【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第8章

14 救いの手

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 毎日犯した罪を懺悔ざんげして、困った人々に神に変わり手を差しのべる。
別々の修道院に席をおいて、昔は伯爵の身分でそれなりに贅沢ぜいたく謳歌おうかしていた母子。
一生涯、ここから出れないと諦めて5年間を過ごしていた。

「アリエール、よくお聞きなさい。
この度、王太子アドニス殿下とご婚約されます。
また、隣国に嫁がれたエリザベス王妃が男子をお産みになりました」

「院長様、それは喜ばしい出来事が続きました。
神様の思し召しでしょうか」

アリエールは優しい笑みで、前で机の手紙を持ち話す人に答えた。
質素な灰色のシスターが着る服に袖を通していた。
昔に着ていた物は、絹の布地に手編のレースがふんだんに使われた華美かびなドレス。
腰までの手入れされた美しい髪は肩までに切りそろえて、貴族の令嬢だった面影おもかげはなかった。

「ある方から、貴女の罪を恩赦おんしゃするよう働きかけてくれました。
修道院に来てたての頃は、なじめずに毎日文句を言っていましたね」

「……、院長様。
ご迷惑をおかけしました」

彼女の今が本当の姿か、それとも作られたものか。

「いいえ、この生活は厳格で自由はありません。
神を敬い、人にほどこしをする。
自我を抑えなくてはならない。若い貴女には辛かったでしょう」

笑みから目を大きくして、眉をひそめて心情を面に表す。

「はい、院長様。
何故どうして、あんな事をしたのか。
自制が出来なかったのです。
愛していた人を、崖から落とそうとしていた。
それは、命を落とす可能性があったのに…」

ドレスの裾を握りしめているのが、院長から座っていても見えていた。

「人は時にー、自分でもわからない事をするものです。
大なり小なり罪を犯します。
この私だってありました」

話を終えると、彼女はアリエールに手にしていた手紙を渡す。

「この方が、貴女を救ってくれました。
アリエール、感謝して残りの人生を歩みなさい。
二度と戻ってこないでね」

手紙の紋章を見て驚いた。

「サンダース家の紋章。
お父様がー、私を助けてくれたの?!」

「それは、どうでしょうか ?アリエール、手紙をよく読んでみなさい」
 
なにかを匂われて院長は、アリエールの直感的な考えを制した。
同時期に、母親カーラもこの話し合いをしていたのだ。
後日、二人はサンダース子爵の屋敷に身を寄せることになる。

 
    その頃マティルダは、アドニスと伴い未来の義父にお礼を述べていた。
そこではメアリーや王妃も、彼女の話を聞いていて一緒に喜んでくれている。

「お陰さまをもって、子爵の所へ戻ったようでございます。
本人たちは、一生修道院暮らしと思っていたそうです」

「そうだろう。
殺人未遂はかなりの重罪だ。
お主のもと家族でなかったら、余もけして助けなかった。
本来は、えこひいきなるからな」

王の言葉に無言で深く頭を下げて、申し訳なくなり心苦しさを感じてしまう。

「お父様、マティルダが可哀想ですわ。
二人はキチンと償っていたから、修道院の責任者も承諾されたのでしょう」

娘のメアリーは、マティルダに恩をする父の物言いが気に入らなかった。

「貴方、この子の言うとおりですわ。
マティルダは、エリザベスに良くしてくれたと手紙に書かれてました。
将来は、家族の一員になるのです」

嗜める妻が、このような態度を気になっていた。
これは、子供のアドレスやメアリーも感じていたのだ。

「これは、言いすぎたな。
マティルダ嬢、すまなかったな」

国で1番偉い方は、ただの小娘
に軽くだったが頭をペコッと頭を下げてきた。
素直な反応は、三人の子供たちに確実に受け継れている美徳であろう。

「陛下、気にしておりません。正しいことを言われてます。
同じ罪を犯したものは、悪ければ死罪や国外追放です。
心より感謝しております」

陛下に丁寧に礼を伝えて、他の方々にも頭を下げるのを忘れない。

「これで晴れやかな気分で、君もパレードに参加してくれるな。
内緒で私が君のドレスを用意したんだ。
気に入ってくれると嬉しい」

「まぁー!いつの間に…。
エドお兄様は、女性を喜ばせる術を学びましたの」

妹の反応は母の王妃も同じであり、三人の中で感情が欠如して心配だった。

「恋をして人並みに、相手に対しての感情が芽生えたのね。
幼い貴方を思い出すと、マティルダには感謝しかないわ。
これからも、アドニスをお願いします」

母親として引き籠もりになった次男を理解できずに、王妃としての多忙を理由に逃げてしまった。
子育てに失敗したのを、認められなく、自分の心の弱さを知る。
マティルダの元婚約者の彼も、その弱さに悪の道に引き込まれたのだ。
未来の義母は息子を救い出した彼女を、今度は恩返おんがえしのつもりで手を差しのべようとしていた。


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