の上から、同時期に笑ってワインを飲んでいる人影。

「父親と比較しては可哀想だな。
ここからでも分かる穴だ。
狩りにするのは罠を仕掛けて置かないと、フッフフフ…」

「あまり飲み過ぎるなよ。
本番はまだだし、酔っ払ったら後悔するぞ」

こう言っても、右手にワインボトルを持ってグラスに注ぐ。

「おーっとと、勢いいいな。
お前も酔ってるだろう。
ワインが溢れてしまうぞ!」

「ハハハ、どんな阿鼻叫喚がここまで聞けるか。
マイヤー伯爵も気の毒に、息子の失敗でどうならやら」

「それだけでは終わらん。
息子の嫁は、ブルネール侯爵の娘だ」

「名前は、サラ嬢だったよな。
エドワード殿下の婚約者候補の筆頭だったのに、マイヤー家に嫁ぐなんて運がお悪い」

パーン、パーンと乾いた音が空の上で音を立てていた。
パレードの始まりを知らせる花火があげられる。

「おおー、始まった!」

「宴の始まりだ。
せっかくの平民に媚びるパレードを、陛下たちには、暫し楽しんで頂こう」

三人は声を弱めてヒソヒソと会話をしては、気持ち悪い笑い声をしている。
離れた場所で客たちの様子を見ていた従業員は、その態度に心証を悪くし給仕していた。

どこで何時のタイミングで、マティルダをどんな風に襲うのだろうか。
ゆっくりと走る馬車に乗り、王族たちが沿道に集まる人々に手を振りながら声援に応えている。
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