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第8章

15 余計な助言

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  次期王太子妃として王宮で暮らしながら、マティルダは学んでいた。
彼女は座学は完璧であるが、貴族の令嬢だったが社交の中での皮肉的な会話は皆無だった。

「そんな回りくどく、遠回しに注意をするんですか?」

「ハッキリ言うと、相手に角が立ちます。
さりげなく話して、相手に分からすのが必須ですわ。
ウィットにとんだ会話は、頭の回転の早さを感じて尊敬されるのです」

「……、ムズイ。
いいえ、難しいですね。
無口で大人しくしておいたら、墓穴を掘らない様にします」

あまり使わなかった扇を、最近は持ち始めて口元を隠す。

「やり過ぎてはいけません。
静かすぎると、他人が変にマティルダ様の人柄を想像します」

王太子妃でも大変なのに、王妃になったらどうなるの?
貴族だけでなく、全国民の注目を一身に浴びる。
それを気にもせず、いつも微笑みを絶やさないで生きないとならない。

『幼いアドニス様の様に、私も引きこもりになりそう。
うわぁーん、今から破棄は無理だよね。
彼のこと、好きだしーい』

目をキョロキョロ動かして、頭の中がグルグル回り落ち着きがない。

「その顔をやめてください!
ふ~う、そうですね。
場数を踏んで、徐々に慣らしていくしかないです。
最悪は他人に振りなさい」

「いいのですか?
なんだか、卑怯者になった気分ですわ」

「真剣に考えないで、その場で陽気に楽しむ。
特にパーティーは、刹那的な出会いを求める堕落な人も多いのです」

斜め上の先生の教えに、彼女は思考がついていけなくなる。

「マティルダ様は隣国では、それなりに社交はされてましたのでしょう?
どうして、そんなに頭が固いのですか?
適当に交わして、誤魔化せば宜しいのですよ」

「どうしてって!
お父様や王妃様が、庇ってくれていたからです。
こんなんなら、少しでも頑張れば良かったですわ」

話を聞き訳がわかりると、お茶をしながらマナーレッスンにしましようとその件は後回しにされる。
しばらくするとマティルダのもとに、小物を卸している商人が彼女に扇をたくさん持ってあがるのだった。

    王都の主だった名所や広場を、王族たちが馬車で回る予定のパレード。
この後に、貴族たちを招待しての晩餐会がきらびやかに行われる。
招待状やパレードの警備の為に、日程は延びて初夏になってしまった。

「夏なの!?
酷暑にでもなったら、お化粧が剥がれたりしたらどうしますの?」

父の宰相からパレードの日時を聞かされて、婚約者に伝えてくれと丸投げされていた。

「真夏ではないし、初夏ならまだ気候は爽やかだろう。
汗だくにならないし、顔は判別できるから安心していい」

「パレードが決まってから、そんなに何に時間がかかるのよ」

裏方の苦労を知らずに呑気なもんだと、ロバートは生まれながらの王女様に苦笑いをする。

「警護をする騎士たちが、道の経路を調べているんだ。
ガラの悪い者も居ますから、それに露店商にも商売を控えて貰わないといけません」

「馬車でサッと道を通るだけで、そんなに大勢の方が警備しますね」

「ゆっくりと走らせるんだ。
こんなお祝いでないと、国民は間近で王族たちの姿をお見せできない。
一般の平民にも王族に親近感を抱いて頂くのが、今回の目的でもあるんだよ」

婚約者の詳しい説明に納得する。

「深く考えてなかったわ。
ゆっくり馬車を走らせると、誰かがそれを妨げる事もあり得るのね。
警護を厳重にしたり、進路を確保しなくてはならないのか」

「理解してくれたか。
だから、それを整えるまでに時間がかかるんだ」

もっと深い問題もあり、王族にいい思いがない人が襲う可能性もある。

『父上の考えすぎかと思ったが、もしメアリーが暴漢に襲われたら……。
無事にパレードを終わらせなくてはいけない』

花が咲いたようは笑顔を、自分に見せてくれる可愛い婚約者。

「私たちは、守られて生きているのね。
私も、危機管理を持たないと。
ねぇ、ロバート。
もし、暴漢が悪さしたらその人はどうなるの?」

「王の通る道を邪魔するんだ。
そんな不届きな人は、最悪はこの世から消されるかもね。
とにかく、君は何もしないで大人しくしてくれ。
国民に好印象を与えてくれれば良いんだからね」

彼はイヤな予感がしたから、この話をしたんだと後から思い出す。
自分の婚約者が、まさかここまで突拍子な行動をするなんて思わなかった。
人にここまで迷惑をかけるとは、メアリー自身もそう思わなかったのである。

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